シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

魂の器・第2章~終結 and 集結~

リアクション公開中!

魂の器・第2章~終結 and 集結~

リアクション

 
  24 パーツ開発、開始(イコン編)

 ででーん!
 と、ライナス研究所の外にサロゲート・エイコーン――イコンが停まっている。パラ実イコン『離偉漸屠』を改造した號弩璃暴流破(ゴッドリボルバー)である。頭部のリーゼント部分が巨大なリボルバーになっているのが特徴だ。真ん中の顔をなかなかイカしている。パーツテスト用に、と御弾 知恵子(みたま・ちえこ)フォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)が乗ってきたのだ。
 そして今、研究所のイコンパーツ開発室で。
 機晶姫でありアーティフィサーであるフォルテュナは、立ち話が可能な小型の丸テーブルに片腕を置いて半ば体重を預けつつ自分の考えたパーツ案についてライナスに説明していた。彼女達の他にも、テーブルにはイコンパーツを開発しようという面々が集まっている。
「機晶姫の頭脳とイコンを接続して同調させるんだ。目指す所は、操縦性や情報処理能力の強化だぜ」
「……イコン自体をパワーアップさせたいということだな」
 魔道書のアレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)はフォルテュナとライナスの話を本体のノートPCに記録していく。その指の動きは軽やかだ。彼女は、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)と自分の提案以外にどんな案が出てくるのを楽しみにしていた。開発の結果が可でも不可でも、それは今後の参考になるだろう。
 フォルテュナは言う。
「俺の考えた事を直接操作系のセンサーとかに繋げば、自分の身体同然にイコンを操れるかもしれねぇ。そうでなくても、少しは反応速度が上がるんじゃねえかと思うんだ」
「なるほどな……」
 ライナスは、眉根を寄せてそれを聞いていた。機晶姫について勉強しようと訪れていた杵島 一哉(きしま・かずや)も、フォルテュナの案に賛同する。
「私もそのシステムには興味があります。機晶姫とイコンのリンクが出来れば、機晶姫の高い演算機能を使用して照準の精度や回避性能も向上する筈です」
 イコンパーツの開発と聞き、今回彼はこちらに参加することにしたのだ。研究者として、強化パーツの開発に携わりたいと。
 メイガスである彼は直接開発をすることは出来ない。ただ、パートナーのアリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)空白の書 『リアン』(くうはくのしょ・りあん)と共に開発者の手伝いくらいは可能だろう。それに、他の開発のアイデアや話を聞く事が後々の自分達に役に立つかもしれない。
 そして、フォルテュナの提案は、一哉の考えに極近いものだった。
「ぜひ、私達にもユニット開発のお手伝いをさせてください」
「ああ、もちろんかまわねぇぜ」
 フォルテュナはあっさりとそれを受け入れた。だが、やる気満々の彼女達に対し、ライナスは渋い表情をなかなか崩さない。
 知恵子は、それを不審に思ったらしい。
「なんだい? 何か問題でもあるのかい?」
「ああ……」
 考え事をしていた彼は、それで意識を皆の方に戻した。
「問題というわけではない。ただ、今の技術では、少し難易度が高いかもしれないな」
「そうなんですか……」
 一哉は、少し残念そうだ。その中で、フォルテュナは冷静にシステムについての考えを話す。
「機晶姫もイコンも機晶石で動く機械なのは同じだろ? だから、機晶姫ならどの種族よりも密接に繋がれるはずだと思ったんだけどな」
「ふむ……」
 ライナスは思案気な顔をして何事かを考えていた。しばらくしてから、顔を上げる。
「まあ、何事も経験だからな。やるだけやってみればいい」
「よし! いやあ、このまま断られたらパラ実的な手段を取るとこだったぜ! じゃあ、早速開発を始めるか」
「パラ実的手段、だと?」
 ライナスが眉を跳ね上げた。隣で話を聞いていたモーナもびっくりしたようだ。少し笑って、フォルテュナに言う。
「それって、断ってたらこの研究所がどーん! とかなってたってこと?」
「いや、さすがに開発できないほどの騒ぎを起こすつもりはなかったぜ?」
 フォルテュナも軽く笑い、そしてライナス達に背を向けて歩き出した。本格的な研究に入るのだ。
「では、私達も行くか」
「ええ、お手伝いしましょう。機晶姫のアリヤなら試用運転にも協力できるかもしれません」
「そうですね、がんばります」
 リアンに促され、一哉とアリヤもフォルテュナを追いかける。この場にはアレーティアと知恵子が残り、アレーティアは打ち込んだPCの画面をライナスに見せた。
「イコンパーツの案は、そちらで開発中のものも含めてこれで全部じゃな」
「ああ、そうだな」
 内容を確認してライナスが肯くと、アレーティアは真司の所へ戻っていく。1人残った知恵子は、ライナスに話しかけた。
「フォルテュナの案、やっぱり難しいかい?」
「……うむ、そうだろうな……」
 渋い顔をして彼は答える。知恵子は、遠くで真剣に研究を始めたフォルテュナを見ながら言った。
「でも、無碍にしないでくれて良かったよ。あいつ、ここで機晶姫用のイコンパーツの開発をやってるって教えたら目の色変えて飛び出してねえ」
「そんなに開発に興味があったのか?」
「ああ……うん、開発もそうなんだけどね」
 研究所内の巨大なパーツを見渡しながら、知恵子は話す。
「あいつ、契約前の記憶がないんだけど、イコンを見てからどんどん思い出してるみたいなんだよね。あたいの大切な相棒だし、好きにさせてやりたいよ」
「そうか、記憶が……」
 もの思わしげなその口調は、技師として何か感じる所があったようだ。
「だから、今日はちょっと研究所を間借りさせてもらうよ。なんかヤな予感もするんだけど……」
「ヤな予感?」
 そこで、話を聞いていたモーナが口を開いた。イコンとかはまだ未知な部分が多くこれまで黙っていたのだが、その言葉は少し引っ掛かった。
「うん、なーんかね。平和に終わりゃあそれに越したことないんだけどさ。ん? 何か心当たりでもあんの?」
「あ、実はお昼にね、この研究所が狙われてるって知り合いが伝えに来たんだよね」
 モーナは、それが現在進行中の機晶姫の修理に関係しているらしい事を説明した。
「もしかしてっていう話ではあるみたいだけど」
「ふぅん……じゃあ、あたいは用心棒として居させてもらうかね。機晶技術なんてさっぱりわからないし、まあ、簡単な作業を手伝いながらね」
「うん、そうしてくれるとあたしも助かるよ。ライナスさんは結構強いけど、あたしは戦闘とか苦手だしね」
 そして話が終わると、知恵子はフォルテュナの所へ、ライナス達は真司達の所へと歩いていった。

                           ◇◇

 真司は研究所の助手と未沙達と一緒に、以前から進められていたパーツ開発の手伝いをしていた。せっかくのイコンパーツ開発に参加できる機会だ。彼は、見たもの全てを覚えて帰るくらいの気持ちで挑もう、とここを訪れていた。後学のために、一つでも多くの技術を学んで帰りたいところだ。
「へえ、他にこんなパーツも作ってるんだな」
 アレーティアの持ってきたPCの画面を興味深く見ていた真司に、ライナスは話しかける。
「調子はどうだ?」
「知らなかった技術とかたくさんあって面白いよ。そうだ、俺達もパーツ案を設計してきたんだけど、見てくれるか?」
「ああ、見せてくれ」
 真司は、アレーティアと一緒に考えて作った設計案が書かれた紙を広げた。パーツの図面と説明が書いてあり、左上には大きな字で『機晶ビームキャノン』とあった。彼は、自ら補足説明をしていく。
「機晶姫しか扱えない機晶キャノンをイコン用に設計し直した物だ」
「『装備したイコンのジェネレーターから直接大量の機晶エネルギーを供給して発射する仕組み』、か」
「ただ、機晶エネルギーの制御が難しくて、制御するには機晶姫とイコンを直接コネクタか何かで接続する必要があるのと機晶エネルギーの蓄積に時間が掛かるのが難点だと考えてる」
「ふむ、そうだな……」
 更に細かい所まで読み、確認してライナスは言う。
「今の技術と設備ではこの通りの威力までは出ないかもしれないが。作成自体は可能だろう。調整等で難しい部分もあるが、頑張ってみてくれ」
「造れるのか?」
「私の助手も自由に使ってくれてかまわない。楽しみにしているぞ」
 それを聞いて、作業中の助手達がぶーぶー言った。もちろん本気ではないが。
「あたしも手伝いますね!」
 話を聞いていた朝野 未沙(あさの・みさ)が、工具片手に近付いてくる。朝野 未那(あさの・みな)がライナス達に言う。
「姉さんは天御柱学院でイコンの整備もお手伝いしたりしていてぇ、整備班の人達に【イコン整備士】としても多少は認知されてるんですぅ。私も姉さん程ではありませんが一緒にイコンの整備をお手伝いしているのでぇ、多少はお役に立てると思いますぅ」
「そうか、では、是非手伝ってやってくれ。……では、次は機晶姫パーツの製作の様子を見に行くか」
「そうですね。あたしとしてもそっちの方が馴染みがありますし」
「イコンも勉強しておいた方がいいぞ。向学心は大事だ」
 出口へと向かうライナスとモーナの耳に、未羅とアレーティアの声が聞こえてくる。
「楽しそうなの。パーツおっきいのー」
「自分達の手で開発ができると思うとわくわくするのぉ」
 それを聞いて、モーナは言った。
「好評のようで良かったですね」
「私は、人手が欲しかったから呼んだだけだが」
「……そうですよね、ついでですよね……」

                           ◇◇

 その頃、フォルテュナは――
「そのパーツを取ってくれ。おう、それだ!」
 一哉達と一緒に、試行錯誤しつつユニットを組んでいた。周囲には、大小様々なパーツが散乱している。
(俺はイコンと深い関わりがあった気がするんだ! そして、イコンに近い存在だったような気さえする。俺がイコンに近づけば、真実を思い出せるはずだ!)
 そう思いつつ手を動かしていると、前方から知恵子がやってきた。
「おっ、チエ、来たか!」
「何か、足りないもんとかやっとくことってあるかい?」
「ん、えーとな……」
 そうして、フォルテュナのイコン研究は続く。
 ぼんやりとした、記憶とも呼べないもの。本当にぼんやりとした、ただの予感。
 そんなものが、彼女を突き動かす。

 ――フォルテュナは、かつてイコンに対抗するための巨大機晶姫として作られていた。結局計画は失敗し、普通サイズの戦闘用機晶姫として作り直されたのが、その後封印されたのだ。

 巨大機晶姫。一つだけではない。色々な思惑を持って、色々な場所、土地で、その研究は行われていたのかもしれない――