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リアクション
30 R10
A情報屋(以下A):「何だ、あのトーチカは……何か警戒されてないか?」
B情報屋(以下B):「見回りもいるな。普段からこんな……いや、さっきから訪問者が多い……イベントでもやってるんじゃないか?」
A:「はあ? よりによってこの日にイベントかよ」
B:「それとも、おれ達の情報が漏れて人を集めてんのか?」
A:「まさか……第一、アクアは簡単な仕事だって言ってたぜ」
B:「でも、ライナスだろ? 前、パイルバンカーで野盗が一瞬で倒されたとか聞いたことあるぜ」
A:「そんな情報知らないけどな」
ぐぅ……
B:「お前、この業界入って半年だろ? 確かそれがあったのは1年位前……知らなくても仕方ないな」
A:「つーか、何で情報屋のおれらが人殺ししなきゃいけないわけ? そりゃあ、金はいっぱいもらったけど……」
B:「まあまあ、どうせチェリーって女の滑り止めなんだろ? 上手くいけば何もしないで済むわけだし、儲け仕事だ」
A:「最初っから殺る気ないのかもしかして」
ぐるるるるる……
B:「まあまあ……うぉ! いきなり集団が現れたぞ反則だろあれ!」
A:「声がでかい! おっと……。まあ、ライナスが外に出てくるまで待とうぜ。出てきたら、生きてたってことだから殺せばいい」
B:「殺る気あるのか、何と真面目な……。おれもここまで来てるし同じっちゃあ同じか」
ぐるるる……
A:「なあ、何かさっきから、腹の音鳴ってるけど大丈夫か? 飯食ってないの?」
B:「え? 腹鳴らしてるのってお前だろ? 持ってきた弁当食っちまえよってさっきから思……」
A:「え?」
B:「え?」
ぐるるるるるるる……
A&B「「……………………」」
◇◇
各荷物を持ってライナスの研究所にテレポートしてきたラス達は、入口で麻上 翼(まがみ・つばさ)に足止めを食らっていた。
「誰ですかー?」
「……そっちこそ誰だ。いいから入れろ。コレ重いんだよ」
「名乗るまで入室禁止です!」
「……このやろう……」
この機晶姫投げつけてやろうか、とか思ったとき、明日香と一緒に後方にいたエリザベートが前に出てきた。
「入れてください〜。私達は怪しい者じゃないですぅ」
「あ! エリザベート校長! 機晶姫の蔭に隠れて見えませんでした。すみません、入ってください」
ということで、ラスを非常に複雑な気分にさせつつ一行は研究所の中に入った。
「ピノちゃん、やっぱり来たんですねー」
「うん! あ、これ美味しそう、食べていい?」
「いいよ、味見してみてよ、ピノちゃん」
迎えに出たメイベルがそう言い、ピノが厨房でセシリアとそんな遣り取りをしている時。
「うわあ、こっちは凄い壊れてるね。こっちはそうでも無いかな。うん、分かった。修理を請け負うよ」
モーナは壊れた機晶姫2体を台車に乗せて別室に運ぶと、元巨大ゴーレム型機晶姫製造所から回収してきた機晶石やパーツをライナスとそれぞれチェックし始めた。
「うん、検査用の機晶石と……何これ」
「何これじゃないわよ! あんたが機晶技師? さっさと身体見繕ってきなさいよ。そのパーツくっつけるんでもいいわ。そうしないと、どうなるか分かってんでしょうね!」
「うわ土偶が喋った……ていうか口悪っ! 何か口悪っ! て……ファーシーの声? 今度は土偶に乗り移ってたの?」
「……中に機晶石が入っています。口が悪いのでそのまま入れて持ってきました」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が笑顔で言うと、モーナは土偶の中を覗きこんだ。
「あ、入ってる」
「……早く出して! 出しなさい、この年増!」
「年増……?」
ぴき、となったモーナは土偶をどん! と机の上に置いた。出す気無くした。いや、いずれは出さないと検査出来ないのだが。
「これが魔物化した方……。すっごい性格悪……、あれ、性格はこんなもんだったかな。口が悪いだけ?」
「……口が悪いのもそうだけど、多分、銅板に移りたてだった頃のファーシーに近いな」
うんざりした様子でラスは言う。性格は、意外とそう変わらない気もする。
「……これは、魂を戻さない方が良いんじゃないか? やっぱり、ファーシーがファーシーじゃなくなる危険があるだろ」
隼人は、極真面目な顔で土偶を見詰めていた。だが、矢張り出す気は無いらしい。
「本人も嫌がってるしな……だけど、少し気になる事もある。この土偶、5000年前の記憶が殆ど無いらしいんだ」
「記憶が……?」
モーナとライナスは、製造所内での詳しい話を聞くとそれぞれに顔をしかめた。
「……銅板の方のファーシーには、記憶が欠け落ちている様子は無いのだろう?」
「……はい。全て鮮明に覚えているように見えます」
「では、この土偶の記憶が曖昧な理由は1つだろう」
「土偶って言った! このおっさんまで土偶って言った!」
「…………」
ライナスはしばし黙り、それから解説し始めた。
「魂が乗り移る際に、データは、ほぼ銅板に移ってしまった。結果、『魔物化した魂』として切り離された方には以前の『記録』が残らなかったのだろう。ゴーレムを動かしていた時の事だけ良く覚えているというのは、それが、実際に自分で体験したことだからだ。完全に記憶を喪失した訳ではなく曖昧なのは、魂が覚えていた部分だろうな」
「…………」
ライナスの部屋に残って話を聞いていた皆は、一様に黙った。回収はしたものの、この喋る土偶をどうすれば良いか分からないのだ。意思のある少女として、このままにはしておけないという気もする。だが――
「……どうします? ライナスさん。確かに、土偶に機体を用意する事は可能です。でも……。勿論、最終的な結論はファーシー本人に訊く事になるのでしょうが」
「だから! ファーシーはわたしだってば! わたしの意見だけ訊きなさいよ!」
土偶が抗議する。そこに、夕飯をつまんでいたピノがとことことやってきた。前かがみになって土偶を見つめる。
「ねえ、あたし思うんだけど……ファーシーちゃん」
「ファーシーって呼んだ! この子、ファーシーって呼んだ!」
それには特に応えず、ピノは言う。
「記憶がぼんやりしてると、さみしくないかなあ?」
「……さみ、しい?」
「だって、ルヴィさんの顔や名前や、しゅうちゃく? してたことは覚えてるんだよね。アクア……ちゃんの顔も」
ピノは、アクアに『ちゃん』を付けるか『さん』を付けるか迷ったらしい。実物を見てないだけに。
「それって、すごくさみしいんじゃないかなあ」
「…………」
土偶は黙った。黙って、そのまま喋らなく――
「……わたしは……」
一言、喋った。それは、いつも聞いているファーシーの声音と全く同じで。
それから本当に、彼女は喋らなくなった。
「……その細かい機晶石、ざわざわするというのなら、その中にも魔物化された魂が残っているのだろう。それを合わせれば、少しは記憶が戻るかもしれないが……」
「……これから、取り出す……んですか?」
モーナは、細かすぎる程に細かい機晶石の山を見て口元をひくつかせた。やはり、ここまで小さいとは思っていなかったらしい。
「誰が頼んだんだ誰が」
何か癪なので、ラスは製造所で見つけた機械については黙っておこうかと思った。細かい作業をちみちみちみちみちみちみとやるがいい、と。しかし。
「あ、それなら良い機械があるよ」
「ああ、あるな。役立てるといいのだよ」
「……これが説明書です」
「…………」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)があっさりと機械を示した。エミール・キャステン(えみーる・きゃすてん)も説明書を取り出してライナスに渡す。ライナスは、5000年前の文字を当然のように読み解いて機械を見比べた。蓋を開けて、状態を確認する。
「これは……いや、だが……」
機械の細かい部分を慎重に観察していた彼は、蓋を閉めて難しい顔で言った。
「部品の劣化が激しい。一度使ったら、二度と使い物にならないだろうな。今は存在しない部品もあるし、修理も利かないだろう」
一回ぽっきり。
「その辺りも、チートくさいな……」
それから、モーナ達は今日1日で判明した数々の事を改めて皆に話した。アクアの最後の研究者、結生 遼の残した日記、研究記録、ファーシーに有効そうなリングの作成について等々。
「バズーカは、解析した結果、一部の機能がエネルギー充填にも使えそうだったわ。ちょっとエネルギーの種類が違うけど、リングと併用して正しく変換すれば大丈夫。あと、溜まりすぎたエネルギーを排出する機能があって、そっちも使えるわ」
朝野 未沙(あさの・みさ)と風祭 隼人(かざまつり・はやと)が交互に解説していく。
「エネルギーの溜め方によっては、充分量がある状態で溜まりすぎてしまう事も考えられるからな。それを排出して一定量に保つシステムだ」
「ただ、何かもう一つ足りない気がするんだよねえ……」
「……それでね、ファーシーの身体機能の事なんだけど……」
研究結果を纏めたレポートを見て唸るモーナの隣で、未沙が最後の説明を始めた。ファーシーの生殖機能について。
「……ファーシーと、ルヴィの子供……?」
「そう。検査してみないとはっきりとは言えないけど。可能性は高いと思うわ」
室内に妙な静寂に包まれる。皆、言葉を無くした……というか、どうコメントしたら良いか分からないらしい。慌てたように、ラスが言った。
「……待て待て待て、歩く歩かないの話が、何でそんな事になるんだ!?」
「だから、子宮が……」
「そういう言葉を平然と使うなよ平然と!」
「ファーシーちゃんに子供ができるの? すごいすごい!」
「ピノ……ちょっと黙ってろ。そして向こうへ行ってろ。ここからは、大人の話だ」
「えーーーーーー。やだ」
「……真菜華、連れてけ」
「やだって言ったら?」
「……逆マナカアタックされる前に連れてけ。子供に聞かせる話じゃない事くらい判るだろ」
「……ちぇ、分かったにゃー。じゃあちーちゃんも連れて行くよ!」
春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)がピノと日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)を連れて別室に連れて行った所で話が再会される。若干、もう遅い気もするが。そして、未沙は不思議そうだ。
「……何か問題ある? おめでたいことじゃない」
「おめでたいわけねーだろ! 子供なんて駄目だ!」
「……どうしたのさ。突然、父親みたいなこと言って」
「父親って……!」
声を荒げて立ち上がった彼は、モーナにそう言われて気を落ち着けるように座り直した。
「大体、ここにはポーリア達も居るんだから失礼じゃないか」
「そうじゃなくて…………子供が出来る機体だってのは良い。そこは、おめでたいとしても良いけどな、ルヴィの子供ってのは、駄目だ」
「……だから、どうして?」
「どうしてって……そりゃそうだろ」
そこで、メイベルが話に加わってきた。フィリッパと軽い掃除をしていたのだが、興味を持ったらしい。ちなみに、彼女達はライナスの周りや研究関係のものについては過度に触らないようにしている。やたら弄っても迷惑だろうという配慮からだ。
「ラスさん、もしかしてファーシーさんのカレ……」
「違う」
即効で意味を汲み取ってはっきりと否定したラスの言葉に、メイベルは首を傾げる。
「違うんですぅ? でも……」
「でももくそも無い。俺にその気は無いけどな……、ただ、結局は……そういう事だ。ルヴィの子供なんか作ってみろ。あいつ一生、独り身だぞ、それでいいのか?」
「独り身って……ファーシーはいわゆる未亡人だろ? 未だによくのろけてるし……」
隼人が以前のことを思い出しながら、言う。
「……だとしてもだ。いつかは誰かとくっつくだろうが。5000年前の男の子供とか訳分かんねー奴を連れててみろ。コブつきなんて、漏れなく逃げてくぞ。逃げないとしても、良い気分はしないだろ」
「誰かっていうのは、ラスさ……」
「だから、違う」
「うーん、それは、そうかもしれないけど……でも、検査はするよ。子宮かどうか、ていうのとその機能はちゃんと確かめないと……」
「その単語を平然と使うな!」
すかさずそう言って、最後に付け加える。
「……まあ、結局決めるのはファーシーなんだけどな」