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リアクション
■ ウェールズの小さな家 ■
珍しく、地球に里帰りするとカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が言い出したので、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)もそれに同行することにした。
地球での行動でカレンに護衛が必要だとは思えないが、カレンの父親に会えるかも知れないとなれば付いていくしかない。カレンが父の影響を受けパラミタで遺跡探索を始めた結果、その遺跡の1つに封印されていたジュレールと出会った。となれば、そのきっかけを作ってくれた父に礼の1つも言わねばならないだろう。
「地球に降りるのは久しぶりだな」
カレンの案内でイギリスのウェールズにあるカレンの実家に向かいつつ、ジュレールは久しぶりの地球の風景を楽しんだ。
「そうだね。でも待っててくれる人がいるかどうかは分かんないけどね」
母はカレンが幼い頃に病気で亡くなっている。
父は健在……と言いたいところなのだけれど、カレン自身もう何年も会っていないので、断言することは出来ない。
カレンがパラミタ行きを決意して故郷を離れるときにも、父は家を留守にしていたほどなのだから。
「カレンが遺跡探索をしたのは父君の影響と聞いたが……」
「うん、そうだよ。父さんは世界を旅して秘境や遺跡を回っているんだけどね、たまに家に帰って来るときには、小さかったボクに色んな話をしてくれたんだ。今のボクが、とにかく知りたがりで謎めいた事や面白い事に首を突っ込みたがるのは、その事が少なからず影響してると思う」
父の話してくれる冒険譚はどれも、カレンをわくわくさせ、自分もその世界に行ってみたいと思わせた。危ない目に遭った話もしたけれど、それを乗り越えて帰ってくる父はカレンにとって憧れだった。
「まぁボクは様々な面で父さんの血をしっかり受け継いだって所かな」
そんな風に語るカレンに、ジュレールはますますカレンの父という存在に興味をかき立てられた。家にはほとんどいないらしいが、会えるか、その人となりを知る手がかりでもあれば、今のカレンの無鉄砲さが出来上がった経緯の一端でも分かりそうな気がする。
「しかし、随分と遠いのだな」
交通機関を乗り継いでやってきて、それだけでも遠い気分がしていたのに、そこからもうかなり歩いている。
「これでちょうど半分くらいかな。うちは本当の田舎だからね。でも不便だけどいいとこなんだよ」
周囲の景色を眺めながら、カレンは残り半分の距離をゆっくりと歩いていった。
そしてようやくたどり着いた、小さいけれど懐かしい家。
いつ帰ってきていつ出掛けて行くとも知れない父だけでは、家が荒れ放題になってしまうからと、カレンは家を出るときに近所の人に手入れを頼んであった。その頃と今と、何の変わりもない。
久しぶりに使った家の鍵で中に入ってみると、家の中も埃1つなくきれいに片づいていた。
「カレンがするより綺麗なのではないか?」
「そうかも。後で村の人たちにお土産と一緒にお礼も言わないとだね」
掃除をしてくれている村の人に感謝しつつあしを踏み入れた家には、やはり人の気配はなかった。
2階に上がって父の部屋を覗いてみると、誰もいない部屋に机の上には手紙が束になっておかれていた。
「そういえば、パラミタから何回か手紙を送ったけど、全然返事も来なかったなぁ」
「ふむ……だがこの家をればカレンがどの様に育ったか手に取るように分かるな」
ジュレールはカレンの父の部屋をぐるりと見渡した。
本棚には様々な分野の書が並び、部屋の一角には古い時代の発掘品や、用途も知れぬ謎の品が飾られている。
「父君は相当な博学の士であったと見受けられる」
自分のパートナーもこれらの本や品を手にして、まだ見ぬ広大な世界に思いを馳せたのだろう。そんなカレンにとっては、パラミタはまさしく新天地。日々生き生きと飛び回っているのも納得できるというものだ。
カレンの方はといえば、もう手紙から意識は別の方へと向いている。
「この部屋から見える村の景色は最高なんだよ」
そう言って窓を開けて、吹き込んでくる風を胸いっぱい吸い込みながら、カレンは外の風景を眺めた。
今しがた自分たちが歩いてきた村に続く1本の道を、誰かが歩いてくる。
それはとても懐かしいけれど、とても見慣れた姿。
カレンは瞬時に身を翻し、階段を駆け下りた。
扉に突進して開けると、外へと飛び出す。
「父さん、お帰り!」
いつも土産話を持ってきてくれるのは父だった。
冒険をしてくるのは父だった。
けれど今日はカレンもたくさん話をしよう。
パラミタでの冒険、父が見たことのない場所、体験したことのない出来事を――。
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