シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第2回/全3回)

リアクション公開中!

【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第2回/全3回)

リアクション



 ↓ 
 ↓ 
 ↓ 

「俺たちは、いや、マルドゥークもイナンナだって、あんたらに危害を加える気なんか無いんだ」
 ただあんたらが聞き分けなく刃を向けてくるから仕方なく――― という文面は緋桜 ケイ(ひおう・けい)は一人、心の中で言うに留めた。
「あんたらの中にも居るはずだ、『本当はこんな事はしたくない!』『ネルガルの言いなりになるなんて御免だ!』って思ってる人が!」
「『我々は』」
 神官戦士の一人が歩み出て言った。
「『ネルガル様の思想と理想、そして描かれた未来を信じている。ただそれだけだ』」
「ネルガルの思想? イナンナを封印して、民を支配して苦しめる。これのどこに理想と未来がある?!!」
「『あのままでは…… イナンナ様が国を治めていたのではカナンの国に未来はない。 カナンの未来は我々が切り開くのだ!』」
 恐怖に脅えたものでも、常軌を逸したものでもない。しごく理性的に話しているように見えた。
「他の人はどうなんだ! ネルガルに家族を人質にされているんじゃないのか?! だから逆らえないんだろ?! 俺たちは! 俺たちが必ずネルガルを倒してカナンを救う、救ってみせる…… だから、今は退いてくれッ!」
 決死の思いで叫んだ。一人でも立ち止まってくれることを信じて。
 それでも誰もが『ハルバード』を構えて歩み寄り来た。
「ケイ、下がって」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が『吸血貴族の法衣』の裾を引いた。
「言うべき事は言いましたわ。彼らもそれに応えた。そしてあれがその答え」
 オルトロスを前衛に、またワイバーンも高度を下げている。あくまで女神像の破壊を完遂する、それが彼らの答えのようだ。
「ソア、私がサポートするわ!」
 パートナーの『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)ソアに『光る箒』を手渡した。怪犬が唸り声をあげているが、空を舞うワイバーンの方が数が多い。こちらの人数を考えれば、空に回れる者は回るべきだ。
「行きますっ!」
 ソアソラが空へ飛び出した。2つの『光る箒』、2つの光跡線が空へ一気に昇ってゆく。
「はぁああっ!!」
 場の注意が空に向く中、オウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)がいち早く仕掛けた。坂の中程、先頭にいた怪犬の足甲に『骨の短剣』を突き刺した。
「おぅっ! よっ、ととっ!!」
 双頭が、鋭牙が、その巨体が迫り来た。オウガは身を軽く跳ねるように避けながらに坂道を後登っていった―――までは良かった。
 最後に跳んだは坂の縁付近、小気味よいバク宙の着地点は坂を登り切っていた平地だったわけで、思わぬ平地に彼は――― コケた。
「おっと…………おぅっ!!!」
 上げた頭のすぐ上を何かが高速で過ぎた。
 もう少しで頭に直撃するようなスレスレを跳び過ぎたは、パートナーのグラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)だった。
 『迅雷斬』。『クレセントアックス』に電撃を纏わせた斧撃がオルトロスの首骨に刺さり、止まった。
「なんのっ!!」
 ここからは力技、『金剛力』で強引に斧を振り薙ぎると、首骨どころかもう一本の首まで刈り取ってしまった。
「ふぅ。アーガスの言った通り、雷撃は効くようじゃのう」
 力技で押し切ったでござろう…… と思ったが聞こえたか、いやそんなはずはないのだが。グランは「主は本当によくコケるのう」と言って笑った。
「べっ、別に好きでコケているわけではござらんぞ」
「かっかっかっ、当たり前じゃ、好きでコケる奴がどこにおる」
「むぅ……」
 なぜここで和やかになるでござる。伽耶院 大山(がやいん・たいざん)まで、「リカバリが必要か?」なんて言ってくる始末……。
 ――くぅ〜! もっともっと怪犬を倒してチャラにするでござるよ。
 オウガが妙な決意を固めた時、上空では空中戦が激化していた。
 結い彩るように2本の光跡線が空に敷かれてゆく。思わず見とれてしまいそうだが、うちの一本から『シューティングスター☆彡』が放たれた。同じタイミングでもう一方からは『光術』が放たれる。
 両挟みでこれを受けたワイバーンが奇声をあげた。
 ソアの選択に合わせてソラも魔法を選んでいた。各種満遍ない属性を使いこなす彼女だからこそ、またソアの好みも息遣いも理解しているからこそ成せる技であった。そんな素振りを見せないのもまた彼女の美学。
「今日は私が気を遣ってあげるわ。好きにやりなさい」
 ソアが『ブリザード』を、ソラは『氷術』を放った。広域に仕掛ける中に局地攻撃を混ぜた。属性を同一にしたのは、彼女の趣。視覚的要素を気に掛けてこそ空を舞う意が成り立つと信じてのことだった。
「来るよ! 崖下っ!!」
 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)の声に、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が反応する。崖下から飛び昇り来るワイバーンに『毒虫の群れ』を放った。
 眼球に激痛が走ったことだろう、飛竜は必死に目を閉じながらに崖に当たりて落下していった。
「上と正面から! 2体だよ!」
 2体……なれば。
「正面をお願いします」
 エオリアは『小型飛空艇』の艇首を飛竜へ向け、機体を旋回して迎え討った。『奈落の鉄鎖』を竜の額へ、重力に干渉して頭を下げさせ、飛行軌道を海面方向へ強引に変えた。
 正面の竜にはクマラが『ポイズンアロー』を、こちらも眼球を狙い撃っていた。狙撃の反動にバランスを崩し、彼の『小型飛空艇』は大きく揺れた。海に振り落とされる恐怖を覚えながらもクマラは『殺気看破』をどうにか唱え続けた。そして息も絶え絶えに、
「かっ、隠れて不意打ちなんて…… させないっ、んだからねー」
 と強がってみせた。心意気は◎である。
「ん? あれは?」
 パートナーたちの活躍を静観していたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)がそれに気付いた。一体のワイバーンが群れから離れた。
 ――逃亡……? いや、しかし方向が……
 南の方角。当然、北カナンとは逆なる方向。忍び足で空を飛んでいる、その背には潜むようにしがみつく神官戦士の姿が見えた。
 ――何だ? 何を見ている?
 『迷彩塗装』で姿を隠したままにメシエは竜のあとを追った。
 高度を上げて地平の先まで、南へ続く西カナンの大地を隅々まで見通しているような、そんな眺め方をしているように見えた。偵察を任務としているのだろうか、ならばなぜ今このタイミングで……。
 ワイバーンも次々に墜とされている。地上に残るオルトロスも1体となっている。その一体も女神像へ向かい駆けて、いま、斬られた。
「はあぁぁあああぁぁ!!!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が『ハイアンドマイティ』を薙ぎ払っていた。オルトロスの双首と神官戦士の胸鎧を裂き砕いた。
「くぅぅ〜、軽い軽い! やっぱり凄いわね、パワーブレス」
 大山が彼女に『パワーブレス』を施した。そこに、
「いやいや、ルカ殿の腕力があってこその所業、我の力など」
 彼女自身『ドラゴンアーツ』を唱えているが…… 腕力という言葉が気になったのか、
「そうなのよね〜、やっぱり腕、太く見えるよね〜」
「あぁいや、決してそのような…… そんなつもりで言ったのでは……」
 慌てふためく大山ルカルカは「冗談♪」と言って舌を見せた。
「ホァトアァアアア!!!」
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が叫んでいる。神官戦士の『ハルバード』を間一髪で、いや、全て見切った上で最小限の動きで避けているのだ、そうでなければあんなキモい動きにはならないはずだ。
 片足は遊び浮き、背を反らしてそこから捻って。白熊、ゆる族、白くて丸い大きな足で神官の頬を回し蹴る。
「ふっ! ふっ!!」
 グラップラー(武道家)をしているからだろうか、にしては若干に酔拳? 己が拳で神官を沈めてゆく様に酔っているのは確かだろうが。
 きぐるみの中から『隠し縫い針』が射出した。歩み始やの神官の首根に刺さり立った。
「手の届かない所にだって、目は光らせてるんだぜ」
 キラリン、というSEをハメてくれと言わんばかりに口端を上げてドヤ顔をした。ふぅむ、完全にバトラーズハイに陥っている。
「イナンナからの通信だ! 全員集まれ!!」
 ダリルが女神像の元へ降り来て叫んだ。余裕のない顔、鋭い声、『籠手型HC』を掲げ呼ぶ様は正に緊急事態を思わせた。
 ルカルカ大山ベアはもちろん、坂を守っていたグランたちも駆け寄りた。ここが勝機と神官どもが追い来た所で―――爆音が響いた。
 像を囲む半径10mの円周上に仕掛けられた複数の爆弾、それが一気に爆発したのだ。仕掛けたはダリル、起爆は『放電実験』による電気だった。
「ぁ…… ぁ…… ぁ……」
 突然の出来事、突然の大爆発を一行はただ眺めていた、言葉すら出なかった。そんな中、呆けるケイのすぐ横で、ダリルは、
「ふぅ。危うくお蔵入りになる所だったぜ」
 なんて言っていた。お蔵入りになんてされたら困るのは集落の人々だ。代わりに目の前で大爆発が起こるという衝撃を一行が得たわけだが、これをキッカケに神官たちが退却を始めた。
 4体のワイバーンに3人の神官、襲来時の編成を考えれば何とも寂しい様だった。
 東の空へ飛んでゆく。南の様子を見つめていた神官も同じに退却したが、どうやら退路を確認していた訳ではないようだ。
 ――いったい彼は何を……
 ここも追跡は行わなかった。ネルガルの元へ戻るのだろうが、この戦力で乗り込むは無理がある。駆逐しておくのも手だが、誰彼構わず傷つけるつもりはないとケイも言ったばかりだ。
 ただ一人、メシエだけが嫌な予感と余韻に包まれたままに皆に合流したのだった。