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第41章 チョコ作り

 バレンタイン数日前から、百合園女学院の調理室は手作りチョコレート作りに挑戦する生徒達で賑わっていた。
「材料は結構な量、用意してきたのですが。時間が足りないようですよ?」
 セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)が、ギリギリまで残っている2人に、腕時計を見ながら言った。
「頑張ってるんだけどね……! ああ、また分離しちゃった」
 アユナ・リルミナルが、失敗したチョコレートを隅に押しのけた。
「そう、頑張ってるんだけどね……」
 隣でチョコを作っている琳 鳳明(りん・ほうめい)も、失敗作を失敗用の籠の中に入れる。
「う、うぅーん……。これだけ失敗の山を作ると、何だかお菓子工場の人たちに謝りたい気分になってくる」
 大きな籠の中には、チョコレートや材料の果物が溢れるほどに入っている。
 全て2人の失敗作だ。
「そ、そうだね……」
 鳳明とアユナは籠を眺めて、大きなため息をついた。
 鳳明が作ろうとしているのは、1箱分――4個程度のトリュフだ。
 料理下手なわけではないのだけれど、こういったお菓子作りはすごく苦手だった。
 鳳明の料理は、大雑把というか『漢の料理!』といった見かけになってしまうのだ。
 そこで、友人でチョコをあげたい人がいると思われるアユナに一緒にチョコ作りをしようと声をかけてみた。
 アユナは料理は全くダメなようだった。
 下手というより、調理実習以上の知識がなかった。
 オレンジ味をつけたいという理由で、チョコレートの中にオレンジの果汁を大量に入れてしまったり。
 チョコレートというより、ココアになってしまった失敗作も多かった。
 結局、チョコレートそのものではなく、チョコ味の何かを作ることにしたようだ。
「しかも、それなりの材料ですからね」
 さすがに、指南役のセラフィーナも困り顔だ。
 街で質の良い材料をそろえてきたのも、セラフィーナだった。
 溶かして固めるだけでも、すごく美味しいチョコレートだ。
 だから、美味しいチョコレートが出来るはずなのに。
 思う存分失敗作を量産してくださいな。などと、最初は言っていたセラフィーナだけれど。
「まさかこれほどまでとは……」
 失敗作の山に、セラフィーナもため息をついた。
「でもせっかくの本命チョコなんだしね! 少なくてもいいから、ちゃんとしたのを作って贈りたいな〜」
「アユナも、美味しいって言ってもらえるものが作りたい。お店じゃ食べられない味がいいんだよなあ」
 鳳明とアユナはめげずに作業に戻っていく。
 1人だったら、諦めてしまったかもしれないけれど、2人だから。
 励まし合って、頑張っていける。
「真ん丸にするよ、真ん丸に……」
 鳳明は今度はつぶさないように、ガナッシュを手のひらで優しく丁寧に丸め始める。
「ミキサー使った方がいいのかな。でも、せっかくだから、手作りにこだわりたいー!」
 アユナは、バナナをスプーンでつぶしていた。
 そうしてまた、2人は作品を完成させた。
「ううーん、いびつだ」
「どろどろだよぉー」
 ……失敗作品を。
「2人ともに、罰ゲームが必要なようですね」
 セラフィーナが、にっこり2人に微笑む。
 どちらが先に完成品を作るか、2人は競っているのだ。
 負けた方には罰ゲームが待っているのだけれど、2人とも完成といえるようなものは、まだ1つも出来上がっていない。
「あともう少し、次は出来るもん!」
 アユナは次の材料を並べていく。
「私だって……次こそ」
「でもさでもさ、鳳明ちゃんは誰にチョコあげるの? お付き合いしてる人いるの〜?」
 お湯を沸かしながら、アユナがじぃーっと鳳明を見る。
「……え? えーと」
 少し目を泳がすけれど、アユナの視線からは逃れることが出来ず、鳳明はごにょごにょと話し出す。
その……リンス・レイスさん……
「……ふーん、ふぅーん、ふぅぅーん。鳳明ちゃんはアユナより先に幸せになっちゃうのかな〜。いいけどねーいいけどねぇ〜」
「あ、アユナさんだって、ファビオさんと連絡取り合ってるんでしょ?」
「メール交換してるだけだよー。電話だと、アユナ緊張して何言ってるかわからなくなるし」
 言って、アユナは赤くなっていく。先に鳳明も赤くなっているけれど。
「……頑張ろうね」
「うん、頑張ろ」
 大好きな人を想って、心を込めて、2人は長時間のチョコレート作りを続けていく……。

 その1時間後に、ようやく完成といえるチョコレートが出来上がる。
 鳳明は作り上げたトリュフを箱に入れて、可愛らしくラッピングしていき。
 アユナは、ほんのりオレンジの味がするババロアとチョコレートバナナプリンを1セット透明の袋の中に入れて、リボンをつける。
 2人はそれを、それぞれ小さな手提げ紙袋の中へと入れた。
「完成ー!」
「できたーーーー!」
 作業終了と同時に、2人は飛びあがって喜ぶ。
 互いの手や顔、エプロンにもチョコレートの粉が沢山ついてしまっている。
 ひとしきり、喜びあった後、2人は出来上がったお菓子を嬉しそうに見つめる。
「パラミタで初めての友達が百合園生のアユナさんで。初めて好きになった人はヴァイシャリーの人で……。なんだか私、ヴァイシャリーからは色んなものを貰ったんだなーって実感しちゃったよ」
 鳳明はしみじみそう言って微笑んだ。
「アユナも、ヴァイシャリーに来て良かったよ。怖いことも沢山あるけどね。鳳明ちゃんとは学校が違うけど、会えたのはアユナがヴァイシャリーにいたからだしね!」
 言いながら、アユナは清潔な布巾を濡らして鳳明の顔に手を伸ばした。
 そして、チョコレートパウダーで汚れた顔を、ごしごしと拭いていく。
「ありがとうっ。アユナさんは首についてるよ。じっとしててね」
 続いて鳳明も布巾を手にとって、アユナの首を拭いてあげた。
「……お疲れ様でした。罰ゲームは、必要ないかもしれませんね」
 セラフィーナがそう言うと、2人は嬉しそうに笑みを見せた。
「えへへへっ」
「うん、同時ってことで、いいかなっ」
 アユナと鳳明の晴れやかな顔を見て、セラフィーナの顔に安堵の笑みが浮かぶ。
 チョコレートを渡した後も、2人の顔に、幸せがあふれていますように。
 そう、願うのだった。