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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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 27 スナジゴクジゴクとファンタジー的ラスボ……あれ?

 行きの平和さから、帰りの警戒は全体的に緩んだものとなっていた。昼間にモンスターが出なかったのだから、夜にもそう危険なモノは出ない、所謂ノーエンカウント地域だろう、と。無論、モンスターが出ないと仮定しても新たな落盤の危険等はあるわけで、それなりに経験を積んでいる者が多い一行の警戒がゼロになることはない。自然と関心もあさっての方に移ってしまう。いわく、土偶ファーシーのあまり穏やかではない発言だったり、いわく、荷物の重さだったり今日1日の感想だったり、と。また、メンバーの性格の明るさもあって割と和気藹々とした道中で……
 あった。途中までは。しかし、ジャンル冒険と謳っていて何も書かないわけにもいくまい。
「これなんですの?」
 始まりはエイムのそんな言葉だった。ディテクトエビルと殺気看破をそれぞれに使っていた明日香やノルニルよりも前を歩いていた彼女は、罠らしきものに片っ端から引っ掛かっていった。落とし穴に落盤の罠。通りがかった宝箱がミミック、強制ループ、その先に現れた真実の口など。
 あからさまな罠にも、エイムは次々と面白いように引っ掛かる。面白そうなもの、興味を引くものがあれば手を出すからだ。罠でも何でも気にしない。省みないので繰り返す。
他の人がきっと助けてくれる。
 強制ループの所為で現在位置も判らなくなった頃――
 ラスがキレた。
「お ま え なあ……!」
「ごめんなさいですの」
「……絶対反省してないだろ、さっきからトラブルばっかり……ここに来てから役に立つこと一つも……いや、そーゆーやつは他にもいるけど、罠に引っ掛かるのはだな……て、うわっ!」
 主を責められた毒蛇がぎゅうっと首を絞めてくる。怒らないでーと言っているようだ。ていうかキミも何もしてないよねー、とも言っているかもしれない。
「く、くるしい……な、なんだ牙を見せるなってや、止めろよ……!」
 明日香も、珍しく頬をふくらませて抗議する。
「エイムちゃんはトラブル引き起こす方が圧倒的に多いですけど、戦闘の時とか、魔鎧になったらすごいんですよ〜」
 エイムをフォローしているようだが、前半がフォローになっていない。
「それに、役に立つ立たないだけで人間関係を築くわけじゃないです」
「う、そ、そりゃ……」
「エイムちゃんはラスさんをいぢるのに役に立ってます〜」
「そこは役に立たなくていいだろ!」
 その頃――
「これなんですの?」
 そしてまた、エイムは――足を引っ掛ける用の糸トラップを見つけて指で引っ張っていた。
『それは罠です』
 と誰かが言う暇もなかった。天井に開いていた穴から30匹くらいの巨大虫が落ちてくる。
「……スナジゴクですの」
 皆が絶句する前で、エイムはのんびりとしていた。頭やら背中やらに乗ってわさわさするスナジゴクをつまんで足元に戻す。だが、先へ行こうとした所で次々に身体に登られ、エイムはつまむ→登られる→つまむ→登られるのループを繰り返していた。そのうち、消化液でぬるぬるになっていく。
「困りましたの」
 あんまり困っている風でもない。
「な……、な……」
 あまりの気持ち悪さにラスは顔を強張らせて固まっていた。余談ではあるが、彼はスナジゴクが大の苦手である。毒蛇と同等位……いや、虫なのでそれ以上に苦手かもしれない。だが、前方に立つ明日香が期待に満ちた視線をこちらに向けているのに気付いてびくぅっとした。嫌な予感しかしない。
「ラスさん、エイムちゃんを助けてください〜♪ はい、皆さんもご一緒に? ピノちゃんもご一緒に?」
「ご一緒にって……! こ、このくらいお前なら楽勝だろ!!!」
「せっかくのピノちゃんに良い所を見せる場面ですから、奪っちゃ悪いですよね〜」
「うそこけ」
 とはいえ、ピノも黒目がちの瞳を輝かせている。精神的に何だか追い詰められてきた。そのうち、あまったスナジゴクがこちらにわさわさずざずざと後ろ向きにやってくる。まああれだ。どんな光景か具体的に想像したい方は「蟻地獄」でググってみることをおすすめする。あれの超特大版が何十匹も一斉に向かってくる感じだ。
「う、うわ、気持ちわりー!」
 闇の中、光に照らされて倍気持ち悪い。
「あれ? 怖気づきましたか〜」
「〜〜〜……! 残念だったな、俺は機晶姫背負ってるから手が空いてないんだよ」
「足で踏めばいいと思います〜、私はやりませんけど〜」
「……これ、さてはお前の差し金だろ! こっそり罠仕掛けてやがったな!」
「違います〜。断じて違います〜♪」
 そんなやりとりの脇で、真菜華がピノの前に立ってスナジゴクからかばっていた。
「ピノちゃんに消化液とかかけさせないよ! エミリー、踏んで踏んで!」
「……イヤです」
 そう言いつつ、エミールはハンドガンでスナジゴクを1匹ずつ片付けていった。体液が飛び散る。他の皆も、漫才には付き合ってられなくなってそれぞれ武器やスキルで巨大虫の動きを止めていった。落ち着いてきた所で、千尋とピノ、真菜華がエイムに声を掛ける。
「うわあなんかぬるっとしてるよお。帰ったらみんなでおふろはいろーっ!」
「もう大丈夫だよー☆」
「エイムちゃん、さっきおにいちゃんが言ったことなんか気にしなくていいからね!」
「気にしてないですの」
「そこまではっきり言われるとな……」
 少しは言い過ぎたかと思ったが杞憂だったか……、と謝ろうかとかちらりと考えていたラスが困ったような顔をした時。

 ぐわあああああっっ!

 獣の咆哮が彼女達の耳を震わせ、髪を靡かせた。
「……?」
 なんだろう……? と振り返ると、凶悪そうにぎらついた眼が一対、高所から5人を睨みつけていた。
「…………?」
 暗い中でじーーーーーーーっ、とよく見てみると、その眼の主が普通より1.5倍くらいの肥満ぎみのレッサーワイバーンであることが判る。
「…………!」
 ぱかぁっと開けた口腔の奥が赤く光り、遅まきながら状況に気付いたラスが子供達を逃がそうと前に立って――
「どいてくださいーーーーっ!」
「ぶっ!」
 素早くエイムを強制装備した明日香が、ラスを押しのけて魔力全開のサンダーブラストを放った。
「…………(まじで!?)!」
 巨大な口を裂けんばかりに開いていた竜は、激しい電撃に慌てて後退する。あれをまともに食らったらおいしい焼き竜になってしまう事を本能的に感じ取ったらしい。吐き出された炎の軌道が逸れ、炎は土煉瓦を熱するだけにとどまった。
 次に、彼女が魔道銃を出して足を追撃しようとすると、竜は尻尾を巻いて逃げ出した。残念ながら道幅が狭いので飛べなく、どかどかと遠慮なく走って逃げていく。製造所の震動と共に、床ががらがらと崩れる嫌〜な音がした。
「…………」
「大丈夫ですか〜?」
「あ、ああ……」
 目を丸くしているラスと子供達に、明日香が銃を手に持ったまま近付いてきた。
「さっきから明らかにおかしいです〜。私達以外に、誰か居るんじゃないですか〜?」
 そう、確かにおかしい。
 数々の罠に果てはスナジゴク。いやスナジゴクはともかく。
 昼間の平和さと比べてというより、そもそも罠というのは人為的に作られるものであって勝手にぼこぼこ湧き出てくるものではないのだ。元巨大ゴーレムであった頃にはこんな罠は無かったし、5000年前にセ○ム代わりに設置されていたものが今になって発動したとも考え難いだろう。一番気になるのは、あの強制ループ。
「……みたいだな。妙な刺客もこっちにまでは来ないかと思ってたけど……」
「じゃあ、間違いないですね〜」
「おい、どーゆーことだそれ、どーゆーことだ?」
 明日香はそれを無視して通路の先を見る。
「アクアさん絡みかファーシーさん絡みか全然無関係なのかは分かりませんが、誰かが後から来て、私達に罠を張っていたんです。あのワイバーン、追いかけましょう〜」
「追いかければ……出口も分かる、かと」
 響子の言葉を機に、一行は急いでワイバーンを追い掛けた。姿は見えずとも、破壊の跡がその道程を教えてくれる。……侵入する時は抜き足差し足でもしていたのだろうか。となると、ワイバーンに主がいるのなら随行していた可能性が高いが……。

 そして、出口まで来た彼等だったが――
「……居ないな……」
「居ないですねぇ〜」
 怪しい人影に出会うことなく夜空を拝む事になってしまった。
「……まあ、向こうだって律儀に待つ必要も無いわけだしな……」
「ここで待ってて決め台詞と決めポーズ取るのがアニメじゃセオリーなんだよ! 1クールおんなじ事言うんだよ!」
 と少し怒ったようにピノが言う。
「うーん、でも、げんじつはそうはいかないのかな?」
「……少し気になるけど、出口も提供してもらったわけだしさっさと帰るか」

 そのちょっと前。
 一行がワイバーンに襲われた場所にて。
「くぅー! 最後に全部かっさらおうと思ってたのに失敗したわ! あんなに強い娘がいるなんて反則じゃん! 絶対レベルカンストしてるあれカンスト……、あ、今日レベルキャップ開放されたんだっけ」
 MS的トレジャーハンターリベンジ、伏線的にちょっとだけ登場な新トレジャーハンターの少女は言った。活発そうな、へそだしスタイルの少女だ。機晶石回収の依頼を知って、珍しい何かだと思った彼女は後からここに参上したのだ。
 今回の事件とは、素晴らしく全く関係が無い。
「結局、見つけたのは細かい機晶石だけかあ……。でも、集めれば結構な量になるかな。スナジゴク入れてた袋に詰めて持って帰ろう」
「それにしてもあの子、あたしを置いてけぼりにするなんて! 絶対に落ちたの気付いてないよね……」
 あの子とは、ペットであり相棒のレッサーワイバーンの事である。

                           ◇◇

「遅いですぅ〜」
 蒼空学園に戻り、若干既視感を感じる台詞を言いながら迎えたエリザベートと合流した彼らは、早速、ライナスの研究所にテレポートしようと一箇所に集まった。
「……おい、ピノ」
 そこで、ラスはふと昼間の事を思い出した。研究所に行ってから恐らく必要になるものが、此処には置きっ放しになっている。
「何? おにいちゃん」
「ファーシーの車椅子、運べるか?」
 そう言うと、ピノはあっ、という顔をしてすぐに頷いた。
「うん! 押すだけだし、余裕だよ!」
 ということで、元巨大ゴーレム型機晶姫製造所からの戦利品と車椅子と共に、彼らは研究所にテレポートした。