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第16章 眼鏡チョコ

 専用車で空京を移動をする山葉 涼司(やまは・りょうじ)携帯電話が音を立てた。
 メールの着信音だ。
 内容を確認した涼司は、運転手と同乗していた花音に「急用ができたから少し待っていて欲しい」と言って、車から飛び出していった。

「……来てくれたんだね。ちょっとだけ付き合ってもらえるかな」
 涼司を呼び出したのは、五月葉 終夏(さつきば・おりが)だ。
「空から見てみない? この街をさ」
 終夏は、ヒポグリフに乗っていた。
「楽しそうだな」
 涼司は、にやりと笑みを浮かべて、終夏に近づく。
「前にどうぞ」
「了解」
 涼司は、終夏の勧めで、彼女の前に乗り込んだ。
 ヒポグリフが翼をはためかせて、空へと飛び立つ。

 夕日で赤く染まっている空から、2人は穏やかな赤に包まれた街を見下ろしていた。
「おー、綺麗だな」
「ね、ちょっと両手を開いてみて」
 感動している涼司に、終夏がそう言いながら自らの懐に手を伸ばす。
「こうか?」
 言われた通り、涼司が両手を開いた途端。
「アイン・ツヴァイ・ドライ!」
 という、掛け声とともに、終夏は小さな取り出した小さなチョコを空中に放り投げた。
 風の鎧で起こした風で涼司が開いた手の中に、落ちるように調整をする。
「サプライズだな」
 涼司は笑みを浮かべながらチョコレートを握った。
「これ、貰っていいんだよな?」
「勿論」
「それじゃ、あとで頂くか」
 言って、涼司は小さなチョコレートをポケットの中にしまった。
「それから……これも」
 空いた涼司の手に、今度は終夏の手から直接、去年と同じものを――眼鏡型のチョコレートを乗せた。
「ははは、なんか懐かしいな。また今年も用意してっくれたのか。さんきゅ!」
「うん、名残惜しいけど、もう戻らないとね。忙しいんだろうから」
「そうだなー。もうちょっと見ていたい気もするけどな」
 赤い光が消えていき、街は闇に包まれていく。その中で、電飾が星の光のように瞬いていて……綺麗だった。
「この先どうあっても、どうなっても、また遊ぼう。二人でも皆でも。君と遊ぶのは、とても楽しい」
 そんな終夏の言葉に、涼司は首を縦に振った。
「これからも腹を割って何でも話せる友達でいて欲しい」
 友達、という言葉に、終夏は軽く笑みを浮かべた。
 終夏は、涼司に好きだと告白をしたことがある。
 その時、答えは聞かずに、部屋を後にしてしまったけれど……。
(これが返事かな? ちゃんと聞いた方がいいかなー?)
 そう思いながら、ヒポグリフを下していく。
「うーん、楽しませてもらったぜ〜」
 地上に降りて、満足気に笑みを浮かべる涼司に、終夏もくすりと笑みを向けて。
「ホワイトデー、よろしく?」
 と、言うと。
「用意しておくぜ」
 明るい笑みが返ってきた。
「それじゃ、またね」
「またな。……眼鏡眼鏡っと」
 涼司は眼鏡チョコを掛けるふりをしながら帰っていく。
 笑いながら終夏は彼を見送った。