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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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リアクション


第2章 プレゼントは・・・

「前は町の中で過ごしましたけど、ここには遊園地があるんですよ」
「遊園地・・・?」
「へぇ〜なんだそりゃ。美味いのか?」
「もしかして来たことがないんですか?あの販売所で1日パスを買って入るんです。せっかく来たんですし、行ってみましょう!」
 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は観光のガイドブックにあるその場所を発見し、遊園地に来たことのないグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)たちを誘う。
「あれは・・・董天君か?」
 つくづく縁があるようだと思い彼女の姿を見る。
「いや、このまま話しかけるのもな・・・」
 葦原の夏祭りやイヴの時は自分たちの都合ばかりつき合わせてしまった。
 何かプレゼントの1つでも渡そうかと考えてみるが、喜びそうなものがなかなか思いつかない。
「待て・・・こっちが喜びそうだと思っても、相手が気に入らなかったら困るな・・・」
 思考を変えてグレンは相手が喜ばずとも受け取ってくれそうな物を思い浮かべてみる。
「―・・・ん〜。(ナタク本人か・・・大丈夫か?)」
 どんなものをあげたらいいのやらと考えながら、李 ナタの方をちらりと見る。
 彼もそれで喜ぶだろうと思い本人の了解を得ないまま、プレゼントの対象物として決めてしまった。
「・・・また意外な場所で会うな・・・。まあ、今回は俺も人のことは言えないが・・・。お前にプレゼントがある」
 またナタクがつまらないことを思いつく前に声をかける。
「(んなっ、董天君にプレゼントをやるだと!?グレンのやつ、もしかして気があるのか!)」
 ナタクは彼が思い人にプレゼントを渡すと聞き、怒りのオーラを発する。
「何だ・・・、どうして俺を睨むんだ・・・?」
 そんな気はまったくないという様子の彼は眉を潜めて見据える。
「(ナタク本人なら・・・大丈夫か・・・?)」
 丁度よさそうなプレゼントの対象物につけてやろうと、銀の飾り鎖がつながっている首輪をサイドバッグから取り出す。
「動くなよ・・・」
 わっかにしたロープをカウボーイが振り回しているかの如く、鎖を振り回し首輪のベルトをターゲットにフィットさせる。
「お、おいっ。何すんだぁぁあぁああ!?」
 公衆の面前で犬のような扱いをされたナタクが激怒する。
「引っ張るなっ、・・・ぐぇっ」
「今日1日・・・ナタクはお前の“モノ”だ・・・。川に沈めようと・・・サンドバッグにしようと・・・下僕にしようと・・・。“死なない程度”なら好きにしていい・・・」
 彼に構わずグレンは鎖をぐいっと引っ張り董天君に渡す。
「これで首輪は目立ちませんね。それでは董天君さんも行きましょう」
 モノとなった者に首輪の上にマフラーを巻いたソニアが、遊園地へ行こうと誘う。
「はぁ〜?何であたしがお前たちとそんなことへ行かなきゃいけないんだ」
「・・・いいのか?一緒に来ないと前の時みたいに、“首輪を付けた状態”のナタクがお前に対する想いをここで叫ぶかもしれないぞ・・・?その時の周りの視線に耐えられるのなら止めないが・・・」
「(冗談じゃねぇ、なんであたしがそんなところに行かなきゃいけねぇんだ。真昼間からそんなことをすれば、あいつらも注目を浴びるんだからな。ムシだ、ムシ)」
 彼の脅しに屈指ずムシを決め込む。
「どうした?本当に吠える・・・本当に叫ぶぞ」
「ちょっと待て、吠えるって何だ!」
「―・・・空耳だ」
 抗議の声を上げるナタクに向かってグレンはしれっと言い放つ。
「確かに聞こえたぜ。明らかにさっき言い直したよな!?」
「そんなことよりもどうする・・・?拒否すれば・・・この場でナタク犬が吠える。―・・・しかも・・・羞恥心無しに周りの視線を気にせず堂々と・・・だ。これは・・・かなりたちが悪いぞ・・・。さぁ・・・どうする?俺たちは逃げも隠れもしない・・・」
「ちっ・・・仕方ねぇな。行けばいいんだろ、行けば!」
 鎖につながれているナタクとそれを握る自分を、道を往来する人々に見比べられてしまう。
 その異様な光景を見るかのような眼差しを向けられ、しぶしぶついて行ってやることにした。
「(グレンの野郎・・・首輪なんかさせやがって・・・後で覚えてろよ!)」
 マフラーで首輪を隠しているものの鎖までは隠れてはおらず、遊園地にやってきた客たちがナタクをちらっと見て可笑しそうに笑っている。
「(ていうかプレゼントが・・・オレって、何だか照れくさいぜ。―・・・へたしたら本当に川に沈めたり、サンドバッグにされるんだよな)」
 嬉しさと恥ずかしさ、そしてやっぱりアレなフラグの死の恐怖で言葉が出ず心の中で呟く。
「お・・・お手柔らかに・・・頼むな・・・」
 まだムスッと怒り顔をする董天君にナタクが恐る恐る声をかける。
「あ゛?そんなもん、あたしの気分次第だ」
 ツンッとした冷たい態度で相手を睨みつける。
「うーん、この辺りに面白そうなアトラクションがあるんですけど・・・。あっ、ありました!」
 ソニアは董天君が好きそうな絶叫系を選び、園内のマップを頼りに3人をそこへ連れて行く。
「何かやばそうじゃないか?」
 人が食べ物に追われている絵図らが描かれている看板を見上げたナタクが背筋をゾッとさせる。
「ビビッてるのか?ほら来いよ、ナタク!」
 ぐいっと鎖を引っ張り、董天君は彼を引きずってフードショックマンションの入り口を通る。
「リイシューかシュタルク・・・、難易度を選択するのか。メニューはアオスシュテルベンでいいな」
「本当にそんなもんにするのか!明らかにやばいだろっ」
「一々うるせぇやつだな。いざとなったらお前がいるじゃねぇか」
「(えっ、俺!?)」
 頼られているのかと思い込み、ナタクは天国へ吹っ飛びそうなほど大喜びする。
 部屋に入るとテーブルの傍に並べられた椅子に座ったとたん、室内にアナウンスが流れ始めた。
 “皆様。本日はご来店いただきまして、まことにありがとうございます。もうまもなく料理をお運びいたしますので、しばらくお待ちください。”
 メイドの格好をした従業員たちが扉を開け、テーブルの上に料理を並べていく。
 “がっつりと召し上がられてください”とだけ言い残し、ささっとそこから出て行った。
「召し上がられるってどういうことだ?―・・・うわぁあ!な、何だ!?ステーキが襲ってきたぞ!!?」
 突然皿に被せてあった蓋がスポーンッと飛んでいったかと思うと、大口を開けた焼きたてのステーキがナタクに襲いかかる。
 とっさに床に伏せて避けると、それはべちゃっと壁際に激突する。
「きゃぁあグレンさんっ、パスタが襲ってきます!」
「くっ・・・、ソニア。俺の手を離すなよ・・・」
「は、はい!」
「―・・・・・・食べ物のくせに・・・卑怯だぞっ」
 ソニアに絡みついてるタラスパが突然彼女から離し、パートナーの手を掴んでいるグレンが共に絨毯の上を転がってしまう。
「ころころころん・・・きゅぅうっ。私・・・もうダメージの限界です・・・っ」
「スパゲッティーに倒されてしまうとは・・・、無念だ・・・」
 その衝撃で2人は気絶してしまった。
「ちくしょう、グレンとソニアが!董天君、俺が絶対守ってやるからな!」
「じゃあそうしてくれ」
「うっ、ぐぇ」
 冷酷に言い放つ董天君にビンッと鎖を引っ張られる。
 メニューを選択している時に言った彼女の言葉を、頼りにしてもらっていると思っていたが、残念ながらただの幻想だったようだ。
 盾代わりにされてしまい、熱々のステーキに喰われてしまった。
「うわぁああっ。く、喰われる!」
 ナタクはムシャムシャと食され、胃らしきところでジタバタと暴れる。
「やめろぉお、俺を喰っても美味くないぜ!?」
 ギャーッギャースと絶叫していると、ジリリッと終了のベルが鳴り響く。
 ぺっと吐き出されたかと思うと、料理たちは跡形もなくパッと消え去った。
「アホだな。中から喰って出ればいいじゃねぇか?」
「うっ、そんなこと分かってたぜ。騒いだ方がスリル感があっていいじゃないか」
 分かっているようなフリをしたナタクは叫んでしまったことに赤面する。
「終わったみたいですね・・・」
「―・・・喰らって処理するようなものだったのか・・・」
 気絶していたソニアとグレンが目を覚まし、床から起き上がる。
「次はジェットコースターに乗りましょうか♪」
 アトラクションを出るとソニアは2つ目の絶叫ものをチョイスする。
「かなり込んでるみたいな」
 長蛇の列を見た董天君がため息をつく。
「えぇ、この時期は仕方ないですね」
 2時間ほど待ち、ようやくジェットコースターに乗り込む。
「4人乗りの方に行きましょうか」
 トロッコの形をした乗り物に乗り、安全ベルトを締める。
「普通ならゆっくりスタートするはずだよな・・・って、早ぇええーーーっ!!」
 1秒も経たずにジェットコースターが走り出し、ナタクが“ありえねぇよ!”という感じで驚愕の声を上げる。
 鎌の振り子がレールの上をグォングォオンッと揺れ、夕暮れの太陽の明かりを受けてギラリと輝く。
「このまま突っ込むとぶつかるんじゃねぇのか!?」
 時速280km以上ありそうな猛スピードで激突したらどうなってしまうのかと、想像しただけでナラカへ戻されそうな気分になってしまう。
「フンッ。これくらいスリルがねぇと、絶叫ものとは言えないぜ」
「えぇええ!?客が死ぬかもしれない危険なモンがあるなんてありえないだろ!?」
「怖いのか?」
「そ、そんなわけねぇ。こんなもん平気だっ」
 余裕な態度をとる董天君に対して、情けない面をこれ以上見せられないとナタクは強がった態度を見せる。
「こんものない方がよりスリルを味わえるぜ。危ない時は俺が守っ・・・ぶへっ!?」
 レールを駆け下りる瞬間、安全装置を外して立ち上がった彼は、ズゴンッと大鎌に真正面からぶつかってしまう。
「うぉわぁあ、落ちるーーーっ」
 その衝撃で仰け反りジェットコースターから半身をはみ出してしまい、必死な形相で手すりにしがみつく。
「ナタクてめぇ何やってんだ、このアホ犬!!」
 董天君は鎖を引っ張って右ストレートをくらわせ、椅子の上に殴り伏せる。
 安全装置が外れたままのナタクはジェットコースターが終着点に戻った頃には、もうボロボロな状態になり果ててしまった。
「(―・・・困りましたね。これではサンドバッグどころか、振り向いてもらえない上に嫌われてしまう危機が・・・っ)」
 怒り始めた董天君を見てソニアは、2人の仲を取り持ってあげようと考え込む。
 遊園地に始めてきたとはいえ、今のところナタクのポイントはゼロというよりマイナスすぎる。
「(どこか2人きりになれる場所は・・・。あれなんかよさそうですね)」
 大きな観覧車を見上げてニヤッと口元を笑わせる。
「それじゃあ・・・最後に、観覧車に乗りましょうか?」
 ソニアはグレンと自分は乗らないということを伏せて列に並んだ。
「順番が来ましたね、乗りましょう♪」
「お前らは乗らないのか?」
「私とグレンはここで待っていますから楽しんで来てくださいね♪」
「―・・・ざけんな!あたしは降りるぞっ」
「フフッ。行ってらっしゃい♪」
 董天君が降りようとする寸前に無理やり扉を閉めると、ソニアは2人に向かって爽やかな笑顔で片手を振る。
「あいつら・・・ここから出たら覚えていやがれっ」
 窓を覗き出口で待機しているソニアとグレンを、鬼のような恐ろしい形相で見下ろす。
 数分後、大人しくなったがまだムスッとした董天君に、ナタクが話しかける。
「董天君・・・一つ約束してくれ・・・“どんなことが遭っても生きろ”・・・。もし破ったら・・・許さねぇからな・・・」
 不機嫌なままの相手は睨むばかりで口を閉ざしたままだ。
「約束だからな」
 ナタクは答えを待たず想い人の頬に口づける。
「何しやがるんだ、この野郎。覚悟は出来てるんだろうなぁあ!?」
「―・・・ぐぇっ、どぁああぁあ!!?ぎゃぁああぁ〜っ!!!」
 不意打ちでキスしたのがさらに怒りを増幅させたのか、拳の餌食となり砂袋にされてしまった。
「ん?・・・何かあったのか・・・?」
 観覧車から降りてきた2人の様子を見てグレンが首を傾げる。
 董天君はいつにも増して怒り、ナタクは殴られまくった状態だ。
「もし口だったらぶっ殺していたところだ!」
「イッてて・・・マジでこんなに殴るなよ」
「ほぅ・・・だったら沈めてやるっ」
「うぁあーっ、冷めてぇえ!」
 鎖を振り回され、ナタクは園内の川にぽんっと放り投げられてしまう。
「まったく苛つくぜっ。あたしはもう出る、じゃあな!」
「董天君・・・前にお前が言った通り・・・。俺たちはお前の戦友を死なせる切っ掛けを作った・・・。だが・・・俺たちは謝らないからな・・・そして・・・お前に許されようとも思わない・・・」
「その言葉、覚えておけよ?あたしもてめぇらを絶対に許さねぇ。たとえ死んでも一生な」
 ツンとした表情でグレンたちを睨むと董天君は遊園地の外へ出て行った。
「あいつの心、いつになったら解けるんだろうな・・・」
 去っていく相手の背を見つめながらナタクは、凍てついた心をどうやったら解かせるのかと、語りかける言葉を探して考え込んだ。