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リアクション
リファニーを呼び覚ませ!2
「もういちど呼びかけて、ルシア」
美羽がルシアに言った。
「リファニー、お願い、帰ってきて!」
ルシアが枯れかけた声を搾り出すように叫んだ。両手を握り締め、恐ろしい姿のリファニーを直視する。濡れた瞳から涙が零れ落ちる。
全員の思いはひとつだった。リファニーよルシアの元へ帰れと。不意にリファニーが凝固したかのように見えた。唯斗がルシアの背後に立った。
「反応が薄い……? 仕方ねぇ、ちと危険過ぎるんでやりたくはなかったが……。
ルシア、許せよ!」
言うなりルシアの胸を鷲づかみにした。
「キャアアアアアアアアアーーーーー!!」
ルシアが不意を打たれて凄まじい悲鳴を上げ、振り向いて唯斗をひっぱたく。その瞬間。
漆黒の悪魔のような姿に亀裂が入った。その隙間から光が差し、次の瞬間音もなく爆発し、蒸散した。
「何をしてるのですかーーーーッ!!」
爆散したダエーヴァの中から、リファニーが駆けてきた。そのままの勢いで唯斗にグーパンチを浴びせ、唯斗はその場にひっくり返った。いつもの、以前のままのリファニーが息を切らし、そこにいた。
「ぜぇぜぇ……」
「……お帰り……リファニー……」
ルシアが細い声で言い、リファニーを抱きしめて声もなく泣く。
「……ただいま」
「お帰り!!」
その場の全員が唱和し、リファニーとルシアを取り囲む。英虎が不意にルシアに言った。
「ところで、ルシア、デコピンって知ってる?」
「デコ……ピン?」
英虎は右手をユキノの額の前にもってゆき、実際にやってみせる。
「っぅ!」
ユキノが目をしばたたかせる。
「これを、こうリファニーさんの額の前で……」
こう? と手を動かすルシアに頷く。
「あうっ!」
リファニーが額を押さえる。
「あはは、制裁はそのくらいで……リファニーさん、お帰り!!」
ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)はタマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)とともに、マンダーラのそばに歩み寄った。先の質疑で疑問のうち、大世界樹がリファニーを追う直接的な理由と、創生と世界生みについてはわかった。だがマンダーラ自身がどの程度までこちらに介入するつもりなのか、その部分が不透明なままだ。大世界樹がこちらの味方につくのか、あるいは光条世界の意思を引き継ぐつもりなのか。
「あたしとしては、かな〜り甘いんじゃないかと思わなくもないんだけど……。
大世界樹が光条世界の意思から、外れた行動する可能性ってあるのかしら?
『滅びと創世のサイクル』よりも、その先の世界に興味を持つかってことなんだけどね。
既に過去、世界の管理者さんはニルヴァーナが延命した事実を見逃してる気がするんだけど?」
マンダーラは肩をすくめた。
「僕は光条世界が定めたこのサイクルにおける大世界樹だ。だが、光条世界の意思全てに従っているわけじゃない。
僕は僕の範囲を超えることをする気はない。
今後の行く末は、世界の変革の当事者の行動の結果だから静観しているだけで、特に自分が干渉する気はないよ。
それに……かつて、ニルヴァーナとパラミタが延命を成した時は、かなりイレギュラーな状況だった。
少しの間、とはいえ光条世界を欺いたんだ。
それは異常な状況で、故に正常な出来事は無かった。
一方で、僕は彼らの身勝手さ、愚かさに怒りと絶望を感じたが――そう、それは僕と君たちの『性質の違い』というものなのだろうね」
「とりあえず、リファニーをオリジンに連れ戻す事には異存はないのよね?」
「もちろん。僕はそのためだけにここに来たんだから」
タマーラは自分の世界樹の苗木ちゃんとマンダーラを見比べた。
「でも、滅びるのが、定めの世界なら……なぜ、マンダーラは、苗木ちゃんを、産んだの……?」
「新たなサイクルには、新たな大世界樹が必要だろう? それに、“今”を精一杯生きることに長いも短いも無いよ」
タマーラはしばし考え込んでいたが、ふと思いついたという様子でマンダーラに言った。
「……アールキングも、もとは、苗木ちゃんだった?」
「そう……アールキングは大世界樹の森で産まれた。僕の子だ。
――ニルヴァーナの下に居た“滅びを望むもの”の影響を受けていたのは確かだ……ただ、あの子自身、望んでそうしたのかもしれないな。
器ではなかったけど、高いところを望む子だったからね。……同情の必要はないよ」
ニキータとタマーラは顔を見合わせた。