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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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第四章 アルカンシェル防衛・2

 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)とパートナーの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)は、とにかく数の多い機晶姫を相手取る。
 アルカンシェル防衛ラインに味方イコンと共につき、突撃して来る武装コンテナの機晶姫達を迎えながら、ベアは首を傾げた。
「敵イコンはあんまアルカンシェルに接近して来ねーな?
 機晶姫の方はうんざりする程多いが。
 こっちのイコンを誘って旗艦から引き離す作戦か?」
 全く来ないというわけではないが、前に出てくる敵イコンが少ない、という印象は感じる。
「強敵な敵のイコンは、味方の主力イコン部隊の人達が何とかしてくれると思いますし。
 私達は、サポートを頑張りましょう!」
「ふっ、宇宙でロボットに乗って戦うとか、燃えるシチュエーションだなっ!」
 勿論、お気楽にしていられる状況ではないのは解っているのだが、けれどきっと、そういう心の余裕も、こんな戦いには必要なのだ。
 ソアはそんなベアを見て少し笑った。

 武装コンテナを装備した機晶姫も、イコンと分類するならやや小型な方だが、二人の乗るメカ雪国ベアも、小型のイコンに分類する。
 小回りが利くことを生かして、機晶姫の攻撃を躱しつつ、ソアはマジックカノンの狙いを定めた。
「行きますっ!」
 射程内に入った敵機晶姫のコンテナを狙う。
 コンテナが爆破する寸前、機晶姫が武装を解き、脱出した。
 背中に小型の推進機を付け、アルカンシェルに向かって飛ぶ。
「うわ、しまった」
 ベアが舌打ちした。
 捕捉できたのは一瞬で、イコンに乗っていては、生身の機晶姫を追えない。
「ある意味、コンテナを破壊すればするほど、味方側が危険になってしまいますね……」
 ソアは仲間の身を案じた。
 アルカンシェル内にも、白兵戦に備える精鋭が多く残っている。
 大丈夫だと信じてはいるが。
「もっと奥の方で戦えば、アルカンシェルまで到達できないかも。
 あとは機晶姫を、コンテナごと爆破できねえかな。
 負傷でもすれば、戦力にならねえだろうし」
 挌闘戦で行ってみっか! と、メカベアは機晶姫に突撃する。

「喰らえ、マフラーパーンチ!」
 ナックルをコンテナに叩き付ける。
 武器庫のようなコンテナが潰れ、爆破するが、その背後から別の機晶姫が撃ってきて、メカベアは被弾した。
「あーっ! 俺様のマフラーがっ!」
 右のマフラーが、バチバチとショートしている。
「一旦戻りますか!?」
「んな時間はねえ! 今は少しでも多く奴等を叩かねえと!」
 ベアは即座に否定した。
「何のこれしき! マフラーはもう片方残ってるぜッ! 俺様はまだ戦える!」
 うっすら涙目なのを隠して、ベアは尚奮い立つ。
「そうですね! 少しでも多くの敵を、倒さないと……!」
 戦えなくなるまでは、戦う。
 月面作戦を成功させる為に、精一杯尽力しようと、ここに来たのだから。



 敵機晶姫は、なるべくアルカンシェルから離れたところで撃墜しなくてはならない。
 敗北を悟った機晶姫は、コンテナを捨てて、アルカンシェル内部に侵入しようとするからだ。
「でも、護る為には離れ過ぎてもいかんわけじゃな。難しいのう」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)のパートナー、魔道書の名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)は、むむむ、と唸った。
「あくまでも役目は旗艦の護衛ですからね。
 補給にも戻らなくてはならないと思いますし」
 真人は答える。
「しかし敵の数が極端に多いのう」
「ええ。ひとつひとつ狙っていくような場面ではありません。
 少しでも数を取らなくてはいけませんし、面攻撃で行きます。
 サポートはよろしくお願いします」
「うむ。任せよ!」
 白き詩篇はこくりと頷く。
「こういう状況の時の為の、重装甲砲撃機です。
 エネルギーシールドもありますしね。
 パラスアテナ・セカンドの火力、そう簡単には止められません」
 旗艦の防衛、ということで、補給も容易に出来る状況だ。
 存分に行きましょう、と真人は言った。
 敵の数が多いので、詳細な位置確認も必要とせず、派手に撃ち込む。
 爆音がひっきりなしに響き、壁のような爆炎に、敵機晶姫達の行く手は阻まれる。



 時折、視界の端に漂う機械の残骸が、太古の昔に起きた、ニルヴァーナとの戦争を伝える。
 佐野 和輝(さの・かずき)グレイゴーストは、それらデブリに成りすまして、戦域を漂っていた。
 周囲の戦闘のデータを収集し、リアルタイムでアルカンシェルに送信する為だ。

「お〜、初めての宇宙だ〜♪ 魔法使ってないのに浮かぶ〜」
 人見知りの強い、強化人間のアニス・パラス(あにす・ぱらす)も、操縦席内で思わず浮かれたが、
「っと、遊びで来てるわけじゃなかったね」
と気を引き締めた。
「和輝がお仕事モードになったから、アニスもお仕事モードにならないと……」
「今回の仕事は『観測』だ。しっかり情報をまとめてくれよ」
「まっかせて! 観測計器に異常なしっ」
 敵ばかりではなく、味方もまた、被弾し、撃墜されて行くが、グレイゴーストは動かず、黙々と観測を続ける。
 と、レーダーを見ていたアニスがはっとした。
「ミサイルが来るよっ! 真上!」
「ちっ、やはり無理があったか!」
 漂う無傷のイコンを敵は、デブリという認識はしなかったのだ。
(戦闘体勢!)
(間に合わないよっ! 被弾、くるっ)
 無防備で漂っていたグレイコーストは、砲撃への対処が遅れる。
(右翼に被弾!)
(推進は!?)
(だいじょぶ!)
(よし、離脱する!)
 和輝は素早く持ち直し、次撃へ備える。
 接近して来る焔虎へ、レーザーバルカンを撃って牽制しつつ、その場を離脱した。

(撒いたか?)
(……みたい)
 恐らく、こっちを追うよりも近くに、別の獲物がいたのだろう。
 和輝は肩を竦めて周囲を検索する。
「これはこれで、少しはデブリらしくなったか……。
 じゃ、次の観測ポイントを探す。観測計器は?」
「異常なしだよっ」
 計器を確認し、オールグリーン、とアニスは笑った。



「敵は、どこで補給をしているのでしょう?」
 魔女のクリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)の言葉に、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)は首を傾げた。
「アンサラーだろ?」
「500もの機晶姫の武装コンテナですわ。
 あの戦艦だけでは、間に合わないのでは……」
「補給するつもりなんざ無いんだろ。コンテナは使い捨てだ」
「機晶姫がコンテナを装備する前に、コンテナを破壊することができれば、機晶姫は脅威ではなくなる、と思ったのですが……」
「まあ、それはそうかもしれないが」
 戦域に出てきている機晶姫は全て、既にコンテナを武装している。言ったところで仕方のない話か。
「ああ、そうか、月だな……」
 これらの機晶姫は、月面で発見されたのだ。
 今自分達が向かおうとしている基地とは勿論違う場所だろうが、そこに、武装コンテナも格納されていたのだろう。
 そこでコンテナに内包され、武装した状態で、こうして出撃している。
「だが、今からそこを探したところで、もう遅い。
 目の前の機晶姫を対処する段階だ」
「そうですわね」
 ヴァリアは頷く。
「とはいえ、オレ達じゃ戦力としては今イチか……。
 ま、機体はすごいヤツに乗ってるんだ。武器もでかいしな。
 とにかく、アルカンシェルを防衛、味方機の援護に専念する」
「了解いたしましたわ」
 二人の乗るホーエンシュタウフェンは、威力の大きなプラズマキャノンを搭載している。
「しかし、プラズマキャノンは何度も使える武器ではございませんから、使い所はよく考えませんと」
「そうだな」
 虎の子の武器を抱えつつ、まずはレーザーライフルで様子見る。



「コンテナを武装解除した機晶姫は、イコンでは捕捉できない。
 だが、みすみすアルカンシェルへの侵入を許すわけにはゆかぬ」
 そこで、パワードスーツ隊である自分達、ベルリヒンゲンの出番だ、と、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は、パートナーのアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)天津 麻衣(あまつ・まい)神矢 美悠(かみや・みゆう)の3人に言った。
「パワードスーツで出んの?
 でもあたしら、コンテナ脱いだ機晶姫より弱いと思うんだけど」
 パワードスーツなんて、着たこと殆ど無いじゃん、と、美悠は消極的だ。
「隠れて待ち伏せすりゃ大丈夫だろ」
「アンゲロだって激弱じゃん!」
 安請け合いするアンゲロに、美悠は声を荒げる。
「でも、敵はイコン用の武器しか持ってねえんだろ?
 脱いじまったら、手ぶらじゃねえか。攻撃すんのは、ケーニッヒがやりゃあいい」
「てゆーか、あたしらが生身用の武器持ってないじゃん! パンツァーファウスト撃つの!?」
「まあまあ」
 麻衣がなだめる。
「確かに、機晶姫の侵入を許すわけにはいかないのだし、できるだけやってみましょう。
 私も頑張って支援するわ」
 麻衣が言った。
「そう言う麻衣は、外出らんないじゃんよ!」
「何だ、怖いのかよ?」
「そういうことじゃないわよ、馬鹿っ! 解ったわよ、その作戦で行くわ!」
 からかうアンゲロを怒鳴り付け、美悠がそう言って、
「決まりだな」
とケーニッヒは頷いた。
 美悠が場所を選び、パワードスーツ隊は、アルカンシェル外壁に張り付き、敵機晶姫を警戒する。

 思っていたよりも更に、機晶姫の数は多かった。
 アルカンシェルは、巨大な要塞である分、外面に幾つもの通路がある。
 閉じていても、注意して見ればどれかには気付く。
 来た、と合図を受けたケーニッヒが、機晶姫を押さえつけようと飛び出した。
 素早く気付いた機晶姫が振り返り、身構える。
 ケーニッヒはぎょっとした。
「! 機晶キャノン……!」
 発砲されたキャノンを、寸でのところで躱す。
「ブリッジ! 機晶姫が突入した! 第三隔壁!」
 機晶姫はそのままアルカンシェル内部に侵入し、ケーニッヒは、慌てて艦橋に連絡を入れる。
『了解。対処に向かいます!』
 すぐさま応答が返ってほっとした。
「作戦立て直しよ! やっぱ武器持ってたじゃん!」
「だなー」
「だが、これで向こうのことが少し解った。次はもう少し上手くやれるであろう。
 要塞内にいる仲間達の負担を、少しでも減らさねば……」
 ケーニッヒは、視界の端の方に映る、味方の攻撃を掻い潜ってアルカンシェルに取り付こうとしている敵機晶姫を睨みつけた。



「宇宙用に調整しておいてくれ」
 出発前の調整で、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)からそう頼まれた時、一瞬だけだが、長谷川 真琴(はせがわ・まこと)の表情は引きつった。
 当然だ。真琴も宇宙は初めてで、しかも現時点でまだ行ってもいない。
「……解りました」
 だが、気を取り直した真琴は、そう頷いた。
 そうして、真司機は、円盤の出発と共に真っ先に飛び出して行ったが、途中で戻って来ないということは、整備はしっかり出来たのだろう。
 自分の腕に自信と誇りを持ってはいるが、やはり初めてのことで、不安を抱かないはずはない。

 出発前からここまで、怒涛の如き勢い、ようやく全てのイコンを送り出し、真琴達整備士全員が、思わずほっと息を漏らした。
 機体をカタパルトへ誘導し、出撃の指示を出していた、真琴のパートナーの強化人間、真田 恵美(さなだ・めぐみ)は、最後の機体が出撃した瞬間、両手を床について座り込んでしまった。

 ちなみに余談だが、隅の方には、更に力尽きたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が転がっている。
 特に彼等の整備を手伝っていたわけではないのだが。

「大体、整備オーダー事前に出しとけ、って言ったら、『宇宙用で頼む』とか、そのまんま過ぎるっつーの!」
 機晶姫のクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)も、どっと肩を落とす。
「クリス」
「そりゃオーダーに答えるのがこっちの仕事だけどさ。
 宇宙用の整備ってどんなんだ!」
「やり遂げたじゃないですか」
 ふふっと真琴は笑った。愚痴を零すことで、疲れを逃がしている。
 だが、そうやって力を抜くのも一瞬だ。
 いつ、何が起きるか解らない。
 作戦が終了して、全てのイコンが戻って来るまでは、終わりではないのである。
 真琴は、今回の任務の為に、移動整備車両キャバリエに、整備一式持ち込んでいる。万全の体制だ。
「イコンが一機残ってんな? あれは?」
 クリスチーナは、まだ出撃していないイコンを見て言った。
「パイロットの方が遅れているようですね」
「ふうん……?」

 通信機が鳴り響き、途端、全員の気が引き締まった。
 恵美はぱっと立ち上がる。
「――了解しました。
 恵美さん、一機、補給に戻ってきます。
 その後から小破が二機!」
「了解しましたっ」
 恵美は誘導の為に走る。クリスチーナが眉を寄せた。
「早速壊したんかよ。激戦だな……」
「はい。すぐに直せるレベルならいいのですが」
 パイロットは、すぐにでも再出撃したがるはずだ。
 真琴は、通信をパイロットに繋ぎ、詳しい破損状況を聞く。
 それでも、戻って来れる状態なのは良かった、と思う。
 皆、無事に帰還してください、と、作戦の度に、飽きることなく、祈る。
 その為に、自分がやることは、いつも同じだ。――いつも同じように、完璧に。