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第46章 あなたにとって、私は…

 バレンタイン当日。
 バレンタインフェスティバル最終日の今日、神代 明日香(かみしろ・あすか)は、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に誘われて、空京を訪れていた。
「この森の動物達のチョコが欲しいですぅ〜」
 エリザベートは生徒達へ贈るためのチョコレートを選んでいるのだけれど、先ほどから子供向けのチョコばかりに目がいってしまっている。
「自分用のチョコは最後に買いましょうね〜」
 お手伝いとして呼ばれた明日香は、エリザベートに変わって、イルミンスールの生徒達用のチョコレートを選んであげて、配送の手配もしてあげる。
「アスカ、あそこのカフェでおやつにしますぅ〜」
 エリザベートは、お菓子の家のようなカフェを見つけて、明日香の腕をぐいぐい引っ張った。
「はいはい、行きましょう〜」
 微笑みながら、明日香はエリザベートと一緒にカフェへと入った。
 バレンタインだから、本当はちょっとだけ期待していたけれど。
 やっぱりエリザベートはいつも通り、だった。
 皆へチョコレートを贈ろうとか、その手伝いとはいえ、明日香1人だけに声をかけてきたこととか。
 嬉しくもあるのだけれど……。
 明日香は椅子を引いてエリザベートを座らせた後、向かいに腰かけて少しだけ切なげに微笑みを彼女に向けた。
「はいどうぞ〜。エリザべートちゃんに私からバレンタインのプレゼントですぅ」
 バレンタイン特別セットを注文した後で、明日香は持ってきたチョコレートをエリザベートに差し出した。
「いただきますぅ〜。アスカはくれると思ってましたぁ〜」
 エリザベートは嬉しそうに明日香からのチョコレートを受け取った。
 喜ぶエリザベートを微笑んで見守りながら……明日香は、思いを巡らせていた。
 明日香にとって、目の前にるエリザベートは特別な存在だった。
 できれば、ずっと一緒にいたい。
 大好きで、愛しいエリザベートと一緒にいると、楽しいし嬉しい。
 エリザベートの願いを叶えてあげたいと思うし、守ってあげたいとも思っている。
(けれど……)
 エリザベートにとって、自分はどうなのだろうと、この頃明日香は考えてしまう。
 嫌がられてはいないし、ある程度頼られてはいる。
 それは、勘違いではない……はず。
「食事の後には、デザート食べますぅ〜。この店と同じ、小さなお菓子の家のチョコがいいですぅ〜」
 デザートのメニューを見ているエリザベートはご機嫌なようだった。
「アスカはどうしますぅ〜?」
 自分に向けられた、愛しい顔を目を細めて眺めながら「私も同じのを」と、言った後。
 明日香はこう、尋ねてみた――。
「私はエリザベートちゃんが好きです。特別なんですぅ……。エリザベートちゃんは……私のこと、どう思ってます、か――」
 突然の告白に、エリザベートは目を瞬かせて。
「ん〜……」
 そのまま眉を寄せて考え込み始めてしまった。
「エリザベートちゃん、やっぱり今のは無しで……」
 明日香はそう言って視線を外し、俯く。
 ――答えを直接聞くのが、怖い――。
「アスカのことは、そのぉ……好き、ですよぅ?」
 エリザベートの言葉に、明日香はパッと顔をあげた。
 エリザベートは戸惑うかのような表情を浮かべていた。
「好き、ですけどぉ……なんでしょう、アスカの言う好きと、私の言う好きは、違うような気がしますぅ。だから、はっきりと好きと言っていいのか、よく分からないのですよぅ……」
 エリザベートはまだ幼い。
 そして、肉親から愛情を受けて育てられなかったことが影響して、好きという感情を素直に表すことが出来ない。
 ましてや恋愛など、理解さえも今は出来ない。
「でもぉ、私はアスカに傍にいて欲しいですぅ。これははっきりと言えますよぅ」
 ただ最近はパートナー達や、明日香がこうして傍にいて愛情を注ぎ続けていることで、エリザベートの中にも変化、いや、成長が生じていた。
 好きの違いを認識し始めたことは、その現れだろう。
 エリザベートは袋を引っ張り上げて、中から包装紙にくるまれたプレゼントを差し出す。
 取り出したのは大きくて、ちょっと高いチョコレート。
 パートナーのだれかの分かなと思っていたものだった。
「これだけはアスカ用のですぅ。私が『特別』に用意しましたぁ。受け取ってくださぁい」
 エリザベートの『特別』という言葉が、明日香の胸に響き渡って、喜びの感情が溢れていく。
 多分――。
 きっと、自分は好かれている。
「はい……ありがとうございます、エリザベートちゃん」
 明日香はエリザベートに飛びついて、ぎゅっと抱きしめた。

 エリザベートから『特別』を貰って。
 それから、甘い食事を楽しんだ後、はぐれないように手を繋いで、一緒にイルミンスールへと帰るのだった。