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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

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 大階段を登りきった先は開けた踊り場になっていた。砂が積もった石床を駆け、その奥に佇む木造の大扉を、
「ふっ!」
 グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)が蹴破った。
 巨大なコンテナのように白い壁だけが目に付いた。左右に扉が2つずつ、突き当たりに壁はなく、柵のように円柱が並んでいた。
「どちらです? メルカルトさん」
「このまま正面に抜ける! その先にある階段だ」
「また階段ですかっ!!」
 思わずメルカルトの顔を見返してしまった。意識が逸れたのは瞬間だったはずが、
「………」
「きゃっ!」
 レイラ・リンジー(れいら・りんじー)グロリアを押し退けた。円柱の陰から現れた神官兵、グロリアへ向けられた掌をレイラはいち早くに気付いて斬った。
「はっ!!」
 グロリアは先程の扉にしたように遠慮なしに蹴り飛ばした。神官兵は投げ放られたように宙を舞って背中から落ちた。
「ありがと、レイラ」
「………」
「油断するな」
「……むぅ」
 誰のせいですかっ、という言葉を飲み込んでグロリアレイラと背中を合わせた。
 『油断するな』なんて、言われなくても分かってる…… でも確かに神官兵があんなに素早く動けるなんて思ってはいなかった、これは油断…… だったのだろうか。
「いいえ、そうだったとしても、先の一瞬が最期です」
 柵のように見えた円柱の並びは通路の壁の役割をしていたようで、対面に同じ間隔で円柱が並んでいる。『殺気看破』を発動してみれば、先程のように陰に隠れているといった事はないようだったが、今度は左右正面から神官兵が走り寄り来た。
「ここは私たちが!」
「……まかせて」
 『パワード』シリーズをフル装備した2人は肉弾戦で迎え討つ。左右からの兵に2人が飛びかかる内にメルカルトを含む一行は正面へと駆け抜けた。
「あら」
 緊迫した状況下だというのにアンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)は柔らかい声で前方の敵を捉えた。
「もう見つかってしまいましたね」
 進行方向に2名、その内の一人が『火術』を放ってきた。
「退いてよ」
 テオドラ・メルヴィル(ておどら・めるう゛ぃる)が盾となるべく前に出た。が、無論に体で受けるつもりはない。
「火には火を」
 放った『火術』が向かい来るそれと衝突して爆発を起こした。2名ともに「くっ」と腕を顔前に出して飛び火を防いでいたが、警戒するべきは自身の後方だった。
「おやすみなさい」
 アンジェリカの細い手が首に回されて触れたと感じた次の瞬間には2名は眠りに落ちていた。
「良い眠りを」
 神官兵にも『ヒプノシス』は有効のようだ。
「ククク、今日もエグイねー」
「なっ、そんな極悪人みたいな言い方しないでよっ」
「ケケケ、言ってな」
 目指している階段の上から3名、奥の通路から2名が駆けてくるのが見えた。
 放たれた『火術』にテオドラが『火術』をぶつけて相殺した。その様を見つめて、
「おかしいね」
 と祠堂 朱音(しどう・あかね)は呟いた。そして、
「ジェラールは階段の敵! 香住姉は正面を!」
 と指示を出した。確かめたい事がある、その為にはとにかく敵を止めて貰わねば。
 ――エントランス?
 吹き抜けと呼ぶにも高すぎる天井。『小型飛空艇』が50台は収容できる程に広く開放的な間取り。そして部屋の奥中央には巨大な階段が居座っている。
 ――敵を向かえ討つには絶好の場所だけど、でも……。
 大きな爆発音がして朱音は顔を上げた。神官兵が放った『雷術』に須藤 香住(すどう・かすみ)が『歴戦の魔術』をぶつけて起きた爆発だった。
「雷術も…… 使えるのね」
 テオドラが相対する神官は『火術』を使っていた。しかし香住の前に立ちはだかる兵は『雷術』を―――そして。
「ぅんっ」
 今度は『氷術』を放ってきた。これも同じに相殺したが、なるほど幾らか分かってきた。
「朱音…… 敵は魔法使いのスキルは一通り使えるみたい」
「そう。厄介だね」
「でも威力はさほど無い…… 難しくない」
 フラワシを盾にしたり牽制に使ったり、とも考えていたが敵は動きも速くない。香住は『魔道銃』を手にして構えた。
 次に起こった爆発は音だけだった。ジェラール・バリエ(じぇらーる・ばりえ)が発した『ロケットパンチ』が階段を吹き飛ばした音のようだ。
「ちょっと! ジェラールっ!!」
「大丈夫、端は残ってるだろぅ?」
 だろぅ?って…… 確かに階段の両端はどうにか残っている、というよりどうにか手摺に引っ付いているように見える。登れない事はないだろう。
「悪いな」
 端を蹴って跳び越えたジェラールは『則天去私』で兵の一人を蹴り倒した。さっきの『ロケットパンチ』に一人巻き込まれていたから、残りは一人。イケる。
「シャルル! 行って!!」
「おぉ〜っし!!」
 朱音の声にシャルル・メモワール(しゃるる・めもわーる)が勢いよく応えた。『光る箒』に跨りて宙に浮き、階段を登っていった。
 途中が崩れていても関係ない、シャルルは「おぉお〜」と空を飛び行ったのだが―――
 ―――!!!―――
 ジェラールが気付いた。頭の上をシャルルが通り過ぎた時に『殺気看破』がそれを感じ取った。
「待て! シャルル!!」
「へっ? うわっ!!」
「シャルル!!!」
 輝く箒ごとシャルルは通電した後に吹き飛ばされた。
「くそっ」
 手をいっぱいに伸ばしてシャルルを抱き止めた。彼女の皮膚は広く火傷を負っている。喰らったのは『サンダーブラスト』だろうか。
「だ〜ひゃっはっは、そう簡単には上がれるわけ無ぇ〜だろ、バァ〜カ!!」
「キミは……」
 段上から姿を見せたのはゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)、『サンダーブラスト』を放ったのも彼のようだ。
「あ〜らら、ずいぶんと派手にやってくれちゃって。城を壊すと怒られちゃうよ、マルドゥークに」
「キミが言うことじゃない!!」
 激昂してみせたが、朱音の頭は冷静だった。なるほど、彼のようにネルガルに仕官した生徒が城内に居るのなら、初めに待ち伏せを喰らった事も神官兵たちの素早すぎる情報伝達にも納得がいく。戦い慣れていないはずの神官兵たちは彼らに従って動いていたという事だ。
「はあっ!!」
「おっと」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)ゲドーに斬りかかったが、『聖剣エクスカリバー』と『翼の剣』が何度か打ち合った後に互いに弾いて間合いを取った。
「ダメだって、上がって来ちゃ」
「えっ。きゃっ!!」
 壁に埋まっていたというのか? 壁から飛び出した『アンデッド:ゾンビ』が腐った体ごとフィリッパに体当たりをした。
「まだまだ出るよん」
 段上の壁や階段の下からも『アンデッド:グール』『アンデッド:レイス』『アンデッド:スケルトン』『不幸(アンデッド:ゴースト)』『バレンタインアンデッド(アンデッド:ゾンビ)』が次々と飛び出してきた。
「フィリッパ!!」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が抱き止めた。ゾンビには顔に踵撃をプレゼントしてあげた。
「こんのぅ!!」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は両手でしっかり『ジェットハンマー』を握り、体の周りを3度ほどで振り回して加速をつけると、その勢いのままに腐体に向けてスイングした。
「ヒット! ツーベース!! スリーベースッ!!!」
 薙り、振り落とし、また薙る。言葉とスイングの種類が噛み合っていなかったが、それはとにかく。セシリアは、グール、レイスにスケルトンを次々に打ち飛ばしていった。これに、
 ――サイクルヒットはさせません!!
 と、シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)が妙な対抗心を燃やしていた。そして彼女もまた、
「はっ! やぁっ! はぁああっ!!!」
 と連続した攻撃を仕掛ける。『光術』『氷術』『雷術』をそれぞれに撃ち込み、そして―――
「ゾンビはよく燃えるそうですね」
 最後に『火術』を唱えて腐した体を炎に包んだ。
「さぁ、どうするですぅ?」
 メイベルは『殺気看破』を発動して階上へと瞳を向けた。
 シャーロットセシリアも無事に着地した。急襲のアンデッドたちは全て打ち伏した。少しばかりの不満はゲドーだけが今も段上に居るという事だった。
「次はあなたが来るですか? それとも大人しく―――」
「大人しくされていては困りますわ」
 ゲドーの背後から声がした。近づく足音の次に見え現れたのは、蒼く清楚な修道服だった。
「なぁんだ、出て来ちゃったのぉ? ひゃはっ。これであいつ等みんな地獄行きだな」
 ゲドーの言葉にアバドンはため息をつくと、
「まったく。ここまで使えないとは思ってませんでしたわ」
 慈愛に満ちた笑みで階下を見下ろした。
「ずいぶんとお強いのですね、シャンバラのみなさん」
 エントランスに寄ってきた神官兵は全て須藤 香住(すどう・かすみ)たちが地に伏せていた。グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)たちも丁度に合流を果たしている。彼女たちも大階段の元へと歩み寄りて階上を見上げたが、真っ先に驚きを顔に示したのはメルカルトだった。
「アバドン…… なぜお前がここに居る」
「まぁ。私の事をご存じなのですか? 賢い方ですわね」
「兵を率いているのは誰だ! 答えろ!!」
「賢いあなたならお分かりでしょう? 兵を率いているのはですわ。この城はネルガル様より頂戴した私のお城です」
「そんなバカな! お前のような者に…… お前はただネルガルに付いていただけの―――」
「付いていただけの神官、ですか。そのように見えていたのなら、嬉しい限りですわ」
「何を言っている……」
「ソイツがここの大将だよ」
 アバドンと同じ階上から椿 椎名(つばき・しいな)が声を投げた。通路の先から、椿 アイン(つばき・あいん)に『水中銃』の銃口を向けさせながらにゆっくりと歩み寄った。
「この城を任され、神官たちの指揮をとっていたのは、この女だ」
「あら、椿さん。裏切るおつもりですか?」
「ソーマはどこだ! どこに隠した!」
「隠してなどいませんよ。今もずっと変わらずに同じ場所にあるはずですわ。キシュの神殿に」
「やはりそうか」
 居城内は全て探した、普段奴が使っている部屋も物資庫も地下水道も。それでもソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)の姿はなかった。同じく石像にされた者の姿も見つからなかった。奴のいう通り、石像は神聖都キシュにあるのだろう。
「だからアンタを捕まえてネルガルと取り引きしようと思ってね。可愛がられてるんだろう? 征服王に」
 椎名はジリと爪先を進めた。階下の生徒たちもまたアバドンに飛びかかる初動の機会を窺い、各々の武器を強く握った。