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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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  7 機晶石回収探索隊〜出発前のあれこれ〜

「おそい!」
 研究所から戻ってきたラスとエリザベートを迎えたのは、仁王立ちになった春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)とピノだった。日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)も楽しそうにそれに加わる。3人娘ににらまれて少したじろぎつつ、ラスは平静を装った。
「色々と聞いてたんだよ。今のファーシー達の状況とか、向こうも情報持ってたから……」
「じゃあ、特に何かあったわけじゃないやな?」
 日下部 社(くさかべ・やしろ)が近付いてきて、やれやれという調子で言った。行く前に不吉な事を言っていたが、やはり心配していたらしい。
「平和でしたよぉ〜」
「…………」
 答えを奪られた。エリザベートは、そのまま神代 明日香(かみしろ・あすか)ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)の所へと歩いていく。
「明日香、戻ったですよぉ〜」
「エリザベートちゃん! お菓子とお茶がありますよ。どうですか〜?」
「いただきますぅ〜」
「……何かあいつ、俺に対する態度と全然違うな……」
 思わずそんな感想を漏らし、ラスはとりあえずエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)に目を戻した。テレポート前には居なかった2人だ。
「……機晶石の回収か?」
 メシエは背筋をきちんと伸ばし、少し得意気に答える。
「発掘関係となれば黙って見ている訳にはいかないのだよ。という事で、手伝ってやらない事もない」
「……別に、無理に手伝わなくてもいいんだぞ」
 微妙に素直じゃない気取った物言いに、わざとそう返してみる。すると、メシエは若干慌てて言い直した。
「いや、先に言ったように、遺跡からの発掘作業と知って素通りする訳には……」
「つまり、やる気満々なんだよな」
 というか正直、やる気が目に見えるようである。エースが苦笑して、ラスに補足した。
「メシエは古王国時代を知っているからね。古い施設となると探索しないと気が済まないんだよ」
「ふぅん……」
 適当に生返事をする。ピノを納得させる為に同行することになった側面が強い彼は、元々のやる気ゲージがいつぞやとは天と地ほど違う。故に、参加者の動機にもあまり興味を持てなかった。たださっきは、ちょっとからかいたくなっただけである。
「俺はメシエの付き合いっていうのもあるんだけど……。依頼主がラスさんっていうのがちょっと気になってね」
「……? 何が気になるんだ?」
「いや、ほら、暴走とか……」
「…………」
 それには思わず絶句した。
「……そんなにしょっちゅう暴走してたまるか」
「そうかなぁ……」
 エースはちらりとピノを見遣る。
(ピノちゃんが絡むと、見境無いからなあ……)
 そこに、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)強盗 ヘル(ごうとう・へる)と一緒に近付いてくる。数日の間に、ファーシーを取り巻く環境は大きく変わってしまった。脚を修理する為、バズーカの解析をする為にモーナから依頼が入った時から考えていた事。技術も知識もロクに無い自分が、今から出来る事は何か。そこで入ったのが、このツァンダ発掘の募集だった。
「お久しぶりです。先程、ファーシーさんの状況がどう、とか言っていましたね。何だか、色々と大変な事になっている様ですが、何があったんですか? 今回の回収も無関係ではないのでしょう?」
「あ、ああ、そうだな……」
 今度は後を言い淀む。集まった面々を一通り見渡し、9割方いつものメンツだな……とか思いつつ結局呼び寄せることなく、ザカコ達とエース達に研究所で聞いた事を話し始める。最初は当たり障りの無い、機晶石回収に関するモーナの意図について。
「……外部からもエネルギー補填をするとして、ファーシー本来の魂が残っているならそっちをくっつけた方が良いんじゃねーか、てことだ。で、石を探して来い、と……」
「成る程、ファーシーさんの魂……ですか」
「あの現場を見てないからんな事が言えるんだよな。半分に割れたとか3、4個に割れたとかじゃねーんだぞ? それこそ、――の玉レベルだ」
 ラスは犬耳半妖怪が出てくる現代と戦国時代のタイムスリップ漫画に出てくるとある玉の名前を口にした。エースとメシエは何それという顔をし、ヘルが素朴な疑問として聞いてくる。
「……週間少年漫画とか読むのか?」
「……暇な時とか」
 それはともかく、とザカコは言う。
「自分もあの時現場にいたので機晶石を探すなら力になれると思います。でも、こういった話でしたらみなさんにも話しておくべきでは?」
「……それは、後で任せる」
「は?」
 いきなり説明の任を押し付けられて驚くザカコに、ラスは少し表情を改める。
「これから話すことは黙っとけよ。ファーシーは、アクアって女に恨まれてたみたいだ。護衛連中と戦闘にまでもつれこんだらしい」
「戦闘? 何があったんだ?」
 ヘルに問われ、アクアの話した5000年前からのあれこれについて彼は話す。まあ又聞き情報ではあるが。
「……何か、野良猫みたいだね」
 エースが言う。思ったことをそのまま、ぽんと口に出した感じだ。その喩えが気に入ったのか、面白そうにメシエが訊く。
「ふむ、野良猫か。何故、そう思う?」
「うん、そうだね……」
 エースは少し考えてから、皆に言った。
「ファーシーにちょっかいを出すっていう事は、ファーシーを羨ましく思っている部分が少なからずある訳で……、つまり、そうなりたいっていう希望が彼女の心の中にあるって事だよな。でも、攻撃的だ」
 話している最中、彼等の傍を1匹の白猫が通り過ぎる。その猫を無意識に目で追いながら、エースは続けた。
「野良猫は拾われても安心できる所だって判るまで保護主に爪立てたりするから、何かそういう状態に似ているなぁ、と思ったんだ」
 白猫はこちらを一度振り返って足を止め、小走りで生垣の下に入っていった。あっという間に見えなくなる。
「……俺としては、羨ましいと感じたなら、ファーシーに八つ当たりしないで自分がこうありたいって思う方に突き進んだ方がいいと思うんだ。その方が幸せに近づくってね。……だけど、どうしてそうしないんだろう」
「さあなあ……。ま、本人色々とあんじゃねえかな」
 とはヘルの言。
「うん、まあそうなんだろうけどね……でも、あまり爪を立てすぎると手に負えないってまた放りだされたりするとやっぱり人間って信用できないになったりするし、顔を合わせたら、何とか巧く信頼を得たいかな」
 そう言ったところで、エースは、ラスがさっきから黙っていることに気付いた。自分達の話には関心が無いように、どこか乾いた表情をしている。
「ラスさん……?」
 呼んでみても反応が無い。何となく、不機嫌なような。
(暴走しかけ……?)
 やっぱり、危なっかしい。暴走だとしたら、もれなくピノが関係している筈だが何だろうか。そう考えていると、不穏な空気に気付いたのかケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)御薗井 響子(みそのい・きょうこ)が近付いてきた。
「どうしたのかな……。大丈夫? 何か怒ってる?」
「……別に、怒ってねーよ」
「そうかなあ……」
 ケイラが目を逸らさずにその顔を見つめ続けていると、根負けしたようにラスは力を抜いた。アクアの話をするだけで、名前を聞くだけで胸糞悪いという、ただそれだけの事だ。
「お前に関係ねーから。個人的なことだ」
「だから、心配なんだよ? うーん……」
 ケイラはいつもの表情に戻った彼に安心しつつ、考える。研究所では何も無かったみたいだけど、この様子だとまたどこで無茶をやるか分からなそうだ。
 そんなケイラを見て、響子は先日の事を思い出した。ぷっつんしたラスを追いかけたケイラの暴走を止める為にマラッタに頼んだのだが――
「ケイラ、暴走とかしなかった?」
「え゛、自分……? してない、してないよ! ……多分」
 ぶんぶんと顔の前で手を振り、そして、今考えていた事をラスに言ってみる。
「ラスさん、自分を見失わないように自分の写真持っておく? ……なんてね」
「? 自分を見失わないように自分の……?」
 理解するのに3秒程かかった。
「ああ、お前の写真ってことか? なんでまたそんなもん……」
 ……それは、ケイラの写真を見るとトマト化の恐怖を思い出すということだろうか。
「まあ、友達も増えたから大丈夫だとは思うけど……真菜華さん!」
 そう言って、真菜華に声を掛ける。
「なになにー、ケイラちゃん!」
「携帯で自分の写真を撮って、ラスさんに送ってほしいんだ。いざって時に、魔よけになるかもしれないし」
「……だから、暴走なんてしないって言ってんだろ!」
「……魔よけ? ん、いいよー!」
 真菜華は携帯をケイラに向ける。何だか可愛い系のシャッター音が鳴った。
「お前ら、俺の意向は無視か……」
 言ってる間にもラスの携帯がぴろぴろという音を立てた。メールだ。
「…………」
 画面を見て、やれやれと嘆息する。
「よし! もっといっぱい撮ろーーーっ!」
 真菜華はそれで撮影モードに入ったのか、ピノや千尋を呼んで次々に色々な組み合わせで写真を撮り始めた。それが次から次に届きまくる。
「…………」
 無言でその着信ラッシュを眺めていたら、社がやってきた。
「なんか面白そーなことやってんな? お? お、また来た」
「……社、ちょいメルアド教えろ。千尋のやるから」
「ちーの写真くれるんか!? 気前ええなあラッスン!」
「いや、欲しいだろ? 妹の……あ、ケイラ、ついでにお前もアドレス教えろ」
 そんなこんなでプチアドレス交換会をしていると、真菜華がケイラを呼んだ。
「ケイラちゃん、響子ちゃんも、みんなで写真撮ろ、写真!」
「え、僕は……」
「いーからいーからっ!」
 そして、暫くテンションの高い撮影会は続いた。
 ……皆、そろそろゴーレム行こうよ……

                           ◇◇


 一通り写真を仕分けして溜息をついていると、ツリ目で細身の男と、褐色赤髪の少し大人しそうな女性が近付いてきた。女性の方が、控えめな口調で話しかけてくる。
「ええと……今回の依頼を出した方でよろしいんですよね? 先程、ここのスタッフの方から聞いたんですけど……」
「……そういう事になったらしいな」
 全部こっちに押し付けやがって、とコネタントを後でシメることを内心で誓いつつ、ラスは答えた。
「今日はよろしくお願いします。私はニーナ・イェーガー(にーな・いぇーがー)、彼はスタンリー・スペンサー(すたんりー・すぺんさー)です。今日は、微力ながらお手伝いさせていただきますね」
 ……やっと、出発が出来るらしい……

                           ◇◇


 そして、計17人が集まった。明日香が、少し名残惜しそうにエリザベートに言う。
「エリザベートちゃんは行かないんですよね〜」
「私はここで待ってますぅ〜。戻ってきたら呼んでください〜」
「あれ、帰らないんですかぁ〜? 遅くなっちゃいますよ?」
「大丈夫ですぅ〜。集めた機晶石を届けるのにテレポートしたら帰りますぅ〜。乗りかかった船ですぅ〜、それに、お話を聞いたら私もちょっと気になりましたぁ〜」
「ん〜……、そうですか、分かりました〜。無理しないでくださいね〜」
 そう言う明日香は、本気で心配しているようだった。余程大事に思っているようだ。それ自体は悪くない。全然悪くないのだが。
(あれは、俺とどう違うんだ……?)
 と、ラスは思わなくもない。自分がシスコンであるというのなら明日香はエリザベートコン、略してエリコンではなかろうか。……あまり語呂が良くない。そして、彼はエイムの方に視線を移す。彼女には、どうしても一つ言っておきたいことがある。
「なんですの?」
「……なぜ、そいつがここに居る……?」
 エイムの肩には、いつぞやの毒蛇が乗っかっていた。ちろちろと舌を出しながら、こちらに移動してこようとする。おののいて距離を取りつつ、言う。
「一度、イルミンスールに帰ったんだよな? 置いてこいよ!」
「ラス様と仲良くなったみたいなので連れてきたんですの」
「なってない! なってないから!」
「……かわいそうですの」
 一方、真菜華はピンク号に乗り、皆と向き合う形で出掛ける前の最終確認を行っていた。
「わすれものはありませんかー? ティッシュとハンカチもってますかー?」
「小さい子の引率じゃないんですから……」
 精神的頭痛を起こしたような顔でエミール・キャステン(えみーる・きゃすてん)が言う。すると、真剣な顔で持ち物チェックをしていた千尋が手を上げた。
「ティッシュとハンカチ、ちゃんとあるよー☆」
「うん、あたしも持ってるよー!」
 ピノも手を上げる。
「そういえば、居ましたね、小さい子……」
 真菜華はえへんと胸を張った。
「ふふふ、オカンと呼ぶがいい」
「誰が呼びますか! ……むしろ、小さい子の1人として数えてさしあげます」
「…………」
 そんなエミールの言葉をガン無視し、真菜華はラスをじーーーーっと見つめる。
「お前が仕切んな! とか言わないの?」
「……言わない。むしろガンガン仕切れ。どんどん仕切れ」
「えーーーーーーー」
 予想外の反応に、少しつまらなそうだ。
「うっしゃ、皆、行くで! 冒険や!」
 社が元気良く声を上げ、真菜華も1秒前の事は忘れて大声で、快活に号令を出した。
「よーっし、出発! いっくぞー!」
 かくして、機晶石回収探索隊は出発した。