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リアクション
第34章 大丈夫だよ
「やほやほー、ミルミちゃん。甘いもの食べにいかなーい?」
「ミルミ、今日はちょっと用事が……」
「ミルミちゃんのスケジュールは確認済! 今日はお昼寝をするっていう大切な用事があるんだよね。お昼寝もちゃんとつきあったげるよー。さあいこう、行こう!」
休日にミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)の家を訪れた牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、半ば強引にミルミを街へと連れ出した。
「こういう時期はスイーツ豊作だからね! むぎゅっと」
何時ものように、ぎゅっとミルミを抱きしめると、ミルミは何時ものような嬉しそうな反応を見せた。――否。
抱きしめた感触で、いつもとは違うということが、アルコリアには分かった。
それは抱きしめる前から、分かっていたこと。
街で焼き菓子や、フルーツ、飲み物を沢山購入して、2人は街を見下ろせる塔へ向かった。
そして塔の最上階で、窓際のベンチに並んで腰かける。
「甘えてもいいんだぞーぅ?」
アルコリアはミルミの頭をぐりぐりと撫でると、ミルミはちょっと笑みを浮かべて……少し、距離をとった。
「ミルミ、いつも皆に沢山甘えてるからいいんだよー。お菓子美味しいね。この苺のとか、カノジョに持って行ってあげたら?」
「うーん、恋人に気を使ってるのかな?」
「あんまり近づきすぎると、誤解させちゃうからね!」
にこっとミルミは笑った後、手の中の菓子に視線を移して「美味しい美味しい」とつぶやきながら菓子を食べていく。
「ふっふーん、私の恋人は素敵人間で器が広いのです。今日も彼女が送り出してくれたんですよ」
傷つけたのなら謝って来なさいと、アフターケアしなさいと、アルコリアは恋人に送り出されて、ここに来たから。
(あの子は間違いなく イイ女。幼女だけど ばった食べてるけど)
くすりと微笑みながら、もう一人の好きな子をアルコリアは愛おしげに見る。
こっちの彼女は、心を閉ざしてしまっている。
本心を閉じ込めて、今まで通りを演じようとしている。
それもまた、アルコリアの為なのだと。本当はとても我儘な子なのに、アルコリアの為に感情を抑えて必死に普通を装おうとしているということ。
全て、分かってしまう。感じてしまう。
「ミルミちゃ〜ん」
「あ……」
アルコリアは両手でミルミを抱え上げて、自分の膝の上に乗せた。
頭を撫でて、ぎゅっと抱きしめて。
「こっちもすごく美味しよー。甘い甘いお菓子ですよー」
苺のスイーツをミルミの口の中に運んだ。
「……うん、美味しいね」
ミルミはにっこり、微笑んだ。
「でしょ……?」
アルコリアは膝の上のミルミを撫でながら一緒にヴァイシャリーの街を見下ろす。
どれだけ抱きしめても、ミルミが嬉しいとは思わないことも、真に甘えてはくれないことももうわかっているから。
会話も、動きも、途切れてしまう。
「色恋の季節だし、こんなお話を」
何時もより小さくて、いつもより真面目な声で、アルコリアは語り始めた。
ある所に、好きと愛してるの違いが良く分かってない人がいました
とっても好き と伝えられても
欲をかいたのでしょうね。
こう、考えました
好き=愛することは出来ない
という否定の意味にとってしまい
悲観的に、それでも自分『だけ』は愛そうと
「ミルミ、頭あんまりよくないから、よくわからないよ……アルちゃんのこと?」
ミルミの言葉にアルコリアは息をついて、苦笑する。
「いやいや、馬鹿な受け止め方。馬鹿な事をしたものだと、今ならそう思うのですよ」
そして、その馬鹿な女の考え方じゃ、家族に対する愛も敬う人に対する愛も、友人に対する愛も存在できない、と言葉を続けた。
「ということで、二股はしませんが。ミルミちゃんらぶぃで今後ともよろしくお願いしまーす」
またぎゅっと、アルコリアはミルミを抱きしめる。
「……大丈夫だよ」
ミルミも小さな声で語り始める。
「ミルミは、アルちゃんのことこれからもずっと好き。だけどね、1番好きになったらいけないんだと思う。ミルミも他にも、ミルミのことを好きだと言ってくれる人を探さないと……。好きになってもらえるように、頑張らないといけないって今、思ってるの」
自分を後ろから抱きしめているアルコリアの腕を、ぎゅっと握りしめた。
「アルちゃんがミルミのことを嫌いになったんじゃないってことも、わかってるよ。だけどね、ミルミのことを一番って思ってくれていた……ってことが、本当に嬉しかったの。だから今は、アルちゃんとこうしていても、寂しいの。心の整理が出来るまで、もうしばらく時間ちょうだい、ね」
「よーしわかりました。わかりましたよー。ミルミちゃん」
アルコリアはミルミの頭に頬を当てて、彼女を抱きしめた。
しばらくは、こうして抱きしめることが出来なくなるかもしれないから。
ミルミは一度も、アルコリアに恋人になってほしいとは言わなかった。
アルコリアも一度も、交際を申し込んではいない。
多分自分達が求めたいた愛の形は、恋人とは別の形。
いつか2人は、互いの精神が理想としている形で、愛し合うことが出来るだろう。