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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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キュリオ

「相変わらずだね、砕音」
 集まったメッセージを振り分けて準備をする砕音の前に、キュリオが現れた。守護天使だが、すでに霊体となっており、その体は風景が透けてみえていた。
 彼は生前は、砕音のパートナーだった。
「そうだ。一応、キュリオに言っとくことがあった」
 砕音はラルクに抱きつきつつ、キュリオに言った。
「俺、この人と結婚するから」
「……っ!! そっ、そんな事、許さないよ!」
「おまえの許可とか関係ない」
「関係なくないだろう?!」
 しかし、その間に黒崎 天音(くろさき・あまね)が割って入り、砕音に言う。
「これ、一応用意してきたけれどサインするかな?」
 天音が出したのは、婚姻届の用紙だった。
 空中に衝撃波が走り、婚姻届がビリビリになった。ポルターガイストでキュリオが破ったのだ。
「……」
「……」
 無言でにらみあうキュリオと砕音。
「そんな事もあるかと思ってね」
 天音が懐から、婚姻届をもう一枚出した。
 ふたたびポルターガイストが、用紙をビリビリにする。
「幸い、ここにもう一枚……」
 しばらく、婚姻届登場とポルターガイストによる紙吹雪の連鎖が続く。
「あれ、砕音は?」
 キュリオが気付くと、砕音はとっくにラルクとどこかに消えていた。天音が悪びれた様子もなく言う。
「婚姻届も尽きたし、これを見てくれないかな」
 天音は携帯電話で撮ったウゲンの写真を見せる。
「知ってる?」
「……見たこと無いと思うけど。誰、これ?」
 天音がウゲンについて説明しても、キュリオには心当たりないようだった。
「知らないのなら良いんだけど……それにしても君に対しても興味は尽きないな。随分と自分勝手な男らしいけれど」
 天音は霊体のキュリオをじっと見る。コンジュラーの彼には、その姿はハッキリと見えた。

 少し離れた廊下の陰で、憲兵科大尉灰 玄豺(フゥイ・シュエンチャイ)がその様子を見張っていた。キュリオの動きを監視しているようだ。
 だが、彼をさらに見張る者がいた。鬼院 尋人(きいん・ひろと)だ。
(向こうが山犬なら、こちらも番犬だ。互いの守るべき主があるだろうが絶対に引かない)
 尋人の頭に、雪豹の耳が現れている。超感覚で様子を伺っているのだ。
 以前「スズキ」という偽名で尋人たちと同行した大尉は、信用できない。
 よくみると灰は、何かを入れた封筒を隠し持っているようだ。
(あの形状は書類か? でも今時、PDAや携帯電話にデータを入れる訳でなく、現物を持ってくるなんて……)
 尋人には、大尉が何らかの機会をうかがっているようにも思えた。
 やがて大尉が、砕音のいる方へと移動していく。尋人も彼から目を離さないように、後を追う。
(オレはずっと砕音先生を疑って来た。でも今は……うまくは言えないけど。罠の講習会、真面目にちゃんと受けておけばよかったかな……)