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【ダークサイズ】続・灼熱の地下迷宮

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【ダークサイズ】続・灼熱の地下迷宮

リアクション

「思った通りなのだ。これなら、フレイムたんとアイスたんの温度差にも耐えられそうなのだ」

 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は、試しに【ファイアストーム】をかけてみた台座が劣化しないのを見て、こくりと頷いた。

「何のつもりかと思ったが……なるほど。リニアモーターカーの部品に使おうというわけだね」

 ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)は、リリの行動にようやく合点がいったようで、『亀川』が最初に座っていた石材質の台座を、色気を込めて人差し指でなぞった。
 その直後、

「あつっ」

 ララは小さくつぶやいて身体をビクンと反応させ、指を台座から離した。
 すぐ後ろで、ユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)が手で口を押さえながら、

「ぷぷぷ。ララちゃん、台座が予想以上に熱くて、びっくりしちゃったんだもん」
「フッ、君達が不用意に触って肌を傷つけぬよう、私があえて犠牲になったのさ」
「ぷぷぷー」

 指を咥えるララを見て、ユノはまたこみ上げてくる。
 リリはまたこくりと頷いて、

「今発掘中の超耐熱合金と併用すれば、リニアの完成は間違いないのだ。台座が冷めるのを待って、外に運び出すのだ」
「ところでリリ。外がずいぶん騒がしいようだが」

 ララが外の様子を見に、神殿の奥から入口に向かって歩く。
 ユノがそれを聞いて思い出し、

「そうだったんだもん! 今クマチャンが大変なことになってるんだもん!」

 三人が外へ出て見ると、ちょうどセレンフィリティがイレイザー・クマのスピードに文句を言っているところだった。
 リリはイレイザー・クマとダークサイズ幹部達の対峙を見て、

「ふむ、ダークサイズの戦闘力は申し分ないが、攻撃が当たらなくては意味がないのだ。リリたちで足止めをしてあげたいのだ」

 ユノがそれを聞いて、アイデアを閃く。

「まかせてっ。ララちゃん、モモちゃんの背後から、何かスキルを撃って欲しいんだもん」
「麗しのハニーの後ろから、だと?」

 ララは疑問に思いながらも、走りだしたユノに続いて駆ける。
 そしてモモの後ろに到着した後、ララはイレイザー・クマに【アルティマ・トゥーレ】を放つ。
 やはりイレイザー・クマはそれをかわすわけだが、ユノはお構いなしに手を振り、

「クマチャーン、こっちこっち! こっちだもん!」
「ユノさん? 一体何を……」
「モモちゃん、ごめんね!」

 キョトンとしているモモに謝りつつ、ユノはモモが身体に巻いていた布を破り、剥いだ。
 モモの白く、あられもない裸体がさらされる。
 黒いオーラを吹き出しながらユノの方を振りむたいイレイザー・クマだが、一瞬オーラの噴出が止まり身体が硬直する。

『今だあああああ!!』
「いやあああああ……」

 ダークサイズの怒号とモモの悲鳴が同時に響く。

「こらあー! モモちゃんの裸を攻撃に利用するなんて、けしからんですねぇ! もっとやれ!」

 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、ユノに文句を言いながら、顔は完全に緩んでいる。

「ひどいですー!」

 と、モモは涙を流しながら、神殿の中へ走っていく。

「ち、違うんだもんモモちゃん! ちゃんとフォローは考えてあるんだもんー!」

 ユノは【フレイムワンピース】を持ってモモを追いかけ、

「待てユノ。私のヴィーナスに着せるなら、これだろう」

 ララは密かに用意していた服を持ってさらに追う。

「しかし……どうなっているのだ。戦闘要員のほとんどが女ではないか……」

 リリは、男どもがモモの裸に見とれて攻撃を疎かにする心配をしてみたものの、そんなことはなかった。
 一斉攻撃に突撃し、イレイザー・クマの蹴りを【ナインライブス】で防ぐものの、その勢いで大きく後ろに退いた数少ない男子弥涼 総司(いすず・そうじ)は、

「何! モモのヤツが脱いだだと!? オレとしたことが、イレイザー・クマに集中して気付かなかったぜ。まぁ、あいつの残念な乳を見ても、オレは吐き気を催すだけで何も欲情しないんだが……つーことはイレイザー・クマ、いや、クマチャン! てめーは見たんだな? モモのパン・ツー・丸・見えを! YEAAAH! いや待てよ、そもそもあいつ、布を巻きつけてただけだったな。穿いてなかったのか? 穿いてたのか? どっちなんだ! イエスかノーか、答えてもらおうッ! クマチャンーッ!」

 総司は【チャージブレイク】で防御も顧みない攻撃態勢を取る。
 【天馬星座の闘衣】を纏うロドペンサ島洞窟の精 まりー(ろどぺんさとうどうくつのせい・まりー)が、【鳳凰の拳】【即天去私】【雷霆の拳】をまるで流れ星のように放った後、

「総司。まりーハ、モモサンヲ可哀ソウニ思ウカラ、コノ服ヲ貸シテアゲニ行ッテキマス」

 と、【ロンTワンピ】を出した。
 総司は、まりーの言動に驚き、

「お前がそんなことを言い出すとは……あの手のつけられねえ野性児がなぁ。成長したなぁ、お前も」

 と、人間らしさを手に入れつつあるまりーに、少しグッと来ている様子。

「よし、ここは食いとめてやるから、早く戻ってこい」

 まりーは頷き、

「コノ服、胸ガキツクナッテイタノデ、チョウドヨカッタデス」

 と、走り去る。
 総司はまりーを見送りながら、

「待てよ、サイズ大丈夫か? まりーはもうすぐHカップ、モモはどうみてもBに届くか届かないか……まぁいいか」

 総司は、イレイザー・クマに第二撃を入れるため、地を蹴った。




☆★☆★☆




 一瞬の隙を突いたダークサイズは、イレイザー・クマがスピードを生かせないように一気呵成に包囲して攻撃を始めた。

「悪いが容赦はしない。シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)……推して参る!」

 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)のパーティの中で、唯一落盤事故に責任を感じているシーマは、率先してイレイザー・クマとの近接戦闘に臨む。
 【狂血の黒影爪】の浸食に耐えうるかは分からないが、シーマは【肉体の完成】でステータス耐性を保険でつけ、【法と秩序のレイピア】で果敢に切り込む。
 イレイザー・クマはそれを【狂血の黒影爪】で受けつつ、同時に【行動予測】でクマードスーツの隙間を狙う裁と【ブラインドスナイプス】で死角を突く九十九の攻撃に対応し、それらを弾き返したかと思うと、ベアトリーチェが【光条兵器】を加えて二メートルの大剣と化した【ブライドオブブレイド】を振りおろす。

「ちぇすとおー!」

 レキは【エイミング】で【狂血の黒影爪】の破壊を狙い、チムチムも【サイドワインダー】で同じく爪の破壊を試みる。
 かとおもえば、中距離からはセレンフィリティの弾丸が飛んでくるし、ひっきりなしの攻撃で、イレイザー・クマはフットワークを封じられている。

「燃え上がれ私の小宇宙! 目覚めよ神の因子。我はイザナギイザナミより連綿と続く神の系譜たる大和の民!」

 と、祥子は【神降ろし】で魔力を極限まで高め、

「さーて、私のスキルが炸裂するのはいつかしら?」

 イレイザー向けの強力攻撃をいつでも放てる体勢を取っている。
 そんな中、

「あれっ? あれーっ!? 何で動かねえんだ!?」

 恭也は、

「パワードスーツにはパワードスーツだろ!」

 と気合い十分に備えて来た【パワードアーマー改】が全く稼働しないことに混乱している。

「おっかしいな、ちゃんとバッテリーは……空っぽだとー!?」

 バッテリーゲージを見て、また悲鳴を上げる恭也。

「何で? 何で? ちゃんと充電は……何だこれ」

 見ると、【パワードアーマー改】から見たことのないプラグがつながっている。
 コードの先を見ると、全身が漆黒に塗装されたクマードスーツに伸びていた。

「誰だー! 俺のバッテリー盗んだやつー!」
「我だ」

 叫ぶ恭也の前に、夜薙 焔(やなぎ・ほむら)が立っている。

「さあ、とっととそのポンコツを脱ぐのだ」
「ポンコツじゃねえ! おいちょっと、聞けよ!」

 焔は恭也の【パワードアーマー改】【パワードアーム改】【パワードレッグ改】【パワードバックパック】を手際良く取り外し、続いて持参のパワードシリーズをいじった黒いクマードスーツを着せる様は、さすがテクノラートである。

「何だよこれ!」
「クマードスーツ試作の第二号『クマードスーツー』だ。ちょうどパイロットを探しておった。これでイレイザー・クマと戦うのだ。良いデータがとれるよう、がんばるのだぞ」

 焔は飄々と言い放ち、恭也は『クマードスーツー』の中でぞっとする。

「おいこれ、暴走しねえだろうな」
「心配いらぬ。【狂血の黒影爪】は取りつけておらぬからな。二機のデータを元に、完成版クマードスーツを作るから、よろしく頼むぞ」
「俺、実験台じゃねえか……」
「曲がりなりにも相手はイレイザーなのだ、丸腰で戦う気か? おぬしのスーツは動かぬのだろう?」
「いや、お前のせいだろ」

 さらにクマードスーツーの上に、フィレ・スティーク(ふぃれ・すてぃーく)がぴょこんと飛び乗る。

「わたくし、恭也様の快適な戦闘をサポートいたしますでございます。【氷術】【光術】【至れり尽くせり】取り揃えておりますゆえ、何でもお申し付けくださいでございますです」
「じゃあ、俺のスーツにバッテリー入れてくれ」
「……れっつごーでございますですー」
「聞かねえんじゃねえか!」

 巻き込まれ事に慣れているのか、結局恭也はクマードスーツーで出撃する羽目になる。
 走る恭也の後ろから、焔の声が飛んでくる。

「ちなみに、戦闘が終わったらクマードスーツーは自動的に消滅する。あくまでクマチャン用のスーツだからな。巻き込まれぬように適宜脱出するのだぞー」
「おまえそれ、先に言えー!」

 恭也は力いっぱい叫びながら、イレイザー・クマへ突撃していった。





☆★☆★☆





「しくしく……」

 神殿の隅で、モモはむせび泣いている。

「モモサン、泣カナイデ。まりーノ服、気ニイラナイデスカ?」
「いえ……気に入らないというか……」

 まりーに【ロンTワンピ】を着せてもらったモモだが、総司が心配したとおりの結果になっている。
 身長140センチのSサイズであるに加え、胸元がぱっくり開いたデザインの【ロンTワンピ】。
 裾は短いわ胸元は垂れさがって中が見えてしまうわで、モモの精神に追加ダメージを負わせていた。

「さあモモさん? もう泣くのはおやめになって。やっと服がたくさん届きましてよ?」

 イレイザー・クマの攻撃で扇子を失って、とっとと戦線から離脱したネネが、フォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)と一緒にやってきた。
 フォルトゥーナはワンピ姿のモモを見て、

「あら、そんなカッコじゃさすがに哀れね。ちょうどよかったわ。いくつかパターンを持ってきたから、あなた好きなのを選びなさいな」
「ほ、本当ですか。私、やっと服が着れるんですね……」

 モモの瞳には、今度は嬉し涙が溜まる。
 フォルトゥーナは持ってきた服を出しながら、

「スク水でしょ、メイド服でしょ、ビキニに浴衣、ミニ丈のワンピースなんてどう? あなためったに着ないでしょ? 下着もあるわよ。見せブラとショーツのセットで、大人っぽさを演出してみたら?」
「……どうしてこんな、ニッチなものばかり……」

 フォルトゥーナのチョイスからは、モモをダークサイズの戦闘力とはまったく認識しない感覚がうかがえる。

「この浴衣、わたくし試着してもよろしくて?」

 なぜかネネまで、フォルトゥーナの衣裳を自分にあてがっている。
 ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が、持参したワンピースをモモに当ててみる。

「普通だけど、こういうかわいいのはどう?」
「ミスティさん、これじゃ一般人ですよ……」
「あらモモさん、それでいいじゃありませんか」
「あの、お姉さま。一応ダークサイズですから、せめてもう少しそれらしいものを……」
「もう、モモちゃんも戦ったりできる子なんだもん。ちゃんと属性防御つけてあげなきゃだめなんだもん」

 ユノはあくまで、自分の【フレイムワンピース】をモモにあてがう。

「ユノ。そんなもので、天使の魅力を引き出せると思うのかい?」

 ララは、モモを後ろから抱きかかえるように服をふわりと当ててみせる。

「さあ、私の守護女神。これを着てご覧」
「あの、ララさんこれ……【スペースセーラー服】ですよね……」
「そうだが、何か?」

 宇宙で流行っているとの話だが、その際どさは【フレイムワンピース】の比ではない。
 闇黒の耐性がつくらしいが、ちょっと動いただけで色んなところが見えてしまいそうだ。
 ネネも含め、全員の目が

(これだ……!)

 と光る。
 モモは皆を見渡し、

「ええと、他に服の案は……」

 と問いかける。
 全員異口同音に、

『ないよ』
「ええー!」
「困りましたねぇ〜。【スペースセーラー服】はあちしもうきうきしますが、モモちゃんのイケない場所が見えてしまうのは、賛同しかねる所ですねぇ」

 レティシアが、珍しくモモの露出を押さえるべきのような発言。
 モモはホッとして、

「で、ですよねレティさ、あ、おねぇさま」
「かといって、下着はあざとくなってしまいますしぃ。折衷案で水着を下着代わりにして、モモちゃんにはガマンしてもらうしかないですねぇ」
「水着ですか……下着よりはいいかもしれませんが……」
「動きやすさと防熱性を重視した、特別製のものをプレゼントしますねぇ〜」

 と、レティシアはどこからともなく粘液状の塊を取り出し、【ロンTワンピ】を剥ぎ取って投げつける。
 粘液はモモの身体にまとわりついて広がり、ちょうどスクール水着の形に収まった。

「えっ、ちょ、これ……!」
「今年の夏用に発注してようやく届いた、スライムスク水ですねぇ。あちきのスライムビキニとお揃いですよぉ〜」

 スライム工学の粋を集めたと言う、スライムスク水。
 モモの身体に密着して、微妙に水面のような揺らぎが見て取れる。

(……これだーっ!)

 全員目が輝く。
 モモは、何とかスライムスク水が脱げないかと身体を動かしながら、

「これ、ほんの少し透けてませんかー!? フォルトゥーナさん! さっきの普通のスク水かショーツでいいので……」
「ごめんなさい。今しがた、次元のはざまに消えていったわ」
「えええー!」

 ララがすかさず上に【スペースセーラー服】を着せる。

「あ、あの、何なんですかこの格好はー!」

 ネネはスライムスク水の刺激に耐えながら、セーラー服の裾を押さえる。
 レティシアは息を荒げて目が血走り、今にもモモに跳びかかりそうになっているし、ララは一生懸命自分を抑えつつ、

「ああっ、いけない。私の中の野蛮で醜い獣が目覚めてしまいそうだ……!」
「ララちゃん……じゃああんな服着せるの、やめとけばいいんだもん……」

 と、ユノがぽつりと言う。
 ミスティは普通のワンピースを抱えたまま、

(こうなると思ったから普通の恰好を用意したんだけど……最悪の結末を迎えてしまったようね……)

 静かにワンピースを畳み、しまった。