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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【決戦、アールキングVS契約者】1

 アールキングとの決着をつけるべく、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)ら一行はアールキングの根に取り込まれたグランツ教本部へと侵入していた。
 そこまでには様々な困難があった。だが、エリュシオン帝国軍やパラミタ国軍のイコン部隊、それに盟友たる契約者の友人達が、彼女を守ってここまで連れてきてくれたのだ。
 そこには、ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)夫婦の姿もあった。
 夫婦はどちらともエリザベートの事を思って作戦に参加した。
 核までの道のりの最中、ナナはエリザベートに空飛ぶ箒へ乗るように進言したが、エリザベートはそれを断った。なぜなら、彼女は自分の足で歩きたいと望んでいたからだ。そちらのほうがいざという時に動きやすく、なにかと利便が利くらしい。もちろん、箒を用意してもらっておくことについては、エリザベートも異論はなかった。むしろ感謝したぐらいだ。ただ、それはもしもの時の為にナナが操る非常用のようなものだった。
 ほどなくしてエリザベート達は、曲がり角にさしかかる。
 そこで彼女達を先導したのはシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)という若者だった。
「よーし、みんなー。今度はこっちだー。はぐれずについてきてくれよー」
 シャウラは自らの銃型HCにグランツ教本部の地図データを組み込んできていた。それだけでなく、元々その地図データの作成に最も貢献したのは彼だ。本部内の土地勘も、彼が最も得意だろうと思われていた。
「シャウラ、本当に大丈夫ですか?」
 ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)がこっそりと彼に訊く。
「ははははー。俺を誰だと思ってるんだー。シャウラ様だぜー? 大丈夫に決まってるじゃないかー」
 シャウラは渇いた笑いを浮かべながら答えた。
(それが一番、不安なんですけど……)
 ユーシスはこれまでの経験上、そんなことを思う。明らかにシャウラは緊張していた。
 だけど、決してシャウラを信用していないわけではなかった。何かと空回りもしてしまうことが多い軽薄そうなこの男だが、やるときにはやる男だ。事実、この時もしっかりと土地勘を活かし、根の張った道は遠ざけつつも、ルートを確保していた。
 そこにはルカルカ・ルー(るかるか・るー)達の貢献も大きかった。
「ふーむ……この先に行けたら、すげぇ近道なんだけど……」
 そんなことをシャウラが言うと、
「よーし、ここはじゃあルカに任せておいて、どいてどいてー」
 ルカルカ・ルーが我こそはと言ったように前に出た。
 それから何やらがちゃがちゃと壁に粘土のようなものを設置したと思ったら、次の瞬間にはスイッチ一つ、爆破している。ドゴーンッ! という音とともに大穴の空いた壁を、仲間達はぽかーんと見つめていた。
 そんなこんなで先に進んでいくと、やがて、ある開けた通路に差しかかる。
「ん……?」
 ルースがぴたりと足を止め、続けるように仲間達も足を止めた。
「どうしたですかぁ?」
 エリザベートが怪訝そうに彼らに尋ねた。
「エリザベート様、もしかすると――」
 ナナが彼女に答えようとした。
 その時である。
「来るぞッ――!?」
 ルースの裂帛した声と共に、根の影から無数の人影が姿を現した。
「グルゥゥ…………」
「ウウッ……! グガァァッ……!」
「こ、こいつらは……!?」
 ルースは驚きを隠せず、瞠目した。
 目の前にいたのは、かつて契約者達がこの本部に乗り込んだ時に戦ったグランツ教徒達だったのである。しかし、今はその面影はほとんど残されていない。あるのは、かろうじて四肢と肉片が固まっているだけというもので、大部分がアールキングの根に浸食されていた。
「むごいことしやがるぜ……!」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は毒づくように言った。
 事実、契約者達はその見るも無惨な姿になったグランツ教徒達の死体を見て、怒りすら感じていた。アールキング……。その、今は目に見えぬ先にいる邪悪な存在が笑っている。死体を弄び、そうして契約者達の前に立ちふさがらせることで嘲笑している。
 そんな風に、カルキノス達には感じられた。
「ひでぇよな……。くそったれめ……」
 夏侯 淵(かこう・えん)も同じように毒づく。
 しかし、今は――。そうしている間にも、腐死体となったグランツ教徒が近づいてこようとしていた。狙いはもちろん、エリザベートだ。カルキノスはルカの指示でエリザベートに変身した。そうすることで、敵の眼を欺こうという魂胆だった。
「そんで、夏侯淵、お前は……」
「わぁーってるって。言われなくってもよ!」
 そう言って夏侯淵は、用意していた星辰の籠手で、ある者達を呼び出した。
 それはイーダフェルトにいるはずのポムクルさん達だった。わーっと星辰の籠手から群がり出た彼らは、自分達がどこにいるかもよく分かっていないが、ともかく夏侯淵の指示でエリザベートの守りについた。そうすることで、簡易的な星辰結界も張られる。イーダフェルトから供給されるエネルギーが、各契約者達の武器に注ぎ込まれた。
 ついでに言えば、シャウラの盟友たるポムクルさん達も群がり出ていた。
「おお、お前たちは!?」
「ぴしーん!」「参上なのだー!」「怪獣はどこなのだー?」
 それぞれ思い思いのポーズを取るのは、宇宙刑事ポムクルさんという特殊なポムクルさん達だった。それは、シャウラの影響で宇宙刑事物の特撮が大好きになったポムクルさん達だ。
 彼らと共に、シャウラは宇宙刑事のポーズを取った。シャキーンっ、と様になるシャウラ達。腐死体が近づいてきたところで、シャウラはポムクルさん達とともに戦いの烽火を上げた。
「行くぜー! ユーシス! ダブル稲妻キーック!!」
「え、私もですか……!? キ、キ〜ック……」
 ユーシスは戸惑いながらも、シャウラと合わせて蹴り技を繰り出す。
 グランツ教徒達を吹き飛ばしたところで、シャウラはシュタッと地に降り立った。
「どうだ見たか! 宇宙刑事の実力を!」
「おー、なのだー」「さすがなのだー」「見事なのだー」
 ポムクルさん達はぱちぱちと拍手をする。
(もしかしてその宇宙刑事って……私も入ってるんでしょう……?)
 ユーシスは訊くのが怖くて、黙っていることにした。
 そうして宇宙刑事達が力を発揮していくうちに、契約者達と樹化したグランツ教徒達の死体は各地で戦いを繰り広げるようになる。ルースは魔銃でグランツ教徒の頭部を撃ち抜いて、そして言った。
「さて、やるか――!」
 戦闘開始の合図だった。