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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)
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第一章 起衝

(1)集落外−1

 相対する二つの軍勢。ドン・マルドゥーク(どん・まるどぅーく)率いるカナン軍、そして魔神 パイモン(まじん・ぱいもん)が率いる悪魔軍。
 仕掛けたのは悪魔軍。開戦の合図はパイモンが『邪蛇の双剣』を振ったことだったろうか。
 悪魔たちの怒号と『グリフォン』の奇声が一斉にあげり、そして雪崩れるように襲いかかってきた。
「ちっ……」
 二丁の銃で応戦しても手が足りない。開戦してすぐに斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)は追い込まれた。
「くそっ……やはり数は力か……」
 悪魔兵の得物は『トライデント』。間合いを保ったままに戦える分、邦彦にとってすれば戦いやすいともいえるのだが、こうも数が多くては向ける銃口の数がどうしても足りなくなってくる。
 まして、そう、囲まれでもしたら最悪だ。
「らぁああああああ!!!!」
 『曙光銃エルドリッジ』を休まず働かせて応戦していても、案の定、囲まれかけた時だった。
「ぐぁっ!!」
「があっ!!」
 鈍い漏声、それをあげたのは邦彦に襲い寄った悪魔兵たちだった。
「大丈夫ですか」
 援護者はセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)邦彦が向いたその時には彼女はすでに背を向けていて、囲みの左壁に『諸葛弩 』を向けていた。
 放つは矢、乗せるスキルは『ポイズンアロー』だろうか。射たれた悪魔兵が次々に悶えて倒れてゆく。
「さぁ! 今のうちに!」
「あぁ、助かったよ、ありがとう」
「いえ、それよりも爆弾の件、了承しましたわ」
 戦場に辿り着いた邦彦はすぐに『機晶爆弾』を中心とした仕掛けを戦場の外れに施す事にした。
 単純に兵力差だけをみても、また地の利や自軍の戦力が分散していることなどを考慮すれば、どれもが戦況は不利であることを示していた。撤退もあり得る、そう判断しての行動だった。
「ここは任せた! 俺は戦場を回る」
「わたくしも同行しますわ」
 戦場で戦う仲間を援護し、また仕掛けの存在を伝えること。危険だが、必要な役回りだ。
理沙……」
 『行ってまいります』それから『お気をつけて』と心で呟いた。少しと離れた一角、一際激しい打ち合いが繰り広げられている一帯にパートナーは居る。遠い先に小さく見えた五十嵐 理沙(いがらし・りさ)の背は、舞い上がる土埃りに霞み、揺れていた。
「これだけ打っているのに……」
 理沙の得物は『龍骨の剣』、彼女も『迅雷斬』なり『ソニックブレード』で仕掛けているが、それもことごとく避けられている。そしてなによりコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の巨拳をパイモンは涼しい顔で避け続けていた。
パイモン! 今一度、考え直すのだ!!」
 身長20mを越える魔鎧龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)を纏い、一体となっているハーティオン。2トントラックを猛スピードで叩きつけるような、そんな派手な拳撃を放っているのだが―――
「確かに地上への帰還はザナドゥの民にとっては悲願なのかもしれん、しかし! そのために多くの命を失ってしまっては、たとえそれを達成したとしてもそれは『勝利』とは言えないのではないか?!!」
「………………」
 言葉を投げても返ってこない。繰り出しても届かない拳のように、パイモンは口を閉ざしたままだ。
 地面から僅かに浮いた状態で滑るように、風に揺れる柳のように、ユラリヒラリと拳を避ける。
「多くの命を失わせる道を選んだ、お前が民を戦争へと導いたのだ! このままではもっと多くの魔族が死ぬ…………魔王パイモン!! 己が民を導く道を、今一度考え直すのだ!!」
「……………………」
 同じ沈黙。しかし次の瞬間、これまで沈黙を貫いていたパイモンが「ふぅ」と小さく息を吐いた。
「やはり、我々が分かり合うのは難しいようですね」
「何?」
 虚を突かれたが、ハーティオンは即座に句を次いだ。
「そんな事はない、互いに侵攻を止め、その上で双方の主張を聞き、その上で―――」
「実に傲慢で勝手な言い分ですね。いえ、勝者の言い分でしょうか」
「勝者の……言い分?」
 パイモンが大きく空に跳んだ。ハーティオンの眼前を弾丸のように飛び過ぎ、そのまま空へと昇ってゆく。ハーティオンも『強化光翼』でこれを追った。
「過去の争いを無かったことにはすることは出来ない! しかしこの戦いは止められる! パイモン! お前なら止められるのだ!!」
「あなた方が地上に戻り、我々はザナドゥの地で剣を収めると」
「そうだ!」
「…………それが傲慢だと言うのですよ」
 不意に止まって宙で振り向く。パイモンの顔が見えたとき、彼は『邪蛇の双剣』をクロスに重ね構えていた。
「なぜ我々がザナドゥで生きねばならない!!」
 宙を蹴ったかのように、勢いよくパイモンが向かい来る。
 ハーティオンはこれに正面から拳を繰り出した。しかし衝突の直前、すんでのところでパイモンはこれをヒラリとかわした。そして腕を畳んでクロスした双剣を、矢を射るように力強く解き放った。
「ぐっ……」
 放たれたのは斬撃、しかし左腕に走った衝撃はまるで潰撃のように重く鈍かった。
「なぜあなた方は地上に戻るのです!! さも当然のように地上に生きるのです!!」
 再び距離をとるパイモンハーティオンは右指の爪でそれを裂きにゆく。
「この地『ザナドゥ』は我らが欲し、求めた地ではない!!」
 潰された左腕も、肘部はまだ使える。右爪に左肘を振り狙うが、どれも当たらない。
「くっ、また逃げるか」
「ガオォォン!!」
 憎たらしくも避け続けるパイモンに、鎧状態の龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)も痺れを切らして叫びあげた。
「ガオオオォォ!! ガアオォオン!! ガオオオォォォォン!!」
 話す言葉は雄叫ぶ声のみ。通常ならばパートナーのハーティオンにしか通じないのだが、
『貴様ら魔族が人間を憎み、そして排除に走る。当然に人間たちはこれに反発する。この構図を作り出したのは王である貴様であろう!! パイモン!!』
「魔鎧である主までそのような事を……」
 悪魔の長だからだろうか、パイモンにはドラゴランダーの言葉を理解していた。が故に逆鱗に触れたようだ―――
「地上は人間のもの……人間と友好関係を築ける者のみが生きられる地だとでも言うのか……」
 構え合わせた双剣をその場で解き弾く。鋭い金属音? いやそれは蛇の悲鳴。
 『邪蛇の双剣』の刀身に起きた激しい摩擦、それが轟音と共に高圧な電撃を纏わせた。
「我らが生きる地がザナドゥ? 争いを止めたくばザナドゥで大人しくしていろ? 違う!! 貴様ら人間こそがザナドゥへ墜ちるべきだなのだ!!」
 高電圧を帯びた双剣から放たれた一撃。『迅雷斬』、その一撃はドラゴランダーの装甲を容易に砕いた。
「ぐぉあああああっ!!!」
ハーティオン!!!」
 巨体が傾き、いや吹き飛んで倒れた。それを目で追うラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)にも狂刃が迫っていた。
「あなたも邪魔です」
「くっ……」
 振り下ろされた双剣を頭上で拳を合わせてガードした。衝撃で両足は地面を砕いてめり込んだが、両手の『ブラスターナックル』は砕けていない。先の超高電圧状態でないなら打ち合う事も可能という事か。しかも、
「ぬぅぉぉおおおおお……」
 腕力ならば負けない、『ドラゴンアーツ』を使っている事もあるが。ラルクパイモンの双剣を弾き返した。
「ふんっ!!」
マルドゥーク!」
 西カナンの英雄ドン・マルドゥーク(どん・まるどぅーく)が魔王に斬りかかる。
 パイモンはこれを片剣で受けたが、さすがに力負けしているのか、マルドゥークの連撃に押される形で後退していった。
ラルク! 無事か?」
「あぁ、何ともない」
 だろうな、と言いたげな五十嵐 理沙(いがらし・りさ)の顔に応えて、ラルクは足裏の痛みを隠して笑ってみせた。
「普通の状態ならどうにかなりそうだ。チャンスは今だぜ」
「普通? あぁ、なるほど」
 健在な『ブラスターナックル』、それから破壊されたドラゴランダーの胸装甲。その纏い主であるコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は気を失ったままだ。
「俺がマルドゥークを援護する。あんな大技、二度と出させねぇ」
「俺たちでしょ。勝手に仲間外れにしないでよね」
「あぁそうだったな。そんじゃあ、まーいくぜ!!」
 『神速』をもってパイモンの背後に回り込む。放った拳は双剣に阻まれたが、そこに理沙が『ソニックブレード』で飛び込んだ。
「……3人」
 マルドゥークの剣を瞬時に弾いて距離をとる。得意の空中浮遊で素早く退いて理沙の剣を受け捌いた。
「逃がさん!!」
「退いてろ、マルドゥーク!! 理沙!!」
ラルク?!!」
 二人が退いた瞬間、ラルクは『龍の波動』を叩きつけた。
「ん……」
 一瞬顔を歪めたが、身の丈ほどもある『邪蛇の双剣』を体前で振ると、霧でも払うかのようにラルクの闘気を振り払った。
「やはり3人同時は……難しいですね」
 蛇の悲鳴。パイモンが再び双剣を擦り合わせた。
「来るぞ!!」
 ハーティオンを沈めた一撃を警戒していた。いや、警戒しすぎたのかもしれない。だからこそ―――
 ダァンッ!!
「なにっ!!」
 眼前の地面を砕かれた事に驚き、目を見開いてしまった。爆ぜた岩盤が宙に舞い、視界を遮る。時間にして刹那、しかしその岩塊が今度はマルドゥークの目前で激しく爆ぜた。
マルドゥーク!!」
「ぐぅっ!!」
 岩塊を貫く剣。パイモンの突きが岩も、そしてマルドゥークの右肩をも貫いた。
「さようなら、西の英雄さん」
「!!!」
 鞘から刀を抜くように、パイモンは瞬速で双剣を擦り抜いた。
 腕を畳んでクロスさせ、そこから放たれる『迅雷斬』がマルドゥークの腹部に直撃―――
「うらぁあああああああ!!!」
 ラルクが『神速』でこれに飛び込んだ。『鳳凰の拳』を駆使した渾身の拳撃を割り込ませた。おかげでマルドゥークへの直撃は避けられた、が、当然に、
「があっ!!」
「ぐはぁっ!!」
 双剣が放つ『迅雷斬』が二人の体に交差した。
 マルドゥークの左肩から右腹部にかけて、そしてラルクの腹部に横一線。
 積もった雪を圧し潰して出来たタイヤ痕のような、抉り取られたような傷が二人の体を斬り裂いた。
ラルク!! マルドゥーク!!」
 ラルクが飛び出したおかげでマルドゥークは一命を取り留めた。しかし支払った代償は大きかった。
 ハーティオンに続いてラルクマルドゥークまでもがパイモンの狂刃の前に倒れた。