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曲水の宴とひいなの祭り

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曲水の宴とひいなの祭り

リアクション

 
 
 
   雛衣装は何を着る?
 
 
 
 葦原明倫館に通っていても、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は必要な時以外は和服の制服も着ていない。こんな行事があるならば、たまには着物で着飾ってみるのも良いだろうと、透乃はひな人形に扮することにした。
 部屋を埋め尽くしそうな貸衣装の間を巡り、やっと決めた衣装を手にする。
「うん、これに決めた」
「でも透乃ちゃん、それ男物ではないですか?」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)に聞かれ、透乃はうんと頷いた。
「折角だから私は男雛の格好になるよ。だから陽子ちゃんは女雛になって、セットになろうね〜」
「でしたら私が男雛になりましょうか?」
「えー、でも陽子ちゃんは剣の花嫁じゃない。やっぱり女雛のイメージだと思うな〜。私は顔も体型も思いっきり女だけど、陽子ちゃんより背もあるし、どうせ女用の着物を着るにも適していない体型だからあまり気にしなくていいね」
 こういうのはやったもの勝ち、と透乃はさっさと男雛の格好に着替えさせてもらった。
 折角だから少し偉そうに胸を張って歩いてみる。照れてしまいそうだけれど、こういうのはなりきった方が自分も楽しいし、見る客もその方が楽しんでくれるだろう。
 その透乃の隣を、女雛の格好に着替えた陽子が恥ずかしそうに俯きがちに歩く。借りた衣装はとても綺麗で……嬉しいのだけれど恥ずかしくもある。
 そうして2人寄り添って歩いている姿はまさしく、一対のひな人形のようだ。
 ただ歩くだけでなく、透乃は客を見ると積極的に近づいていって、雛祭りの説明や自分たちの着ている衣装の説明をする。和風のホテルではあるけれど、荷葉には日本人以外の客も多い。ただこうして華やかな祭りを見ているのも良いだろうけれど、色々知ればもっと楽しめるようになるに違いない。
「私の持ってるこの細長い板みたいなのが『笏』だよ。束帯の時に持つものなんだけど、裏側にカンニングペーパーみたいに、注意事項とかを書いたりもしたんだって。あと、私の冠の後ろからぴんと立ってるのは纓。直立してるのは天皇しか使えない特別のものなんだよ。えっとそれから陽子ちゃんが持ってるのが……」
「檜扇、あるいは袙扇といって、檜の薄板を要で留めたものです。開いて顔を隠すのに用いるのですが、裏表ともに美しい彩色が施されて、両側には6色の長い飾り紐がつけられているんですよ」
 せっかくだからと客と飲み物を楽しみながら、2人はあれこれと雛祭りの話に花を咲かせるのだった。
 
 
 
「お内裏様とお雛様はカップルさんがした方がいいよねー」
 十二単は去年着たことだし、とレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)と一緒に三人官女の格好をすることにした。自分とミアでもう2人だから、きっと三人以上の官女になるのは確実そうだけれど、正式に何人と決めてやるわけではないから気にしないことにする。
 鬘もあると言われたけれど、ずっと被っているのは大変そうだ。レキはいつもはポニーテールにしている髪を下ろして、官女の衣装を着せてもらった。
「うん、十二単より軽くて動きやすいね」
 後ろにぞろぞろ裳を引いていないから歩くのも楽だ。綺麗な衣装もいいけれど、やっぱり自分には動きやすい方が好みだ。
「準備は出来た? じゃあミアはこの桃の花の飾りを持ってね。ボクは甘酒を持つから」
「何じゃ、白酒ではないのか?」
「だってボクは未成年だし、学生さんのお客さんも多いからね」
 白酒だとミアが飲んでしまいそうだから、とレキは笑った。
「わらわは子供ではないのじゃから、白酒を飲んでも良いであろう」
「仕事が終わってからならね」
「では終わった後は飲ませて貰うぞ。約束じゃからな」
「うん。後で梅を見ながら飲もうねー。さ、今日はお客様に楽しんで貰えるようにがんばろー♪」
 レキははりきって甘酒を持って出かけて行った。
「えっと、お内裏様とお雛様で手の空いている人がいたら、お客さんとの写真をお願いできませんですか〜?」
 記念撮影したいと滞在客から頼まれて、ファイリアがきょろきょろと該当者を捜し歩く。
「みんなご用意中ですか〜?」
「ボクで良かったらお写真撮りますです! 天音おにいちゃんもいいですか?」
 お雛様捜ししているファイリアに気づいて、もう既に着替えを終えているヴァーナーが黒崎天音を見上げて聞く。
「構わないよ。その手伝いの為に来たのだからね」
「ありがとうなのですー。ではこちらにお願いしますです」
 ファイリアはヴァーナーと天音を客が待っている所へと案内していった。
「お待たせですー。お内裏様とお雛様、到着しましたですー!」
 待っていたのはまだ若い母親だった。
「家にいる娘にお雛様の写真を見せてあげたいの。撮らせてもらっていいかしら? できれば外の雛壇の近くで撮りたいんだけど」
 日本に伝わる雛祭りを娘に教えてあげたいからと言う母に連れられて、天音とヴァーナーは雛壇の所まで行った。
「背の高さで一緒に並んで写るのが難しいから、お雛様を抱き上げて撮ってもらっても良いかい?」
 天音はヴァーナーを抱き上げて雛壇の横に立つ。
 それを何枚か撮った後、今度は皆さんも一緒にと促され、右大臣の衣装を着たブルーズや着物姿のファイリアも入って雛壇を背景に記念撮影をぱちり。
「ありがとう。写真はホテルに預けておくから、良かったら受け取ってね」
 そう礼を言うと、若い母親は別の風景を撮ってくると急ぎ足で流し雛をしている方へと歩いていった。
 
 
 
「あ……お雛様……」
 着替えを終え、お内裏様と連れだって歩いて行くお雛様姿を、木崎 光(きさき・こう)は振り返って眺めた。
 ひな人形に扮してみようと思って衣装を選んでいたのだけれど、やるならどーんとお雛様をやってみたい。
(けどアレはお内裏様とセットで夫婦の役だしなー)
 お雛様だけではいけないということはないけれど……と光はちらっとパートナーのラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)を窺った。その視線には気づかず、ラデルは興味深そうに衣装の数々に見入っている。
「フム、これが日本の文化か……まさに異文化コミュニケーション」
 シャンバラ人であるラデルにとって、和服、それも平安装束は見慣れないものだ。
 ならば、これを着るんだとお内裏様の衣装を渡してしまえば……一対の男雛女雛となって……。
「だだだだダメだダメだ!」
 もやもやと浮かんできた妄想を光はもの凄い勢いで頭を左右に振って払いのけた。
 そりゃあ一番綺麗なお雛様の衣装は着てみたいけれど、ラデルとセットだなんて到底無理。
(俺様どーせどーせ、手のかかる子供くらいにしか見られてないし……な。てゆーか、そもそも女だと思われてないしな)
 そんな状態で男雛女雛に扮してもむなしいばかりだ。
「うっしゃ、俺はこれにするぜ!」
 お雛様の衣装はやめて、光は官女の衣装を手に取った。お雛様ほどではないけれど、官女の衣装も十分綺麗だ。
「それにするのか?」
「わ、悪いかよ! 俺様だってたまーにこーゆーキラキラした服着てみたくなったっていいだろ!」
「別に良いと思うが……何をそう興奮しているんだ?」
「うるせえ! ぐだぐだ言うとブッ飛ばすぞ!」
 光に食ってかかられて、このままにしておくと手が出るのを知っているラデルはじりっと下がって距離を取る。そこに光は右大臣の衣装を突きつけた。
「ってことでおまえはこれを着ろ。俺が官女なんだから、それより上の男雛なんて許さねえからな! 分かったか!」
 光はラデルにそう言うと、官女の衣装を着せてもらいにいった。ラデルもちょっと肩をすくめてから着替えに向かった。
 そして……。
「じゃーん! 超女らしい俺様完成!」
 官女の衣装を着、長い髪の鬘までかぶせてもらった光は上機嫌でのし歩いた。
 これでもう男に間違われたりしないと自信満々だが、その動作はどう見ても大和撫子よりも大和魂を感じさせるものだったりする。
「ぐおおおお! なんかコレ、重くね? 超重くね? コレまじで女の服なの? 鎧より重い気がすっぞ!」
「もう少し……いや、まあ好きにしてくれ」
 ラデルの方は右大臣の衣装を着こなしている。和服なんて縁遠いはずなのだが、すっとり伸ばした背筋と立ち居振る舞いがそれらしく見せてくれていた。
 光に任せておいたら確実に客に喧嘩を売りそうだからと、ラデルは応対を受け持った。なんということはない。笑顔でたわいもない話をしておくだけの社交ならば、貴族のラデルには慣れっこのものだ。
「ふはははは! そこの愚民ども! この俺様の晴れ姿を存分に見物するが良いわ! 写真でもなんでも撮るがよろしかろう! どうだ、キレイだろうキレイだろう。……キレイと言え!」
 その間も光はのしかかる重みに耐えながら官女姿でずんずんと歩き続ける。出来るだけ多くの人の目に、自分の女らしい格好を焼き付けておいてもらいたい。
「光、重い衣装でそんなに歩くと疲れるぞ」
 口は元気だけれど光の足下が怪しくなってきたのに気づいて、ラデルは手を差し出した。
「うー、ふらふらする……何だか気持ち悪いぜ……」
 光はラデルに掴まってふうと息をついた。少し大人しくなった光を見て、そういえばまだこの衣装を褒めていなかったとラデルは気づく。やはり、女性が正装していたら褒めるのが男性としての嗜みというもの。
「光、きみの和装はカンペキだ」
「な……!」
「和服というものは胸がないほうが良いのだろう。まさにきみの為にある衣装……ぐはっ!」
 無言で腹に繰り出されたパンチに、ラデルは身を折る。
 ――口は災いの元。
 
 
 
 今年も雛祭りに行かないかと日下部 社(くさかべ・やしろ)が言うと、日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)はすぐさま乗り気になった。そこで、雛祭りって何、状態の響 未来(ひびき・みらい)も誘って……というか半ば強制連行して、ホテル荷葉へとやってきた。
 あちらこちらを見て回っているところに、曲水の宴から戻ってきたばかりの五月葉終夏がやってきて、社に手を挙げる。
「あれ、やっしーも雛祭りに来たんだね」
「おお。って十二単か〜。去年ちーも着たっけな」
「うん。わあ、とってもきれい〜♪」
「ありがと。といっても、シシルが何か食べたいって言うからもう着替えるところなんだけどね。千尋ちゃんたちはこれから?」
 終夏に聞かれ、千尋は元気良く頷いた。
「ちーちゃん、今年は三人官女なんだよー♪」
「お雛様じゃなくて?」
「お雛様は未来ちゃんなのー! あれ? 未来ちゃんは?」
 さっきまで一緒にいたはずなのにと、千尋はきょろきょろと周りを見回した。
「俺探してくるわ。ちー、ここで待っといてな」
 社は通ってきた道を逆に辿り、未来の姿を捜した。どこにいるかと見渡せば、少し離れた所で鼻歌を歌いながら会場を眺めている未来が目に入る。
「ふっふ〜ん♪ ここはなかなか良い『音』がするわね♪」
 普段感じるのとはまた違った雰囲気、集う人々の醸し出す空気。未来はこの場に満ちる『音』を吸収するかのように深呼吸する。
「お? 機嫌良さそうやな♪ 何見とるんや?」
「あ、マスター」
 近づいてくる社に未来は雛祭りの会場を目で示す。
「私、この『音』が気に入ったわ♪ ずっと見ていたいくらい……」
「そうやな。皆、楽しそうにしてるよな〜。綺麗な格好しとるし俺も眼福やで」
 未来に同意した社は、その後に、で、と続ける。
「もっと俺を眼福させて楽しくなる方法があるんやけど試してみんか?」
「眼福? それは良い『音』がするもの?」
「もちろんやで。さ、ちーも待っとるで〜♪」
 その方法が、未来もひな人形の格好をすることだとは露知らず、未来は社について千尋が待っている所へと急いだ。
 
 そして……。
「えへへ、やー兄どうかな? ちーちゃん達可愛い?」
 官女姿になった千尋が両腕を広げて見せる。
「お〜♪ ちーは相変わらずかわええな〜♪ 未来もよぉ似合っとるやないか♪」
 いつもに増して可愛さアップの千尋の頭を撫でながら、社はお雛様の格好をした未来を目を細めて見る。
「ま、まさか私がこんな格好させられるとは思わなかったわ……」
 思いも掛けない自分の衣装に、未来は呆然としている。
 それを社は買い換えたばかりの新機種の携帯で記念撮影をパシャリ。
「こ、こら〜! マスター! 写メ撮るな〜!」
 照れた未来はぽかぽかと社を拳で叩いた。
「着替えで夜魅ちゃんと由宇ちゃんやミーナちゃんたちと会ったんだよー。やー兄、みんなの写真もとってー! みんなみんな可愛いんだよー♪」
「おっ、これだけ揃うと壮観やな〜。まさに眼福や」
 夜魅は千尋と同じく官女姿、咲夜 由宇(さくや・ゆう)咲夜 瑠璃(さくや・るり)ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が五人囃子でフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)はお雛様。
 ずらりと並んだところはまさにひな人形。
「撮った写真のデータは後で送るさかいな」
 きっと記念になるだろうからと、社は写真を撮りまくる。
「今度はこっちも見て下さいね」
 コトノハもデジカメを構え、夜魅を含め皆の姿を撮影した。
「さ、一緒にお客さんに挨拶しに行くで」
「うん。じゃあお客さんのご挨拶に行ってきまーす! みんな一緒に行こー♪」
 にこにこと最上の笑顔で、千尋は皆と一緒にホテルの客への挨拶に出かけて行った。
 
 
 そんな楽しそうな着替え風景の中。
 白菊 珂慧(しらぎく・かけい)は困惑しきった顔つきで、ヴィアス・グラハ・タルカ(う゛ぃあす・ぐらはたるか)から渡された衣装に目を落としていた。
 雛祭りに行ってみたいというヴィアスの付き添いがてら、裏方でも手伝おうと普段着で来たのだけれど。
「白菊もひな人形になるのよぅ」
 ひな人形の衣装を渡されても困る。実に困る。
「ねえ、ヴィー。せめて五人囃子とか……前回も童子役だったし、あれくらいならなんとか……」
 それでも珂慧にとってはぎりぎりの譲歩だったのだが、ヴィアスは納得しない。
「今日は女の子のお祭りなのよぅ。今日くらいは我が侭聞いて欲しいのよぅ」
「あの、ほんとう、僕、そういうのは……に、似合わないし、だから、えっと……」
 ヴィアスが差し出してくる衣装は、鮮やかな色彩に施された刺繍も見事なものだ。鑑賞する分には良いのだけれど、これを自分が着たところを想像するのは怖い。
 断る以外の選択はないと珂慧は抵抗するのだが。
「白菊、怒った……?」
「いや、怒ってるわけじゃなくて……」
「……白菊と一緒にお雛様になるの……楽しみにしてたのに」
「あ、いや、そこで泣かれても……」
 金色の綺麗な瞳が涙にうるむのを見ていられなくなって、珂慧は遂に折れる。
「……わかった。わかったから。なんでも着るから」
「だったらすぐにお着替えするのよぅ!」
 途端に笑顔になったヴィアスに官女の衣装を押しつけられ、珂慧は深い深い後悔と共に着替えに向かった。
 仕方なく着てはみたものの……。
「……どうしよう、これ」
 こんな姿を知り合いに見られたくない。髪はウィッグをつけているから良いとして、背もちょっと高めの女の子として通せないこともない。
「問題は顔だよね……」
 薄化粧されて紅を差されているから印象はだいぶ違うはず。それだけに見つかった時の恥ずかしさもマックスだけど。
 しとやかさを装って、うつむき加減にしておけば多少は目立たないだろうかと、しずしずと歩いてみる。
 そんな珂慧の姿をこっそりと携帯で撮影しておいてから、ヴィアスは一緒に客前に出た。
 ヴィアスの方はお雛様の衣装だ。何枚も色が重なった衣装はとても綺麗だけれど、想像以上に窮屈だ。本で見て憧れていたのと着るのとはやっぱり違う。
「ヴィアス、歩ける?」
 衣装の重みによろめきかけるヴィアスに珂慧が手を差し出す。
「白菊こそちゃんと前見て歩かないと危ないのよぅ」
「うん……一応は見てる」
 重い衣装のお雛様と俯いた官女は支え合うように寄り添って、庭へと向かう。
「ヴィー、できるだけ隅っこに……」
「何言ってるのよぅ。お客様をおもてなしして、お礼においしい料理を食べるのよぅ」
「いいけど、その衣装で食べられるのかな」
「……うう……ちらし寿司食べてみたいのよぅ」
 さっき運んでいくのをちらっと見たちらし寿司はとても綺麗だった。あれは是非食べてみたいのに、とヴィアスは雛衣装を恨めしげに見やる。それでも着たばかりの衣装を脱ぎたくはないし……。
「お持ち帰りは無理なのかしら?」
「傷むものはダメなんじゃない? お菓子ならいけるかも知れないけど」
「お菓子……せめて雛あられはゲットしたいわ。可愛い食べ物なんだものー」
 あの可愛い色彩のお菓子を食べ損ねたら絶対に後悔する、とヴィアスが力説していると。
「良かったら雛あられ、包んできてあげるわよ」
 着付けの手伝いをする合間に抜けてきたアルメリアがそう声をかけてきた。
「包んできて欲しいのよぅ」
「ワタシに任せておいて。可愛い子の頼みなら何でも聞いちゃうわよ。その代わり、ちょっと写真を撮らせてね。こんな格好滅多にしないでしょうし、いい記念になるんじゃないかしら?」
 写真を撮るのは得意だから、とアルメリアはカメラを取り出した。
 雛あられも確保できて、この姿をきちんと写真に撮ってもらえるとなればヴィアスに否はない。
 さっそく珂慧と並んでヴィアスは檜扇を構えた。
「えっ、ぼ、僕も……?」
「当然なのよぅ」
 官女はお雛様と違って檜扇は持たせてもらえない。珂慧は仕方なく、三方を高く掲げてできるだけ顔を隠した。
「あら、そんなに上げたら顔が見え無くなっちゃうわよ?」
 アルメリアからの注意に、しどろもどろになりながら珂慧は言う。
「や、大和撫子というものは、こうして、恥じらい……を、持つもので、あって……」
「ちゃんと可愛く撮ってあげるから、それはもう少し下ろしてね。そうそう、あ、もうちょっと寄り添ってー」
 アルメリアはさささと衣装を整えて、2人に可愛くポーズをつける。何が始まったのかと足を留める人も出てきて、抵抗すればするほど目立ってしまうことに気づいた珂慧は、ひたすらこの時間が早く終わってくれることを願いながらアルメリアの言うとおりに小首を傾げたポーズを取る。……視線が泳いでしまうのだけは、止めようが無かったけれど。
「はい、撮れたわよ。写真送るから連絡先を教えてちょうだいね」
 ちゃっかりヴィアスの連絡先を手に入れると、アルメリアはまたねと笑ってまた別の女の子の写真を撮りに行くのだった。