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24


 死者に会えるという盆の日。
 乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)には、会いたい人物が居た。
 それは、行方不明の両親。
 消息不明。生死不明。どこでどうしているのかまったくわからない。だからこそ、ナラカに繋がる門の前で両親を待とうかと、かなり真剣に考えた。
 昨日のニュースを見て悩み、朝になってもそのことばかり考えて。
 いっそ白泉 条一(しらいずみ・じょういち)に理由を話して出かけてしまおうかと思ったけれど。
「…………」
 条一が深刻そうな、辛そうな顔でどこでもない場所を見つめていたから、やめた。
「条一。お祭りに行きませんか?」
 代わりに誘うは盆祭り。
 え、と呆気に取られたような顔をする条一に微笑みかけ、手を取った。
「お祭りですよ、お盆祭り。色々屋台が出ているんでしょうね……楽しみです。さあ、行きましょう?」
「えっ、ちょ……おい、七ッ音っ」
 返事も待たずに歩き始めると、今度は慌てたような声。
 無視して進めば、間もなく何も言わなくなった。
「いいのかよ」
 ぽそりと声が聞こえたので、「何がです?」と訊き返す。返事はなかった。
 祭り会場へついて、各々屋台で買った食べ物を手に見て周り。
 時に遊戯で本気を出したりと楽しんでいると、
「……いいのかよ」
 先ほども聞いた、『何が』のない言葉。
 真っ直ぐに条一を見つめ返す。と、「……門」ぼそりと言った。
「行ってみなくていいのかよ。……両親、居るかもしんねーぞ」
「ああ。そのことでしたか」
 合点がいったので頷くと、条一が七ッ音を見た。
 その目が、ひとり留守番を強いられる子供のような不安そうな目だったから。
 思わず笑ってしまった。
「なっ――」
「いいんですよ。今いる友達を大事にしたいんです」
 だから、祭りを楽しみましょう?
 そう笑って答えたのに、
「……っ」
 どうしてか、さっきよりも一層辛そうな顔をされてしまった。
「……条一?」
 優しく名前を呼ぶ。俯いた条一の口から、「ごめん」と謝罪が漏れた。
 何を謝っているのか皆目見当かないし、どうしたらいいかもわからなくて。
 ただおろおろと、意味もなくあたりを見たり手を動かしたり。
 そうこうしている間にも、しゃくりあげてますます酷く泣いてしまうし。
「ど、どうして条一が泣く必要があるんですか……っ」
 わけがわからないし、条一が泣いていることが悲しくて。
 まるで伝染したように、七ッ音まで泣いてしまった。
 だって、家に居た時のような顔をさせたくなくて、楽しませたくて、祭りに連れてきたのに。
 結局こうして辛そうな顔をさせてしまっていて、それが本当に悲しくて。
 ああどうしよう、涙が止まらない。
 顔をあげると、涙で歪んだ視界に条一の泣き濡れた顔が映った。条一が、慌てたように顔を擦っている。いや、涙を拭っていた。
「……取り乱して悪かった」
 それから、いつも通りに素っ気無く言い放つ。
 あまりにあっさりと普段通りの表情に戻るから、まるで狐につままれたような気分になった。
「腹減った。またなんか食おうぜ。奢るし」
 だけどそうして手を伸ばしてくれる彼の顔が、いくらか優しくなっていたから。
 先ほどまでのことは、あまり気にしないであげることにした。
「じゃあ、まずは綿飴からですね」
「おい。まずはってなんだ。予算はあるんだぞ」
「知らないです。綿飴の次は何がいいでしょうね?」
 悪戯っぽく笑い、祭りの喧騒に身を投じた。