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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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失言



 ザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)は教導団員としての任務を帯びて、使節団に参加していた。
 大帝がなぜミツエを欲しているのかを探る、という任務だ。
 しかしザウザリアスには、どこでどうやって情報を収集するか、という具体的なプランはなかった。
(しょうがないわ。思い切って、大帝かその側近に話してみましょう)
 彼女は、この任務は帝国側から不審を抱かれぬように進めなければならない事を、失念していたか、軽く考えていたようだ。
 ザウザリアスは大帝のいる宮殿に向かった。しかし当然と言えば当然。話もできずに門前払いになった。
 館に戻ったザウザリアスは、使節団と共に滞在する参事官にして従龍騎士バルレオスに頼む事にした。
 参事官でもあるバルレオスは怪訝そうに聞いた。
「一介の使節団員が、どのような理由で大帝陛下の御前に行くと言うのだ? もしも重大な物であれば、上に通す事も考えよう」
 彼はシャンバラ人に対する態度は偉そうだが、根は親切な男だった。
「……大帝が横山ミツエを欲しているのは、彼女が持つ伝国璽(でんこくじ)の為かしら?」
「でんこく? 何かな、それは?
 横山ミツエと言えば、たしか豪快かつ卑怯という素晴らしい性格の持ち主、と探しだした資料にあったが」
 どうやらバルレオスは今回の任務に際して、シャンバラの事をある程度、下調べしてきたようだ。
「そんな性格が素晴らしいの?」
 ザウザリアスは思わず聞いた。
「資料にそう記述されていた。私個人の感想ではない」
「なら、話を戻すわ。良雄が大帝を倒す事が出来る、いわば【矛】なら、ミツエは【盾】なのではないの?」
「大帝陛下を傷つける事ができる者など、この世にはない。その時点で、それは意味のない喩えである」
 バルレオスは絶対の存在として大帝を信奉しているようだ。
 ザウザリアスはそっと息をついた。
「……いずれにせよ、大帝にとってミツエはかなりの重要人物なのは確かよね?」
「うむ、我らが誉れ高き龍騎士団が、彼女を確保する為に動いているのだ。大帝陛下の深遠なるお考えは私の想像できるようなものではないが、そうなのではないかと類推はしている」
 それを聞いて、ザウザリアスは本題に入る。
「ならば……ミツエを差し出せば、シャンバラの統一を認めてくれるかしら? 大帝はシャンバラの統一など歯牙にもかけていないように見えるわ。それよりもミツエの方が重大なのではないかしら」
 バルレオスは彼女を上から下まで、ねめつけた。
「一兵卒である貴様に、交渉権などあるように思えぬが」
 正確に言えば、兵卒ではなく士官候補生なのだが、それでも士官候補生にすぎない。
「そうした権利はなくても、ミツエとシャンバラ統一とを天秤にかければ、出す答えは決まっていると思うわ。
 だから、その事を大帝に伝えて欲しいのよ。良い返事がもられれば、ロイヤルガード総隊長の羅英照に報告するから、上に話も行くのよ」
 バルレオスの表情が見る見る険しくなる。
「羅英照だと……シャンバラ教導団の金鋭峰(じん・るいふぉん)団長の懐刀にして信奉者か。くだらん!」
 バルレオスはザウザリアスの腕を強引に引っ張って、使節団西側代表テティスのもとに怒鳴りこんだ。
「貴様らは女王の見舞いと称して、下卑た交渉や詮索をする工作員を我が帝国に送り込んでいるのか?!」
 シャンバラ女王を見舞いに訪れた使節団に、スパイがまぎれこんで諜報活動を行なった、と明らかになれば大問題となる。
 これにはテティスや特使の砕音、選帝神の白輝精などが取り成しに入った。
「立場的に、教導団員なら気になる事を聞いただけじゃないでしょうか。
 教導団として特に調査など行なっていないからこそ、帝国側のあなたにそんな話をしたのではないですか?」
 特に選帝神が出てきた事で、バルレオスは「どうやら私の早合点だったようですな」とあっさりと矛を収めた。彼にとっては選帝神も絶対の存在なのだ。
 その後バルレオスが出ていくと、白輝精はテティスたちににっこりと笑いかけた。
「貸し1だわよ」

 なお、ザウザリアスは秘密を不用意に漏らした為、シャンバラ帰国後に教導団から「教導団員及びその協力者や同盟者を危険にさらす可能性がある、重篤な違反行為を犯した」として訓戒処分とされた。
 ここで処分が軽かったのは、帝国の選帝神みずからが穏便に事を治めた事を受けて、の事である。事と次第によっては放校処分にもなりかねなかったのだから、ザウザリアスは運が良かったのだろう。