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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 開かれた過去への扉 ■
 
 
 
 1年前に里帰りしたときはルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)だけしか伴わなかったけれど、今年の里帰りは蒼灯 鴉(そうひ・からす)オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)も一緒だ。
 スーワン教会に続く道を、師王 アスカ(しおう・あすか)は懐かしい風景を確かめるように。ルーツは去年辿った道を思い出すように。
 鴉は物珍しそうに周囲を眺め、そしてオルベールは……皆から少し遅れて歩いた。
 
「ここがアスカの住んでた教会か……」
 鴉の呟きに、小さな教会を前にアスカは胸を張った。
「そうよ〜。いいとこでしょ〜?」
 質素ながらに清浄な雰囲気を醸し出す場所に、なるほど、と鴉は得心したように頷いた。
「……いい場所だな」
「当然よ〜。みんなただいまぁ〜!」
 アスカが軋む扉を開けると、気づいた子供たちが次々と駆けてきて、そのままの勢いで飛びついてくる。
「アスカが帰ってきた!」
「わーい!」
 いつもの洗礼タックルだから、アスカも足を踏ん張って待ちかまえる。
 シスター・サーシャは子供たちの後ろからゆっくりとやってきて、お帰りなさいと微笑んだ。
「お母さん、ただいま〜。はい、お土産よ〜」
 アスカからサーシャへの土産は決まっている。パラミタで描きためたスケッチブックだ。
「今回はシャンバラだけじゃなくて、エリュシオンやザナドゥ、シボラにカナンと大漁ね〜。いっぱい描いちゃったぁ」
 アスカが渡したスケッチブックを、サーシャはいつものように大切に胸に抱きしめた。そんな様子に、自分の場所に帰ってきたのだという実感が湧いてくる。
 パートナーたちはと見れば、ルーツは子供建ちに大人気。困った顔をしながらもみくちゃにされていた。
 鴉は子供たちの質問攻めにあっている。
「お前誰なんだ?」
「その角何〜? 本物? 触らせて〜」
「おなまえはなんていうの?」
 なんて元気なと鴉が思っているところに、さっきから鴉を睨みつけていた子供がずばりと切り込んだ。
「お前アスカの何?」
 去年、同じ質問をされたルーツは絶句していただけだったけれど、鴉には分かる。
(この坊主……こいつアスカに惚れてるな……)
 けれど相手が子供でも鴉は容赦はしない。はっきりと答えた。
「俺はアスカの恋人だ」
 言った瞬間、黄色い悲鳴と敵意の火花が鴉を襲った。
 その様子を笑いながら、アスカはサーシャに話しかけようとした。けれど。
 サーシャは驚愕の表情で凍り付いていた。
 一体何がそれほどサーシャを驚かせたのだろうとアスカがサーシャの視線を辿るとそこには……オルベールの姿があった。
 オルベールには変わった様子は無いけれど、もしかして知り合いなのだろうか。
 オルベールのことを自分のパートナーだと紹介するとサーシャは頷いてくれたけれど、その顔はどこか青ざめていた。
 
 
 その夜。
 昼間のことが気になっていた所為か、アスカは寝つけなかった。
 子供たちを起こさないようにとそっとベッドを抜け出すと、サーシャもオルベールも姿を消していた。
 どこに行ったのだろうと探してみれば、2人は祭壇の前で向かい合っていた……。
 
 
「どうしてあなたがアスカと一緒にいるの?」
 サーシャに呼びかけられて、祭壇前に佇んでいたオルベールは振り返った。
「やっぱり来た。待ってて正解ね」
 そう聞かれることは分かっていた、とオルベールは裁断の前でサーシャが近づいてくるのを待った。
「10年前のあの日、あなたはアスカを私に預けて、このことをアスカに言わないで、もう会うことも無いと告げたはず。そう言ったあなたがどうして……」
 話すサーシャの脳裏に10年前の雨の夜が蘇る。
 傷だらけで衣服が乱れ気を失ったアスカを抱えてきた銀髪の女性。彼女の方は所々に赤い染みを作っていて、僅かに鉄のような臭いがした。2人のあまりの姿にサーシャは声を失っていたのを思い出す。
 アスカを預け、銀髪の女性はただサーシャに謝罪し、この事をアスカに言わないでと頼んだ。サーシャが頷くと、もう二度とアスカと会うこともないと告げ、女性は夜闇の中に消えていった……。
 その女性とアスカが共にやって来たのを見て、サーシャがどれほど驚いたことか。
「そう言われるのも当然ね。確かにあの時はアスカとは二度と会わないつもりだった。でも想定外のことが起きてしまったのよ。……まさかアスカが小型結界装置を使ってパラミタに来るなんて……」
 危険な場所とも言えるこの地に来たアスカを、ただ見守るだけなんて出来なかった、とオルベールは強い口調で言った。
「アスカの為にベルは……あのときの記憶を消して離れたのに……!」
 
 聞こえてくる話は、アスカに覚えがないことだった。
(ううん、違う。私が忘れてるんだぁ……)
 けれど分かったことがある。
(私はベルと10年前に出会ってる。その頃の記憶もベルに消された? どうして……?)
 疑問ばかりがぐるぐると脳裏を駆けめぐる。
 混乱するアスカの頭の中に飛び込んできたのは、ベルの悲痛な想いを載せた言葉だった。
「あのときのことは絶対言わない……だからアスカを守らせて……っ。もう……誰にもアスカを殺させない……!」
 一体どういうことなのか。
 自分は殺されかけたのか。だとすれば誰に?
 それ以上聞くのが怖くて、アスカはその場を離れた。
 
 
 二度目の里帰り。
 そこで耳にした失われた過去。
 アスカはどうしたら良いのか分からず、ただ、己の身体を抱いて震え続けるのだった――。