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手を繋いで歩こう

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手を繋いで歩こう
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リアクション

「怪我はもう本当に大丈夫か?」
 康之は、アレナを、話があるからと、隣の休憩室へと連れ出していた。
「本当に大丈夫です。体力は落ちてるみたいなので、これからゆっくりリハビリをして、ちゃんと優子さんについていけるよう、頑張ります」
「そっか、無理するなよ」
「はい。康之さんも大丈夫ですか? その……怒られたりしませんでした?」
「いや、呆れられたりもしたけど、ほとんどの人が褒めてくれたよ」
 康之の答えに、アレナはほっとして微笑を浮かべる。
「ちょっと、座ろうか」
 康之は微笑み返した後、アレナを誘って室内のソファーに並んで腰かける。
「地上に帰ってきて、色々考える時間が出来た時に、思ったんだ」
 そして、ゆっくりと語り始めた。
「俺は、アレナにどう思われてるのかって」
「……」
「考えたら、アレナからしたら俺は離宮の事件で初めて会って、ちょっと親しくなった関係でしかねえ。なのに色々動いてたかと思えば、一緒に封印までされてる」
 康之はアレナに真剣な目を向けた。
「そんな俺の事を、アレナはどう見てるか?」
「私が……康之さんを、どう見ているか?」
 小さなアレナの声に、康之は首を縦に振る。
「その辺を聞かせてほしいんだ。悪く思われてねえなら……アレナの事をもっと教えて欲しい」
「もちろん、悪く思うようなことは、何もないです」
 すぐに、アレナははっきりと答えた。
 だけれどその先の言葉は、すぐには出てこないようだった。
「わかってる。アレナの一番は優子さんだ。けど俺の一番はアレナなんだ。なのに、アレナの事をほとんど知らねぇ。知ってる事といったら……」
 おっとりぽわぽわしてる子だということ。
 そばにいると暖かい気持ちになれる。
 そして、結構頑張り屋さん。
 康之は自分が感じているアレナの印象を語っていった。
 十二星華に関することは、あえて口に出さない。
「それくらいしか、知らないんだ。だからアレナの事を少しずつでいいから知りたい。……理由は、一番笑顔でいて欲しいたった一人の女の子だからじゃダメかな?」
 アレナは僅かに困ったような顔をする。
「私は、これからどうなろうか、今考えてるところで……。1年後の自分は、今とは全く違うのかもしれません。過去の私も、優子さんに出会った時の私も、随分違いました。康之さんと出会った時の私は、あまり周りのことなんて考えていなくて……優子さん以外、大切に思う人もいませんでした。早く死にたいと、よく思っていた、かもしれません」
 でも、とアレナは言葉を続けていく。
「今は、優子さん以外の人も、見えるようになって。私も、私として生きて、頑張りたいと思うこともできるようになっています。そう、思わせてくれたのは、私を導いてくれた方や、私のことを守ろうとしてくれた、康之さん達がいるから、です」
 アレナはぺこりと頭を下げた。
「だから、私は康之さんに感謝しています。一緒に離宮に残ってくれたこと、も。全て、感謝したりないです。私にできるお返しは、出来る限りしたいです……」
「感謝は、俺だってアレナにしてる。そうじゃなくて」
 康之は手を伸ばして、そっとアレナの髪に触れた。
 アレナはただ、不思議そうな目で康之を見ている。
 このまま――。
 頬に触れて、首筋に触れて、引き寄せて、抱きしめてしまい。
 そんな強い衝動を抑えて、拳を握りしめ、康之は手を下した。
「私は剣の花嫁として、優子さんのパートナーとしてこの時代で生きたいって、今は思ってるんです。優子さんが倒れた時は、武器として半身として、一緒に。眠るときには、一緒にお墓に入れてもらうんです。優子さんは特別。優子さんに力を貸してくれる人や、守ってくれる人が私は大好き、皆を後ろで見ていることが、すごく嬉しいんです」
 知ってはいたが、アレナの優子への思いは、恋愛とは違うが極端に強すぎる。人間の康之からみれば、異常なほどに……。
「そして」
 アレナの話には、まだ続きがあった。
「康之さんも、特別……なんです。壊れてしまいそうな時、傍にいて救ってくれた人だから……」
 アレナはちょっと涙を浮かべながら、微笑んでいた。

「どうやら何事もなく、終わりそうですね」
 受付を担当していたマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)が、名簿を手に会場の入口から中の様子を見ている。
「うん、錚々たる顔ぶれで、どーなることかと思ったけれど、大きな問題はなかったね。バカ騒ぎする人もいないし……ちびちゃんが一番騒がしいくらい」
 崩城 理紗(くずしろ・りさ)がくすりと笑みを浮かべる。
 今日はホワイトデーだから。
 会場に残って、談笑を楽しんでいる人もいれば、お相手を連れ出して、2人だけの時間を楽しんでいるカップルもいる。
 パラ実生も何人か参加しているが、彼らを含め羽目を外す者はいなかった。
「さて、そろそろお開きですね」
「うん、おねーさまに、じかんですって、伝えてくるね」
 理紗は亜璃珠に時間を知らせるために、駆けて行った。
 バルコニーから戻って来たパッフェルも、休憩室から戻って来たアレナも。
 大切な人と、友人達に囲まれて――幸せそうだった。