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Zanna Bianca II(ドゥーエ)

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Zanna Bianca II(ドゥーエ)

リアクション


●20

 ローザマリアからのテレパシーが陣の元に届いた。
「パイを引き渡して逃亡を認めるなら人質を返す、やて! そんなん、とことん信用できんわ! 却下や!」
 あっ、という顔をして陣は黙った。テレパシーであることを忘れ、思わず口走ってしまったのだ。
 すぐさま「行くわ」パイが立ち上がった。
 グラキエスによる応急手当は成功に終わり、まだまだ予断の許されぬ状況ながら、ローは意識を取り戻してぐったりしていた。その傍らに歩み寄ると、
「ロー、行ってくる」
「だめ、行っちゃ」ローは弱々しく首をふり、防寒具を敷き詰めただけの簡易ベッドからパイに手をさしのべた。
「これが一番いいのよ。命が惜しいから、ラムダもあたしには手を出さないはず。大丈夫、私は一度も塵殺寺院を裏切っていない。蜘蛛怪物と暴走したクシーを倒すという命令は果たしたわけだし……。あたし、ちゃんと帰ってくるから。帰ってきて、あんたを迎えに来るからね」
 パイは視線をミスティーアに向けた。ミスティーアは手術が終わるまで、ずっとローのそばにあったのだ。「あんたたちを信用しきるつもりはないけれど……きっとローを救って。任せたから」
「約束は守るわ」ミスティーアは、しっかりとパイを見た。
「行かないで。パイ、行かないで……」
 虫の息ながら懇願するローに首を振って、パイは走り出した。

 ラムダは勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。あまりに勝ち誇っていたせいか、その背後にまで注意が向いていなかった。
「弥十郎」
 佐々木 八雲(ささき・やくも)が心の声で、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)に呼びかけている。精神感応だ。お互い以外には聞こえない。
 当初、村での作業をするためにこの地を訪れた二人であった。戦いと雪崩で荒廃した村――しかも、自分たちも雪崩の瞬間にいた――を復旧するというのはやりがいのある仕事だった。しかしやがて、二人はタニアという少女が失踪したという話を聞いた。山に連れ去られたという噂もあった。それが彼らを動かしていた。
 今、戦いを知り近づいたところで、彼らは求めるものがそこにあることを知ったのである。
 八雲は伏せたまま、やはり心の声で告げた。「俺のことは考えず、その子を守れ。いいな」
「解ってるよ。兄さん」兄の言葉は素っ気ないが、彼が激しい怒りを感じていることを弥十郎は理解していた。
「あ、それと……」
「何? 兄さん」
「Λと八ってどっちがかっこいい?」
「八だよ」
「そっか」

 精神感応の会話は終わった。(「Λより……八」)そう心に刻んだ八雲にもう迷いはなかった。唯真っ直ぐに敵を見据えた。無謀な作戦だ。失敗すれば大惨事、しかも、やり直しはきかない。
 ラムダは冷気を吐くという。そのことを念頭に置いて、八雲は案を模索した。
(「あの口からのやつが邪魔だ。何か、燃える物があれば……何か?」)あるではないか。彼は唐突に思いついた。(「俺も『燃える物』か」)
 あの時よりまだマシだ、そう考えれば、自分に火を放つというアイデアも悪くないだろう。

 ラムダは背後からの気配に振り返った。
「近づいたら人質がどうなるか……!」
 接近者を遠ざけようとクランジは冷気を吐いた。相手が火達磨でなければ、確かにそれでなんとかなっただろう。ラムダが自身の愚に気づいたのは直後である。
「ひ! こいつ!」ラムダの冷気は炎の前に無力だった。
「これ以上犠牲を……出させはしない!」
「心臓を突き刺してやる!」ラムダは右手のナイフを振りかざした。左足首から先がないため――蜘蛛糸から逃れるために自分で切断していたのだ――踏ん張れず、ナイフは八雲の胸に届く前に叩き落とされた。「あぐっ!」
 勢いを止められずラムダは雪の上に転がった。八雲が身を退き、火を叩き消していた。
「なんのつもり……!」ここでラムダはようやく、八雲の真の意図に気づいた。
 八雲は派手な囮だったのである。このときにはもう、人質は弥十郎の腕の中にあった。ラムダの注意が逸れた瞬間に奪い取ったのだ。
「卑怯だよ! や、約束は守れ!」
 わめくラムダに、
「公正な『約束』ならね」
 と、弥十郎は包みを解いて見せた。
 ごろりとしたものが包みから落ちた。
 それは、人間程度の大きさにカットした丸太にすぎなかった。