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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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第11章 エリザベートちゃんのためならどこまでも

「季節限定のアトラクションがあるみたいですね。どこから行きますか、エリザベートちゃん」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)はマップをパサッと広げ、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が見やすいように低く屈む。
 この前のクリスマスは日が落ちてから来たが、今日は少し温かい昼間に行こうと誘った。
「トロッコに乗りましょう〜♪」
「2人から4人で漕ぐと、どんどんスピードが上がるみたいですよ」
「じゃあ急ぐですぅ〜」
「エリザベートちゃん・・・っ!?」
 突然、背中に飛び乗られた明日香がすとんきょうな声を上げる。
「早くいかないと行列が出来ちゃうんですよぉ。私が走るより明日香の背中に乗った方が早くつくんですぅ〜」
「あらあら、私もエリザベートちゃんの乗り物ですか♪」
 少女の頼みなら喜んでおぶってあげようと、空と飛ぶ魔法で飛んでいく。
「やっぱりこの時期は結構待つみたいですね」
 アトラクションの入り口近くで降り、背中からエリザベートを降ろして列の後ろに並んだ。
 1時間半後・・・。
 やっと乗る順番が来たとエリザベートは大はしゃぎでトロッコへ乗り込む。
「早く乗るですぅ明日香」
「はい♪」
 互いに向き合うように座った2人は、カチッとしっかり安全ベルト締める。
「漕がないとゆっくり進むみたいですね」
「えぇ。それと立ち漕ぎじゃないんですねぇ」
「ジェットコースターみたいですし、ちゃんと椅子に座らないと危ないですよ?」
「ん〜それではスピードを上げましょう!明日香〜っ、一緒に漕ぐですぅ〜♪」
「分かりましたエリザベートちゃん♪」
 彼女の頼みならばと思いっきり漕ぐ。
「これくらいですか?」
 ギィコッ、ギィコッ。
 いきなり早くしてエリザベートが驚かないように、ゆっくりと自転車で走るようなスピードまで上げる。
「もっと早くするですぅっ」
「う〜ん、こんなものでしょうか」
 ゆるやかなスピードからだんだんと早めてみる。
「まだまだですよぉ!」
 乗用車並の速さまで上げるが、それでもまだ少女は満足しない。
「じゃあ・・・これくらいでどうですかーーーっ!?」
 ギッコギッコギコギコギコッ。
 ゴォオォォオオオーーーーーッ。
 絶叫レベルへと達し、時速300km以上でレールの上を進む。
 2人きりだから通常のジェットコースターよりも加速が尋常でないようだ。
「きゃぁあ〜とっても早いですうぅう♪」
 ぐるぐると回転するレールをトロッコで爆走し、逆さになった状態を楽しむように、手すりから両手を離してきゃっきゃとはしゃぐ。
「面白かったですねぇ♪」
 あっとゆう間に終着点についてしまい、エリザベートは満足そうにトンッと飛び降りる。
「次はどこに行きたいですか」
「監獄ミキサーってなんですぅ?」
「さぁ・・・何があるんでしょうね」
 知らないフリをしてガイドブックを見せず明日香はニヤッと微笑む。
 数十分ほど並び、従業員に案内されて中に入ると、ガシャーンッと冷たい監獄の中に入れられてしまった。
「何が始まるんですぅ?」
 エリザベートは偽者の足枷をズルズルと引きずり、鉄格子を掴んで辺りの様子を見る。
「わぁ〜キレイなお花がいっぱいですねぇ♪」
 背後と左右の壁がくるりと回転したかと思うと、そこに色取り取りのクロッカスの花ごと茎が蔓に結びつけられている。
「蝶が飛んでますよ、エリザベートちゃん」
「蜜を吸うところの形が普通の蝶と違いますねぇ?」
「鍵の形をしていますけど、もしかしてあれを使って足枷を外すんでしょうか」
 ぽつりと明日香が言うと、どこからともなくアナウンスが流れてきた。
 “その通りでございます!20秒以内に鍵を探して足枷を外してください。時間がオーバーしてきますと、どんどん大変な状況になってしまいます。”
「大変な状況ってどういうことですぅ!?」
「そんな短時間じゃ無理ですっ。しかもあんなに沢山いるじゃないですか!」
「うぅ、明日香〜っ」
「(はうっ、エリザベートちゃんが涙目に!ここは私がなんとしてでも鍵を探してみませますっ)」
 ひらひらと舞う蝶を捕まえようと空飛ぶ魔法で飛ぶ。
「捕まえました・・・!」
 その瞬間、“20秒経ちました。飛行解除するために一旦、風で落とさせていただきます。”
「そ、そんなぁあっ」
 天井の通気口から風が吹き出し、徐々に風力を上げて明日香を飛べなくする。
「床が下がっていきますよ、明日香!」
「エリザベートちゃん、何が起こるか分かりませんから。私にしっかり捕まっていてください・・・・・・ねっ!?」
『きゃぁあぁあああっ!何ですか、これぇええ!!』
 突然、ストーーーンッと床が急降下し、互いにしがみつき合い2人同時に絶叫する。
『いやぁあああっ!!』
 浮き上がりそうな無重力感と、天井から噴出す突風に押され、パニックに状態になる。
「や・・・やっと止まりました・・・。大丈夫ですか、エリザベートちゃん」
 ガコンッと床の落下が止まると同時に風も止んだ。
 明日香はへなへなになりながらもエリザベートを心配して声をかける。
「うぅ、大丈夫ですぅ・・・」
「まだ出られないみたいですね。さっき取った鍵では足枷が外せないです。―・・・だからそんな短時間じゃ無理ですよ!」
 床から明日香が起き上がるとまたもやアナウンスが流れ、“20秒以内で飛んでいる蝶の鍵を探して脱出してください”と聞こえた。
 “それと壁が狭まってくるのでお気をつけください”と爆弾発言を流され、そこでプツッと放送が途切れた。
「無理です、無理ですっ!」
「うわぁんーっ。潰されたくないですぅう」
「このままではエリザベートちゃんがっ。あの細い通路に逃げるしかないですね!」
 鍵を諦めてスタートと同時にエリザベートを抱えて全速力で走る。
 通路に滑り込んだ瞬間、元来た道を遮るかのように新たな壁が現れた。
 その数秒後、ビタンッと左右の壁がくっつきあった音が聞こえ、そこに飛んでいた蝶がブチブチッと潰されたような音が響く。
 壁の激突と蝶たちが押し潰れた音はただの効果音で、実際はそうなっていないが2人からはそれが分からず、エリザベートは明日香に抱きついてぶるぶると震える。
「今度こそ鍵をゲットしてあげますから泣かないでくださいね♪」
 明日香がそう言うとまたアナウンスが流れ始め、“今度はちょっと時間を増やしたので、こうなったら50秒以内で足枷の分か牢屋の鍵を探して脱出してください。さもないとその枷と床が大変なことになります”と流れた。
「それだけあれば出られそうですね。私には空飛ぶ魔法があるから楽々取れます♪―・・・取れました!エリザベートちゃん、この鍵を使ってみてください」
「う〜ん、これじゃないみたいですぅ。壁のお花のを持っていればよってくるんじゃないんですかぁ?」
「そうですね!ほらほら、甘〜い蜜ですよー」
 壁のクロッカスを毟り取って蝶を寄せる。
「いっぱい寄ってきましたね♪―・・・これは違うみたいですね・・・。あ、外れましたよエリザベートちゃんっ」
 自分の分は後回しにして、先にエリザベートの足枷を外してあげる。
「ありがとうですぅ♪明日香のは私が外してあげるですぅ〜」
「はいっ」
「合うのがないですねぇ・・・」
「あれ?急に枷が重くなりましたね・・・」
 明日香の足枷を外せず50秒経ってしまい、真ん中から床がパカッと開き落下してしまいそうになる。
「えぇええん、落ちたくないですぅう」
「くっ・・・ここで諦める私じゃないですよ!」
 背中にしがみついて泣き出してしまったエリザベートのために、なんとしてでもここから出ようと必死に床を掴む。
 愛しのエリザベートちゃんのためならと、彼女の喜ぶ姿を見ようと壁の蔓を掴んで鉄格子の方へ移動する。
 飛んでいる蝶を引っ掴み、数十匹目でようやく牢屋の鍵を開ける。
 鉄格子を支えに床へ転がるように脱出する。
 “おめでとうございます!ずいぶんと度胸のあるお客様です!”
「私はエリザベートちゃんのためなら過酷な状況でも耐えてみせますっ」
 脱出を祝福するアナウンスに向かって勝ち誇ったように言う。
「さすが明日香ですぅ、凄いですぅう〜♪」
 嬉しそうにエリザベートが拍手をして喜ぶ。
「商品は監獄の中での写真が何枚かただでもらえるみたいですねぇ〜」
「いっぱいもらって行きましょう♪」
 明日香は注文のボタンを選び、出てきた写真をバッグの中にしまい込む。
「観覧車の中で少し休憩しませんか?」
「はい、行きたいですぅ〜」
 2人は手をつないで行き、40分ほど待って観覧車に乗る。
「どんどん登っていきますぅ。あ、明日香と乗ったトロッコが見えるですよぉ〜」
「本当は普通のジェットコースターより遅いみたいですね・・・」
「もうすぐ頂上につきますねぇ。ここからアトラクションが全部見えるんですかぁ〜」
「エリザベートちゃん、今日は何の日か分かりますよね?」
 ニッコリと微笑み、夢中になって景色を見ている少女に話しかける。
「えぇ知ってますよぉ」
「これ、私からバレンタインのプレゼントです♪」
 エリザベートの隣に座り、可愛らしくラッピングした箱を手渡す。
「ありがとうございますぅ。嬉しいですぅっ」
 中を見ようとエリザベートはさっそくラッピングを取ろうとする。
「お家に帰ってからにしましょうよ!」
「いやですぅうっ。私がもらったんですから、今開けるんです!」
「いけませんっ」
「明日香のいじわる・・・ぐすんっ」
 今すぐ見たいのにと、涙声になりながらプレゼントを抱えて明日香に背を向ける。
「ごめんなさいエリザートちゃん。そんなつもりじゃ・・・」
 目の前で開けられてしまうと少し恥ずかしく思った明日香は、家で見てもらうために止めようとしたが、強く言い過ぎてしまったかとエリザベートに謝る。
「―・・・って、エリザベートちゃん!?」
 ガサガサッとラッピングの紙を取る音が聞こえ、彼女が泣き真似をしているのだと分かり、プレゼントを開けるのを止めようとする。
「ん〜っ、明日香といえど私に逆らうと容赦しないですよぉ!こうしてやるですぅう」
「えっ、きゃははっ。やめてくださいエリザベートちゃん!―・・・あぁあ!!」
 隙をつかれた明日香はこちょこちょとくすぐられてしまい、笑っている間にラッピングをオープンされてしまった。
「チョコが入っていますぅ〜。はむっ♪」
 大きな声を出す彼女に構わずエリザベートはハート形のミルクチョコレートをさっそく食べてみる。
「なめらかな味わいが最高ですねぇ〜。甘ぁあ〜い味が、お口の中でとろけるですぅうう〜」
「(あぁ〜、やっぱり開けられてしまいましたか。でも、美味しそうに食べてもらってよかったです♪)」
「私からもバレンタインのチョコをプレゼントするですぅ〜」
「エリザベートちゃんからですか?ありがとうございます♪」
 チョコが入った小さな箱を受け取った明日香は大事そうに抱き締め、帰ってからゆっくり見ようとカバンの中にしまう。
「中はトリュフですよぉ〜。明日香みたいに上手く出来てないんですけどねぇ」
「フフッ、エリザベートちゃんからもらえるならなんでも嬉しいですよ」
「本当ですぅ?」
「えぇ本当ですよ。―・・・ぎゅーって抱きしめていいですか?」
「はいっ♪」
「温かいですねっ♪」
 明日香はエリザベートに頬を寄せて、観覧車が下に着くまで彼女をぎゅっと抱き締めた。