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リアクション
ロザリオの謎
思い立って覗いてみた談話室には誰の姿もなかった。
品の良いアンティークのテーブルと椅子、壁際には小さな飾り棚。
ゆっくりと時間を過ごすのに最適なその部屋に入ると、三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)は迷いながら飾り棚へと向かった。
飾り棚の前までくると、のぞみはクロネコ通りの『ムカシヤ』で買ったロザリオを手の平に載せてつくづく眺める。
どう見てもそれは、のぞみが中学入学時に贈られた銀のロザリオだ。イニシャルもきちんと彫られている。
けれどそのロザリオは、小箱に入れてこの飾り棚に置いてあったはずのもの。今手の上にあるこれが本物ならば、箱に入っていたロザリオはどうなっているのだろう。
飾り棚を開けてみると、小箱は記憶通りの場所にあった。動かされた形跡もない。
青い着物の袖を飾り物に引っかけないように気をつけながら、のぞみは小箱を棚から取り出した。
「あれ……?」
空箱の重さではない。
中で何かがしゃらっと動くのも感じる。
まさかこの中にも? とのぞみは逸る気持ちで小箱を開けた。
「……空っぽだ」
箱の中には何もない。さっきまでは確かに……と小箱の重みを確かめれば、それは空箱の重さしかなかった。
「ヘンだなぁ」
納得できなくて呟いたところに、
「何が変なんだ?」
すぐ後ろから父三笠 能の声がして、のぞみは飛び上がりそうに驚いた。
「お父さん、いつの間に来てたの?」
それには答えず、能はのぞみの持つ空の小箱に素速く視線を走らせる。
「何か無くなりでもしたのか?」
「ううん。中身はこっちにあるの」
のぞみがロザリオを見せると、能はつまらなさそうに小箱から視線をはずした。
蓋を元通りに閉め、のぞみは小箱を元の位置に戻しておいた。どうしてこの中身がムカシヤに移動したのかは分からないけれど、やはりこれはのぞみのロザリオだったのだ。
箱を戻し終わると、のぞみは能に笑いかけた。
「お父さんは休憩しに来たの? 良かったら一緒にお茶飲もうよ」
「ああそうだな。用意させよう」
能は使用人に紅茶を用意させると、娘と差し向かいで紅茶を飲んだ。
「それでおまえはいつまで向こうに居るつもりだ?」
さっそくそんなことを言い出す能に、のぞみは困ったように笑う。
「うーん……パラミタも色々あって大変だから、もうしばらくは向こうで頑張りたいなって思うの」
「ほう? 大変なのか?」
「うん。あのね」
のぞみが話すパラミタでの事件が大変なら大変なほど、能は興味を持って耳を傾けるのだった。
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