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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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リアクション


第12章 誘うのは本物?それとも・・・

「オメガ、聞こえる?ねぇ、私と遊園地に行かない?」
 十六夜 泡(いざよい・うたかた)はポケットから手鏡を取り出し、ドッペルゲンガーのオメガに呼びかける。
「遊園地って何ですの・・・?」
「行ったことないのね。とりあえず・・・店で洋服を買うから好みを教えて」
 仲間たちにもう1人のオメガの姿を見られるのは不味いと思い、彼女が気分を悪くしないようにそのことは伏せておいた。
「フードつきのケープなんてどうかしら」
「ごめんなさい・・・あまり好みではありませんわ」
「う〜ん。じゃあ、ポンチョなんてどう?これもフードがついてるわね」
 ポンポンつきの刺繍を施したノルディック柄を見せる。
「後は・・・ニットのセーターと、下はロングスカートとかね?靴はコニャックとパープルレインのカラー、どっちがいいかしら・・・」
 試着室の中へ服を持って行き、妙に思われないように小さな声音で聞く。
「上下は泡さんが選んでくれたものがいいですわ。えっと靴は・・・服に合わせて、パープルレインがいいですわね」
「分かったわ!」
 もう1人のオメガのためにレジで会計を済まして、“友達が着替えるから借りたい”と店員に言い、もう1度ショップの試着室を借りる。
「ありがとう、泡さん。これに着替えるんですのね?」
 鏡から現れた彼女は泡に買ってもらった服に着替え、ハンターターンカラーのスムースレザーつきの、色合いに合わせて選んだスエードレザーの靴を履く。
「それじゃあ遊びに出かけよう」
 生き物の気配のしない暗い森の外に出て、一緒に遊ぼうと意味を込めてもう1人のオメガに手を出しだす。
「人がいっぱいいますわ。皆さん、なんだか楽しそうですわね」
「えぇ、そうね。オメガ、私たちも楽しもう!」
 園内のマップを手に賑やかな場所にも無縁の彼女を案内する。
「ポップコーンが売ってるわね、ちょっと待ってて!―・・・それと、ん・・・これもちょうだい」
 泡は移動式のお菓子屋に行き塩味のポップコーンとプレッツェルを買う。
「どっちも好きな方を食べていいわよ」
「ではいただきますわ」
 袋の中からひとつまみ取り、コーンのカリカリした部分をパリッと食べる。
「―・・・美味しい?」
「えぇ。闇世界にはこういうものはありませんから」
「じゃあ、こっちのも食べてみて」
 小さく頷いて食べる彼女にめったに来れないからと勧める。
「食べやすい甘さで、とても香ばしいですわね」
「誰でも食べやすい味だから、買ってみたのよ。あ、そうだ。せっかく来たんだから、アトラクションの方にも行ってみないとね。ねぇ、どれから乗ろうか?」
 園内のマップを2人で眺めながら、まずどこへ行こうか選ぶ。
「ジェットコースター・・・?」
「あ、そっか。初めてこういうところ来たから、どれも分からないのよね。口で説明するより乗ってみれば分かるわ、行こう!」
 乗せてあげようと彼女の手を引いて列に並んだ。
 数十分後、やっと乗る順番がやってきた。
「わたくしたちだけなんですのね」
「えぇ、そうよ」
 見知らぬ人ばかりいるより2人だけの方が落ち着くと思い、少人数乗りの方にしておいた。
「怖かったら目を閉じちゃってもいいからね」
「そんなに怖い乗り物には見えませんけど・・・」
「んーっ、まぁ一応言っておいたほうがいいかな、と思って。そろそろ走り出すみたいよ」
 ベルトを締めて安全装置を肩に降ろすと、スタートランプが点灯し始めた。
「ゆっくり進んでいますわね」
「もうちょっとしたら速くなるのよ」
「―・・・突然速くなるんですの!?」
 捻じれたようなレールを進むと逆さ状態になり時速150kmを超える。
 ジェットコースターはさらにスピードを上げ、地面スレスレを通過していく。
「ホホホッ、面白いですわねぇっ♪」
 360度に連続ループするレールの上を進んでいき、不規則に回転するジェットコースターを怖がると思いきや、楽しそうに高笑いをする。
「あら、もうおしまいですの?」
「待つのは長いけど乗っているのは長くても2分くらいね。(すぐ加速する方でもよかったかしら?)」
 怖がることなく意外と大丈夫そうな様子を見た泡は、館にいる本物とはちょっと違うのかな、と思った。
「んー・・・次はそうね・・・、これに乗ってみない?」
「泡さんが案内してくれるならお任せいたしますわ」
「じゃあ決まりね!」
 今度は大人しい乗り物にしてみようと、もう1人のオメガの手を引く。
「ここよ」
「あれに乗るんですか?」
 泡が指差す方を見ると丸い第の上に、城のお姫様が乗っていそうな馬車があり、屋根の部分は花の冠のような形をしている。
「ちゃんと窓もあるみたいですわ。わたくしはこれにしましょう」
 見たことのないものに興味津々の様子で、砂糖菓子のようなアイボリーカラーの馬車に乗る。
「傍にいた方がいいわよね。私はその前にある馬にしようっと」
 姿が見えないと不安がってしまうと思い、その近くにある白馬に飛び乗った。
 サウンドが流れ始めると、台がくるくると回り始めた。
「どう?こんな大人しいのもあるのよ」
「速い乗り物も楽しいですけど、ゆっくりと過ごすのもの素敵ですわ。この場所から見ると、なんだか景色が違って見えますわね」
「乗っているだけじゃなくってそういう楽しみ方もあるわよね」
「見て、泡さん。天井のシャンデリア、星の形をしていてキレイですわ」
 もう1人のオメガは周りの景色から天井へ視線を移し、キラキラと輝くシャンデリアを見上げる。
「本当ね、なんだか流星みたいだわ」
 星たちがシャラシャラと揺れると、キラリと流れているように見える。
「あらもう終わりですのね」
「それじゃあ降りようか、オメガ」
 曲が終わるのと同時に回転台も止まり、2人は乗り物から降りて出口へ行く。
「全部回りたいけど、さすがに時間が足りなかったわね」
「もう帰ってしまいますか?」
「ゴンドラに乗るくらいの時間は残ってるから行こう!」
 彼女の手を握りゴンドラ乗り場へ連れて行く。
「楽しい時間ってあっとゆう間に過ぎちゃうわね。あまりアトラクションは回れなかったけど、結構歩いたかしら?」
 静かに川の上を流れ、泡はぐーっと背伸びをする。
「えぇ、普段はそんなに歩くことはありませんし」
「1番面白かったのは何?」
「どれも楽しかったですけど、どれか選ぶとしたらあの速い乗り物ですわね」
「ジェットコースター?オメガってそういうのが好きなのね」
 過激なのが好きなのかな、と思い彼女の意外な一面を見て微笑む。
「寒い・・・?確かにちょっと冷えてきたみたいね。さっきドリンクコーナーでココアを買っておいたわ。これ、オメガの分よ」
「ありがとう、とても温かいですわ。まぁ〜キレイな景色ですこと・・・。お菓子みたいな館がとっても可愛らしいですわね」
 ホットココアが入ったカップで手を温め、小人のアトラクションがある方へ顔を向ける。
「また一緒に来れたらいいわね」
 泡も彼女の視線の先にある砂糖菓子のような建物を見つめ、透明な飴のように輝く園内の夜景を眺めた。