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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【イーダフェルト防衛戦】 2

 天空を翔る赤き疾駆の影――。
 十七夜 リオ(かなき・りお)が操るイコン、{ICN0005243#ヴァーミリオン}の影がそこにあった。
「さーて、フェル……。このまま連中は逃がしてくれると思うかい?」
 リオはサブパイロット用の操縦席から、自らのパートナーでありヴァーミリオンのメインパイロットであるフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)に尋ねる。
「――いいえ」
 フェルクレールトは冷ややかに答えた。
「敵の数は複数。それもかなり多いです。となれば、全てを撃ち倒すのは難しいでしょう」
 その目は画面越しに樹化した虚無霊達の姿を見据える。
「大切なのは、イーダフェルトへの侵入を防ぐこと」
「……そういうことだね」
 リオは笑い、フェルの言葉に頷いた。
 それから、自らの目の前にある操作盤(コンソール)を操った。操作盤の上を動く指先が、モニタにいくつもの画面を表示させる。
「V−LWSの制御計算をシューニャに代替、と。これでこっちは他に注力出来る」
「機晶支援AIのシューニャにですか? 大丈夫でしょうか……?」
 フェルは驚き、心配そうにリオに尋ねた。
 いくら高性能の支援プログラムとはいえ、やはりデータには限界がある。フェルはあまりそれを信用していなかった為、出来ればリオ本人にどうにかして欲しかったのだ。
 が、リオはお気楽なものだった。
「大丈夫大丈夫。これでもシューニャは優秀なんだから。ね?」
『もちろんです、マスター』
 画面に映る妖精型の支援プログラムがにこりと笑って答えた。
「むぅ……」
 フェルがそれに嫉妬の目を向ける。リオと仲良くしていいのは自分だけの特権とも思っているので、いくらプログラムとはいえ、他人がリオと仲良くしているところを見ると、あまり良い気分にはならなかった。
「ともかく――」
 リオは近づいてくる虚無霊達のほうへとヴァーミリオンを向けて、エネルギーを各部位に充填させた。それから、言った。
「長丁場になるよ、フェル」
「……了解です」
 フェルは答え、先ほどまでのシューニャに対する鬱憤を頭の片隅に追いやった。
 今はそんなことを考えている場合ではない。戦いでリオにも結果を見せなければ。その為には、敵を確実に撃ち落とすことが先決だ。

 ガシャンッ――。

 ツインレーザーライフルをヴァーミリオンに構えさせて、
「行きます」
「よし、行こう!」
 二人は一気に虚無霊のもとへと駆けていった。



「ハアアアァァァァァ――――ッ!!」
 クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)の気合いの声が響き、フォトンの手にする機晶ブレードの刃がゴーストイコンの体躯を横薙ぎに断ち切った。
 一瞬の間を置き、それから爆発するゴーストイコン。
 その爆風に巻き込まれぬように素早く距離を取ったフォトンの中で、サブパイロット席にいるセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)は思わず口笛を吹いた。
「ヒューッ……、やるねぇ、クローラ」
「まあな……」
 クローラはさしたる動揺も見せずにそう言った。
 彼の心の中にあったのは、目の前のゴーストイコンや虚無霊達だけではなかった。その心の中には、出撃前にエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に向けて問いかけた時のことがあった。

“君は、ヒトとしてアールキングを止めたいのか? それとも、イルミンスールの樹として……、世界樹として、彼を止めたいのか?”

 それに対するエリザベートの答えは実に単純なものだった。

“ふふっ、それはきっとどちらともですぅ”

「…………」
 クローラは思う。
 確かに……その通りだな。たとえいくらとも自分という存在が別の存在に重なり合おうと、そのどちらもが望んでいるからこそ、エリザベートはアールキングのもとに向かおうというのだ。イルミンスールは同時に、エリザベートにある種の共存を置いている。エリザベートは分かるのだろう。イルミンスールの心も、その痛みも……。
(ならば、俺は……)
 その痛みを、少しでも和らげるべく戦うだけだ。
 クローラはフォトンを動かし、他四機の部下イコン達に命令を下した。
「クローラから小隊へ。フォーメーションB。敵イコンの神殿区域への侵入を阻むぞ」
「あら……、やる気だね?」
 セリオスがのほほんと言ってのけた。
 しかしその間も彼は、操作盤を動かして周囲のゴーストイコンと虚無霊達の位置をクローラのモニタに送っている。次々と現れる敵情報を前に、クローラは瞳を細くした。
「まあな。もとより、神殿に奴らを近づけさせはしない。……神殿にいる部下達にもそう伝えておけ。小さな虚無霊達までは俺達では手が回らない。神殿に侵入したそいつらの処理は任せると」
「了解。任せといてー」
 すぐさま、セリオスから神殿に残っている部下達に命令が流される。
 クローラはその間にフォトンを動かし、ライフルを構えた。
(そう、もとより――)
 クローラは最初からその覚悟だ。神殿にも、グランツ教本部へと侵入しようとしているエリザベートにも、近づけさせやしない。何人も……誰であっても……。

 ――ドウウウウゥゥゥッ!!

 ライフルの光線が敵を貫き、ゴーストイコンが爆破した。その閃光を目にしながら、クローラは次なる敵のもとにフォトンの軌道を向けた。