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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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第五章 円盤防衛・3

 ブラッディ・ディバインへ資金援助をしている、ルメンザ・パークレス(るめんざ・ぱーくれす)は、戦艦アンサラーの艦橋で、この戦闘を見物していた。
 自由に使ってもいいという機晶姫25人は、15人を攻撃に向かわせ、残りを自分達の護衛に残している。
「どや、どんだけもつか、賭けでもせんか?」
 持ちかけると、話し掛けた相手は笑った。
「最終的に全滅する前提で言っているんだね」
 揶揄の言葉に、ルメンザも笑い飛ばす。
「地球の契約者は、忌々しいくらい、しぶとくて手強いけぇの。
 ――それとも、そーゆうのははがいいか?」
「まさか。人形状態の機晶姫など、ただの駒だよ」
 そう言って肩を竦めた相手は、ズィギル・ブラトリズだった。
 彼も、高見の見物なのだ。
 ルメンザは、その言葉に微妙な違和感を感じ取る。
「何じゃ? 人形じゃない機晶姫もおるんか?」
「さあ? 試すつもりもないし」
「ズィギル様」
 オペレーターの一人が、彼等を振り向いた。
「敵側の誰かが、オープン回線で、ズィギル様を呼んでいます」
「ほう?」
 ズィギルは瞳を薄めて、コントロールパネルに歩み寄る。
「私に用かい?」
「まあね。
 噂の御仁がどんな人なのか、ちょっと興味があってね」
 通信の相手は、黒崎天音だった。
 彼も円盤の護衛についていたが、ズィギルの姿が見えないので、オープン回線で呼び掛けてみたのだ。
 反応が返るかどうかは賭けだったが。
「噂?」
「アレナ・ミセファヌスを五千年間、空京に封印していたという、なかなかいい趣味の人だとね。
 アレナを苛むのはそんなに楽しかったかい?」
 明らかな挑発だった。
 ズィギルはふん、と笑う。神経質な笑みだなと、ルメンザは思った。
 通信相手が誰かは解らないが、嫌いなタイプなのかもしれない。
「随分と、色々知っているみたいだね。
 アレナちゃんは、そんなにおしゃべりな娘だったっけ?」
「へえ? 君の前では、随分無口だったんだね」
 互いに、何かを含んだような口調だ。ルメンザは、面白そうにそれを見ている。
「――そうだね。ハムスターみたいに小さく震えて、それは可愛かったものだよ。
 君は、今のアレナちゃんと親しいのかな?」
「それは、想像にお任せするよ」
 ズィギルは、脅すように僅かに声をひそめた。
「君を壊したら、アレナちゃんはどんな顔をするだろうね……」
「そう、すこぶる変態さんなんだね」
 その口調からは、呆れたような、蔑むような感情が伝わってくる。
 ズィギルは答えなかった。
 ただ、薄気味悪く笑みを浮かべただけだった。


「あっ」
 イスナーンの操縦席で、天音はしまったと呟いた。
「どうした」
 パートナーのドラゴニュート、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が訊ねる。
「通信を切られちゃった。ここからが本題だったのに」
「……前振りを念入りにやりすぎて、怒らせるからだ」
 ブルーズは溜め息を吐く。
「……まあいいか。今はこっちに集中しないとね」
 敵は既に月基地にいるのだ。
 この作戦はスピード勝負である。自分はその円盤の護衛に就いたのだから、気にはなってもここまでとした。
 オープン回線を使っていたので、ズィギルがアンサラーにいることは、もう味方に伝わっているだろう。
 天音は円盤の護衛に専念することにする。
 ハーティオン機同様、天音も円盤後方からの攻撃に備えるが、円盤に張り付いて、対神スナイパーライフルによる長距離射撃の急所狙いで行く。


 円盤の護衛を担うイコンは、いずれ劣らぬ精鋭揃いだ。
 天音の、士気高揚の為の『鼓舞の歌』の援護を受けながら、円盤を護りつつ、その進路を確保する。
 

「全く、これだけの数、冗談でやったシミュレート以外で初めて見たぜ」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、半ば呆れた思いで呟いた。
 そのシミュレーションを組んだ本人、魔道書のロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)は、メモリーカードの状態で、グラキエス機、シュヴァルツⅡに接続されている。
「あれは本当に、冗談で作ったのですけどね」
 ロアはそう失笑した。
 まさか実戦で、あれ以上の敵と戦うことになろうとは。
「やれやれ……」
 すっかり副操縦席のシートに慣れた体を自覚しつつ、悪魔のエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が溜め息をつく。
 結局止めずにここまで付き合っている自分が、随分グラキエスに影響されたものだと思ったのだ。
「こんな戦場までお付き合いしているのですから、この見返りは相応のものをいただきますよ」
「それはどうかな」
 グラキエスは肩を竦める。
 いつもの、戦闘時の危うさがなく、いっそ無邪気なほどだった。
 イコンでの戦闘は彼にとって相性がよく、生身で戦う時よりも、全力で戦うことができた。
 生死がかかった戦いの中でも、それを楽しいとすら感じられる。
「悪いが、死ぬ気はしない。
 ロア、レーダーの感度を最大にしてくれ。エルデネスト、サポートを頼む」
「お任せを、エンド」
「やれやれ」
 肩を竦めたエルデネストも、本当は、グラキエスと共に戦うイコンでの戦闘に、面白さを感じているのだ。
「それにしても機晶姫の数が多いな。コンテナごと破壊するか」
 半分以上がアルカンシェルに向いているという報告だったが、仮に四分の一にしたって100機以上なのだ。
 武器を詰め込んだフルアーマーのような武装コンテナだが、破壊すれば、機晶姫はそれを捨てて生身で乗り込んで来る。
 円盤は常に移動しているし、外に向けて開いている入り口は無いから困難だろう。
 一旦振り切れば、生身の機晶姫では追い付くこともできないだろうとは思うが、機晶姫を巻き込むようにコンテナを破壊しなくてはならないだろう。
「正面からの攻撃には、他が対処するようだな。
 俺達は遊撃で仕留めて行く」
 作戦を伝えて、レーザーバルカンを構える。
 ワープ移動で奇襲を仕掛け、ビームサーベルとソードブレイカーの二刀流で、一撃必殺を狙った。
「さて、何機撃墜できるか、腕試しだ」



「折角の宇宙戦だ。
 戦闘データの蓄積、解析、習熟! めいっぱい稼いでくよ!」
 そもそも宇宙での活動を目標の1つに掲げていた十七夜 リオ(かなき・りお)にとって、この戦闘における意義は大きい。
 チームを組む柊真司と共に、ジェファルコンを駆って戦う。
「右のプラヴァーを狙って行く。援護を頼む」
 ゼノガイストの真司から、メイクリヒカイト‐Bstのリオへ指示が入る。
「了解っ、行くよ、フェル!」
 パートナーの強化人間、フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)へ叫ぶ。
「空中戦なら慣れていますが、宇宙ですから、データが無く、全くの未知、です」
 計器をチェックしながら、強化人間のヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が真司に言った。
「それは向こうも同じだろ。
 機晶姫は元々ここに居たらしいが、イコンに乗ってるのは鏖殺寺院の奴等なんだから」
「はい。ここまでの戦闘データから、敵イコンに、特に脅威的な性能はありません。
 確実に行けば、問題はないです。ただ……」
「ああ、数、だな」
 1対1なら、確実にこちらが強い。
 だが向こうは、それを補って余りあるほどの数を揃えて来ている。
 加えて、機晶姫達には自我というものが殆ど無いらしく、攻撃に遠慮がなかった。
 弾切れになれば、体当たりで自爆も厭わない。
 リオ機がレーザーマシンガンで援護する横合いから、真司機がプラヴァーを攻撃する。
「早い!」
 予測していたのか、ビームサーベルの攻撃は躱され、プラヴァーは真司機から距離を置いて撃って来る。
「でも、こっちの方が早いもんっ!」
 リオ機、フェルクレールトが、マシンガンを連射する。
「行けっ、フェル! アイツの足、止めてみせてよ!」
 もう一機のプラヴァーが援護に入り、リオ機に攻撃を仕掛けて来る。
 レーダーを見ていたリオは叫んだ。
「後ろからも来るっ! フェル! 歴戦の立ち回りってやつだっ!!」
 フェルは背後の機晶姫を撃ち抜く。

「こっちだって、まあ、早いぜ!」
 真司機のビームサーベルは、最初に狙ったプラヴァーではなく、その向こうで援護に入ったもう一機を斬り捨てた。
 残ったプラヴァーは、大きく縦に旋回し、他の二機との合流を図る。
「集まるつもりだなっ!」
「馬鹿じゃないな」
 リオと真司が、それぞれ呟いた。連携を取るつもりなのだ。
「させないよ!」
 ミサイルロックは、済ませてある。
 射出されたミサイルは、その一機に全弾命中した。
「撃墜っ!」
 やったあ! とリオは叫ぶ。
「この分なら、集中攻撃作戦プログラムはいらないねっ!」
「じゃあ……このまま撃ちまくっても……いい?」
 フェルクレートの言葉に頷く。
 真司機との二機の全武力を一点集中する作戦は、後が無いので余程の強敵相手に使うつもりだったが、数は脅威でも、一機あたりの強さは、そこまでする必要はなさそうだ。
 返って、余力を出し惜しみして戦う方が拙いと感じた。
「このまま! 全力で行こう!」
「了解」
 真司機もそれに同意した。



 宇宙空間は、空中や水中と同様に、360度を使った戦闘になるが、それらとは感覚が違う、と思うのは、重力が存在しないからだろうか。
 上下も左右もないはずなのだが、やはり、人間の感覚として、方向という感覚は重要だ。
 だが、機晶姫にとっては、それほどでもないのだろう。
「やはり下からも来ましたね」
 ヴァルキリーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が言った。
「そのようだ」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)達のジェファルコンは、あらかじめ、円盤下方からの襲撃に備えていた。
「ミサイルポッドの制御は貰ったぜ」
「了解、こちらはライフルで行きます」
「それの照準もこっちで合わせる。
 敵が多い。操縦に集中してくれ」
 レイナは操縦と戦闘を、静麻は射撃補佐と各種計器の操作を担当するが、今回は、二基のミサイルポッドでの攻撃も静麻が担う。
「マルチロックオンを掛けて、一掃を狙うか」
 エネルギーの残量にも注意していなくてはならない。
 最前線、というよりは、突出した状態である円盤周りは、本陣であるアルカンシェルとは大きく距離を開けている。
 弾切れしたところで、簡単に補給に戻れそうもない。
「エネルギー切れでフルボッコ、なんて勘弁だからな。一定量を切ったら離脱するぜ」
 しかし単機で戻るのは、それはそれで危険そうだ。
 その前に、月面に到着できればいいのだが。
「機晶姫から攻撃! 受けます!」
 躱せば、円盤が被弾する。レイナはシールドを構えた。
 シールドがミサイルを受け、衝撃が来る。
「次のミサイルにロック!」
 静麻の声に、レイナはシールドを上げ、ビームライフルを撃った。
 静麻は機晶姫にミサイルポッドのロックを合わせる。
「こいつは、忙しい戦いだ」
 グラキエス機や天音機などの、味方機からの援護も来るが、それでも足りないほどの敵の量だ。
「弱音を吐いてる暇もないぜ」
 ライフルの照準を合わせながら、そうぼやいた。



 戦闘の当初こそ、無重力という感覚に戸惑っていた桜葉達だったが、やがてその感覚にも慣れた。
 信長などは、
「無重力も慣れれば簡単じゃな!」
とすら言ってのけている。
 六天魔王は、ビームアイやマジックカノンで、周囲の敵を砲撃する。
 敵イコンの多くも同様の攻撃で、円盤周りは砲撃戦となっていた。
「円盤が被弾しないようにしないと……」
 ビームやレーザーが飛び交う中、忍は、もしもの場合は、装甲も厚く、巨大な自機が、盾になって攻撃を受けることも視野に入れている。
 サブパイロットとして計器類をチェックしながら、円盤の進行方向にも注意を払った。
「信長。前が塞がれそうだ」
「よし、道を開ける!
 撃つまでに時間がかかる! 味方は、敵に気取られぬように援護せよ!」
 後で皆にフォローしておかないと……と、その命令口調に、忍は心密かに思う。
 忍機は、可能な限りの最速の動きでヴリトラ砲を構えるが、この武器は溜めに時間がかかる。
 仮に気付かれて逃げられても、それで前方の道が開かれることになるのなら、それはそれで成功なのだろう。
 ただその間無防備になってしまうので、味方機の援護に頼るしかない。
「この世界で使うに相応しい武器よ。
 喰らうがいい!」
 宇宙がナラカの一部であるからなのか、チャージは驚くほど早く終了した。
 信長は、前方にヴリトラ砲を発射する。
 黒い龍のような砲弾が、円盤の前方を貫いた。




「――戦闘宙域を突破します」
 円盤内で計器を確認する高天原鈿女の声に、待機する者達の中に、安堵の空気が漂う。
 彼等にとってはこれからだ。ようやく、始まる。

 鏖殺寺院のイコン、機晶姫の満ちる戦域を突破して、目の前にあるのは、月面と、そこにある基地だけとなった。
 ダイヤモンドの騎士が翻って進路を変え、龍は再び月軌道へと向かう。
 役目を終え、再び戦域に戻るのだ。
 彼は、月基地には降りない。
 紫月唯斗らもまた、同様に、円盤を送った後、月と敵陣の間に立ちはだかった。
 今度は最後の壁となる。
「こっから先は、通行止めだ」

 月面基地に降下しながら、円盤の中、たいむちゃんは、飛び立つダイヤモンドの騎士の龍を見つめた。
「かつおぶし君!」
 たいむちゃんの通信が、耳に届く。
「行って来るね!」
 ダイヤモンドの騎士は、月面基地を振り帰る。
「行ってらっしゃい、たいむちゃん」
 答えるダイヤモンドの騎士の言葉が、かつおぶし君のものであったことに、メフテルハーネで背後を預かる、南臣光一郎は気がついた。




「月基地に到着。内部に突入します!」
 円盤に先駆けて、護衛のイコン達も着地、ライオルド・ディオンがアルカンシェルに報告する。
「了解。お気をつけて」
 通信を受けた一条アリーセが、それに答えた。