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はっぴーめりーくりすます。

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はっぴーめりーくりすます。
はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。

リアクション



8.会いたい人に会いに行く。


 ヴァイシャリーの街、郊外。
「きょっおーは楽しいクリスマスっ! へい!」
 クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)は、ひとけのほとんどないその場所で、唐突に自作の歌を歌い始めた。
「きょっおーは楽しいクリスマスっ! へい!」
 合の手も入れて、ノリノリである。
 ……一見は。
「きょっおーは、ひっぐ、えっぐ……」
 目には涙が溜まり、はなみずもずびずび。
「たの、し……ぐず、グリ゛ズマ゛……」
 それでも唄う様子ときたら、見ている方が悲しくなるほどだ。
「ひっぐ……ベイ゛ッ……!」
 しかし合の手まできっちり歌い切り、ごしごしと右手の袖で涙を拭った。
 それでも涙は止まらない。大洪水さながらである。
 だって、思い出すと泣けてくるんだ。
 ヴァイシャリーの街の中は、ラブラブなカップルたちで賑わっていた。クリスマスだし、当然と言えよう。
 けれど、クドはひとりぼっちなのだ。
 ――なんでお兄さんは一人寂しく歩いてんでしょうか……。
 街の中に居るよりはマシだし、本来の目的を果たそうと思って郊外へ逃げ出してきた、そんな今現在。
 さてその目的。
 それは、いつも世話をかけているパートナー達へのプレゼント調達、である。
 向かう先は人形工房。冒険屋ギルドでよく噂を聞く場所である。
 そこの店主の話を聞くと、茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)が弟子入りしていたり、メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が笑うきっかけを作っていたりと興味深い。
 しかしそれよりもクドが反応した個所は、

『店長、見た目女の子みたいなのよねー。小さいし華奢だし』
『なっ!? 男の娘ってやつ……っすか!?』
『それから、クロエちゃんという子も可愛いですよ。これくらいの背で、』
『その身長の低さ! 幼女!?』

 ――まあ、きっかけなんて些細なもんだ。
 男の娘と幼女が揃った場所とあらば、行ってみたい、一目見てみたいと思うのが男の性である。特に後者、可愛い幼女にお会いしたいと。
 うきうきしていたら、涙もどこへやら。
 ずびっ、と鼻水をすすり、もう一度ごしごしと顔を擦り、見えてきた人形工房のドアを開けた。
「いらっしゃいませ!」
 出迎えた幼女――もといクロエを見て、
「ちょ、うお、うおおお……本当に幼女……っ!」
 感動した。
 ふんわりとした淡いピンクのドレスを見に纏い、大きなリボンを頭に付けて。
 花が咲いたような笑顔を向けてくる。舌っ足らずな甘い声がまたポイント高い。
 頭を撫でようと手を伸ばし――名誉の為に言っておくが、やましい気持ちではなく父性である、可愛いものを愛でたいと言う純粋な気持ちである――たところで、ひょいとクロエが抱きあげられた。遠のく。
 誰だよもう! と半ば睨むようにして顔を上げたら、
「うわぁ男の娘!」
「は?」
 リンスがクロエを抱っこしていた。
 噂に違わぬ美人さんである。さらさらの茶髪、色の違う瞳。長い睫毛。けだるげな表情のせいで美人さに少しマイナス点がついているけれど、笑えばかなり。
 これが男だというのなら、それはもうれっきとした男の娘、だろう。
「何じろじろ見てるの」
「客なので品定めをば!」
「店主と店員の?」
「いつもの店の癖で」
「どんな店行ってんだよ……。まあいいや、いらっしゃいませごゆっくり」
 ごゆっくり、と言いつつ知らんぷりで去って行かれた。
 ぽつねん、残されたクドは、クリスマス仕様の人形が飾られている棚を見る。
 プレゼントを渡そうと思っているパートナー達は、もうお人形遊びをするような歳ではないけれど。
「あ、これならインテリアにも使えそう」
 精巧に作られた人形は、飾るだけでも良い味を出しそうだ。
「これくださいな」
 リンスではなく、クロエに言ってみる。
「はいっ! プレゼントよう、ですか? らっぴんぐ?」
 かく、と首を傾げて問うてくる姿が、可愛い。
「プレゼントでありまさぁ。可愛くお願いしますね」
「すてきだわ! わたしらっぴんぐ、がんばる!」
 不器用そうな手つきながら、一生懸命ラッピングするクロエを見る。
 ああ、うん、やっぱり可愛い。
「ねえねえリンスさん、撫でてもいーですかこの子。超かわいい」
「やましそうだから駄目」
「やましくねぇですよ! 超父性! 可愛いものを愛でたいと言う本能的欲求で、」
「本能的欲求ってあたりがもうなんかね」
「間違えた純粋な感情で」
「らっぴんぐできたわ!」
 粘っていたら、頑張り終えたクロエから人形を渡された。
 にこーっと笑っている。こっちまで微笑みたくなる、そんな笑顔だ。
 ――買っちまったし、お暇しますかねぇ。
 本当はもうちょっとクロエを愛でたかったけど。
 でもこれ以上、初対面での印象を悪くしてもいけないだろう。
 ――レンさん達がチャリティで人形劇をやるって言ってたっけ。
 夕方までやっていると言っていたし、これから向かってみようか。
「それじゃ、人形ありがとうっした」
「おかいあげ、ありがとうございました!」
「どうも」
 にこにこ笑顔のクロエと、対照的に無表情なリンス。
 なんだか変わった場所だなあ、と思いながら、クドは工房を後にした。


*...***...*


 クドと入れ違いに。
「邪魔するぜ〜」
 天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)が、工房のドアを開けた。
 そしてリンスとクロエの目の前まで歩き、
「店主か?」
「そうだけど、お客様?」
「うむ! オレの名は天空寺鬼羅、よろしくな!」
 挨拶をしてリンスと握手。
「よろしくなのよ!」
 クロエとも握手していると、
「よ……よいしょっとぉ!」
 小さな、だけどよく響く声が鬼羅の肩口から聞こえた。リョーシカ・マト(りょーしか・まと)である。
 ぴょこん、と床に着地して、ピコピコ音を立てて歩く。
 そう。今日鬼羅が人形工房に来たのは、客と言うよりも。
「え、ええお店やなぁ。は、初めまして!」
 この、微妙にどもっている身長15センチのちいさな機晶姫が、
「リョーシカ・マトっていいみゃす!」
 舌まで噛んだこの彼女が、
「お人形さんのお店と聞いて遊びに来ました!
 よかったら自分とお友達になってくだひゃい」
 リンスやクロエとお友達になれたらいいなと思ってのこと。
 クロエは、しゃがんでリョーシカに目を合わせている。
「あわ……」
 リョーシカは、その行動におろおろ。
 しばらくリョーシカを見ていたクロエが、
「よろしくねっ!」
 と手を差し伸べて、それにリョーシカが笑った気配がしたから。
 鬼羅は工房の中を適当にぶらつくことにした。
 ちみっこ同士、仲良くなってくれればいいと思いながら。
 ――そういえば、人形サイズのリョシカは、人形だと噂のクロエにはどう映るんだろうか?
 人形に魂が宿った娘と、人形サイズのリョシカ。
「人形コンビだね」
 不意にリンスが呟いた。同じことを考えていたのだと思うと、なんだか面白くなる。
「うむ。悪くねーんじゃねーの?」
「うん、見てて和むね」
「だったら表情筋動かせよ」
 和むと言いつつ一切表情を動かさない店主に思わずツッコんで。
 にこにこしているリョーシカとクロエを見遣った。


「あのあの。クロエさん、お人形さんなんですか?」
「うん。からだがないから、おにんぎょうなのよ」
「見えへんなぁ……」
「それはリンスがすごいからなのよ」
 すごい、か。
 言われてリョーシカは、改めて店を見回した。
 数々の人形。それを作る道具。布。綿。
 様々なものがここにはあり、そのひとつひとつが丁寧に作られていることがわかる。
「うん、ええお店や」
 挨拶の時、なんとはなしに言った言葉を今改めて口にする。
 クロエがにこぉと笑った。
「すてきでしょ!」
「うん、すてきや。自分このお店、好きやなぁ」
「すきになってもらえて、わたしもうれしい」
 本当に嬉しそうにクロエは言うから、こっちがなんだか照れくさいというか、恥ずかしいというか。
「えへへ」
「うふふー♪」
 ふたりで笑ってみたりして。
「自分、アトリエ【オートマタ】ってゆうお店してるんよ」
「どんなおみせ?」
「お人形さんのお洋服や、雑貨売ってんねん。クロエちゃんのこの服って、どないしてるの?」
 ふんわりとドレープを寄せた、淡いピンクのドレス。
 生地も仕立ても良く、上品なものだ。これをもしリンスが作っているのだとしたら、侮れない。
「これはねぇ、クリスマスプレゼントなの」
 なので、この言葉を聞いて安堵。
「でもいつもはリンスがつくったものをきているわ」
「店主さん、お洋服も作れんねやなぁ……」
 ピコピコ、足音を立てながら棚に近付き。
 人形が着ている服を見る。
 簡単な作りだが粗はなく、クロエのドレスほどではないにしろ生地も良い。なにより人形に合った服を着せられていると、リョーシカは思う。
「ふあー、うん、すごいなぁ……勉強させてもらお」
 メモとってもい? とクロエに問いかけて、クロエがリンスに視線を向けて、それから「いいみたい!」と言ってくれたので、メモ帳にカリカリ。
「クロエちゃんは店員さんなん?」
「そうよ。すこしでもちからになりたいの」
「そっかぁ」
 現在、リョーシカは一人で店を切り盛りしている。
「なぁなぁ、店主さんって、お店お手伝いしてくれる人形とか作れるかな?」
「わかんない。きいてみる!」
 てこてこクロエが走って行って、リンスに問いかける。リンスの隣で話をしていた鬼羅が、リョーシカを見て笑った。
 友達ができてよかったな。
 言われたわけじゃないけれど、そう聞こえた。
 だからリョーシカは頷く。誇らしげに笑って。
「にんぎょう、つくれるからはっちゅうようしにきにゅうしてほしい、だって!」
 戻って来てクロエがそう言ったから、
「ほんま?」
 眼を丸くした。
 半ば冗談で言ったのに、そうかそんなこともできてしまうのか。
「ありがとぉ」
「いいえっ。わたしもてんいんさんだから!」
「善は急げや、注文しよっ」
 ピコピコ、足音を響かせて。
 リンスと鬼羅が座っているテーブルへ。
「発注、しに来ました!」
「リョシカ、お前注文ちゃんと書けんのか? オレが書いてやろうか」
「ええの! 自分でやるのっ!」
「リンスもよぉ、これって無茶な注文じゃねーの? 嫌だったら嫌って言えよ?」
「別に?」
 さらりと簡単に言うあたり、ちょっと尊敬してしまう。
 今日突然来て、やっぱり突然お願いしたのに、と。
 ちら、と鬼羅を見ると、鬼羅も鬼羅で「へぇー」とか「ふぅーん」とか、興味ありそうにリンスを見ていた。


「おめーぼけーっとしてるけどさ」
 リョーシカが真剣に、リョーシカにとっては大きすぎる発注用紙とペン相手に格闘している最中。
 鬼羅はなんとはなしに言う。
「すげーんだよな。作る人形に魂宿すとかさ」
 ピコピコ歩くリョーシカと一緒に、てこてこ歩いていたクロエ。
 本来はただの無機質な人形で、だけど魂が宿っているから動いているし、笑うし。しかも一見しただけじゃ人形に見えない精密さで。
「リョシカみたいな機晶姫とはまた違った無機質に命を与える異能。すげーよなぁ」
「すげー、って二回目。言うほどすごくないよ」
 とリンスは言うけれど。
「おめーが思ってるほど、すごくなくもねーけどなぁ」
 気付いてないのか、謙虚なのか。
 前者だろうな、となんとなく思った。だって大して興味がなさそうだから。
「まぁ、なんでもいいけどな。異能の持ち主だろうがなんだろうが」
「俺は俺だしねぇ」
「そうそう。オレはオレだしリョシカはリョシカ、クロエはクロエでリンスはリンス」
 違って当たり前、だから異能だ人形だなんて色眼鏡はかけたくないものだ。
 リョシカがクロエと友達になったように、隔たりなんて小さなものであるはずだし。
「工房さ、また来てもいいか?」
「いつでもどうぞ、お茶は出ないけど」
 出ねーのかよ、とツッコミつつも。
 いつかまた遊びに来ようと、決めた。