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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)
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リアクション

「はぁああああっ!!!!」
 場面は再び室内に戻る。『メメント銛』を持つジバルラ鳴神 裁(なるかみ・さい)が拳を振っていた。
「さぁさぁほらほら、どうしたのかなっ!!」
 絶え間無く吹きつける風のようには拳を繰り出してゆく。そこにヒラヒラと舞うのは『格闘新体操用リボン(ティアマトの鱗)』、繰り出す拳撃の合間にリボンを混ぜる事で敵の視界を狭めてゆく、それがまた『ナラカの闘技』を際立たせていた。
 『ナラカの闘技』を使えば、見る人が見れば一目で分かる事だろう、拳を振るの体に奈落人が憑依している事に。憑依しているのは物部 九十九(もののべ・つくも)、特別に隠しているわけでもないが、加減できるような場合でもない。
「うぉっとぉ!」
 炎の気配を感じて跳び避けた。朱鷺が『炎の聖霊』をこちらに寄越したようだ。
「もう来ちゃったか〜、仕方ない、その炎、風であるボクが吹き飛ばしてあげるよっ!!」
 『乱撃ソニックブレード』にパラフーゾ(空中回転蹴り)、『焔のフラワシ』で炎を防いだりと、一切の加減も手を休める事もせずに拳撃と蹴撃を繰り出していった。
 全てはジバルラを正気に戻す為に、あの顔を思い切り殴り倒してやる為に。
 それにしても―――
「あぁー! なんかっ! あっちの方がっ! 楽しそうだなー!!」
 悪魔兵の首筋に立てた歯を抜いて、アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が苛立たしげに言った。
「あの魔鎧は着れないしー! ねぇさんも着てくれないしー! あーもう! つまんない!」
 言っていて怒りがぶり返してきたのか、アリスは再びに歯を突き立てた。
 『吸精幻夜』を受け続けている悪魔兵はすでに足に力も入らずにヘタリ込んでいる。『紫銀の魔鎧』を着れなかったことも、またが着てくれなかった事も余程頭に来たようだ。
 そんなアリスとは対照的に、同じくパートナーのドール・ゴールド(どーる・ごーるど)は上機嫌だった。
「良いんですよ〜だってボクがいるんですから、あれはもともと必要ないものだったんですよ〜。そう思いますよね〜?」
「思わない! だいたいドールが反対したからが着てくれなくなったんじゃない!」
「理由はさっき言った通りなのですよ〜? もう一度言った方が良いですか〜?」
「要らないよっ! どうして好き好んで同じ話を二回聞かなきゃならないのよ!」
 ツッコミ役のドールを差し置いてアリスがツッコミ役に回ってた。悪魔兵への「八つ当たり」といい、今日は完全にペースを乱されているようだ。
 そんなアリスのペースを乱す要素がもう一つ、
「あぁら、ツッコミながら相手の血を吸うなんて器用な芸当ですこと。大したものですわ」
 神皇 魅華星(しんおう・みかほ)はゆっくりとした歩みと口調で、
「それにしてもジバルラ、あなたが王ですって? 随分と無骨な王だこと」
 彼女の身にも『紫銀の魔鎧』が纏われている。彼女も魔鎧の力に当てられているということか。
「まぁいいわ、あなたが王であれ、わたくしは王どころか神をも越えた存在、世界の全てを統べる魔王なのだから」
「なんかメンドクサイのが来たっ!!」
 本日一番、アリス渾身のツッコミだった。
「メンドクサイ? んーーー、ジバルラさん、部下の方がお呼びですわよ」
ジバルラじゃないわよ! アンタよアンタ!! つーか、誰が部下だっつーのよ!!」
「あら、ジバルラさんの部下ではありませんの? ではわたくしの部下にして差し上げますわ、あなたのような方ならいつでも歓迎いたしますわ」
「そりゃ光栄です……って! 誰もそんなこと望んでないわよ!」
「照れていては何も始まりませんことよ」
「初めから何も始まってないし!! そっちが勝手に始めたんでしょ!!」
「そうですわね、わたくしの覇道はここからまた始まるのでしたわね。良いでしょう、あなたを第二参謀に任命しますわ」
「なんか任命されたっ!! しかも第二なんだ?! 第一じゃないんだ!!」
 ボケのラッシュに、アニスはもはや完全にキャラ崩壊していた。それでいて魅華星はボケているのではなく大マジだからタチが悪い。元々『厨二』な上に『紫銀の魔鎧』の効果が加わって更に盲信しているようだ。
「おっと、のんびりと漫才を見ている場合ではなかったですよね〜?」
 ドールが視線をに戻した。背後から「漫才なんてしてないよっ!!」とアリスの声がしたが、特に構わずに視線を向けた。
 ジバルラを護る朱鷺と交戦中、そしてジバルラはと言えば、
「うあっ!!」
さん!!」
 水上 光(みなかみ・ひかる)の『グレートソード』を『メメント銛』で受けると、強引に間合いを詰めてを蹴り飛ばした。
さん! さんっ!」
 パートナーのモニカ・レントン(もにか・れんとん)が駆け寄る。は割れ崩れた壁の破片と一緒になって倒れていた。
「邪魔をするなら誰だろうと殺す」
ジバルラ様! 愛の心が残っているのならば、そのような鎧に負けてはいけませんわ!」
「黙れ、俺は俺の意志で動いている、鎧は関係ない」
「国が欲しいだなんて、一度も口にしたことはありませんでしたよね」
「言う必要がどこにある、下手に口にすれば潰されるだけだろう」
マルドゥーク様の寝首を掻こうと狙っていたというのですか?!!」
「……………………」
「いいえそんなはずはありませんわ、でしたら『この国を』ではなく『西カナンを自分の国にする』と言うはずですもの! あなたはマルドゥーク様に反旗を翻すつもりは無い、だからこそ『この国をいただく』と言ったのでしょう!」
「違う! 俺はマルドゥークを―――」
「どっちだって……いっしょだよ」
 今まで倒れていたが、ここで立ち上がった。
「今は鎧に支配されているんだ、本心なんて言わないよ」
さん……」
「ボクは弱い、あなたに簡単に吹き飛ばされるくらいに弱い、でも! 何かに支配されたりは決してしない!!」
「ふん! 弱い犬ほど良く吼えやがるぜっ!!」
「くっ!」
 一突きでジバルラの銛が頬を裂いた。幸い薄皮一枚やられた程度だろうが、目がついていってなかった。
「口だけか?!! ああ゛!!」
「ぅっ、ぐっ……」
!!」
 二人の間にビビ・タムル(びび・たむる)が飛び込んだ。『リターニングダガー』をジバルラに振ったが、これは当たらなくても構わない。
「ほらほらおっちゃん、こっちだよー?」
 ネコの獣人である特徴を生かしてビビは素早く身軽に壁と床を蹴り跳んでゆく。
「ちっ、邪魔くせぇ」
「はぁあああああ!!!」
「ん?」
 持てる力の全てを振り絞って、ジバルラに斬りかかった。
「くっ……テメェ……」
 予想の通りに『グレートソード』は受け防がれたが、
ジバルラさん……あなたをここから先に進ませるわけには……いかないんです!!」
「……退、きやがれぇ!」
「退かない! 絶対に!! ここでボクが―――」
「ウゼェ!! 退きやがれっ―――うっ……」
 突然の口づけ、背後からの接吻。シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)ジバルラの唇を奪って黙らせた。
「うぐっ……ぐっ……ぅ……」
 完全にジバルラの動きが止まった、その隙に、
「はぁあああああああ!!!」
 が『ソニックブレード』を魔鎧の胸部に、
「やぁっ!!」
 モニカが『バニッシュ』を同じに放ち、
「おらぁあああああ!!!」
「はあぁっ!!!」
 好機と見たソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が『罪と死』を、続けて火村 加夜(ひむら・かや)が『神の審判』をジバルラに叩き込んだところで、勝負あり。
「ぐ……くっ……」
 連続した衝撃をその身に受けて、男はようやくその場に倒れた。力無く目を閉じるその顔は眠っているようにも死んでいるようにも見えたが、息はある、細いが確かに呼吸をしていた。どうやら気を失っているだけのようだ。
「ふぅ」
 ジバルラを止めようと立った者たちは、ようやくに安堵の息を吐くことができた。
「キスした直後に昇天なんて、なんて幸せ者なのかしら」
 皮肉まじりのシルフィスティの言葉に、みなの頬も少しに緩まったのだった。



「別にね……男なんだから国の一つや二つ持ちたいって大それた夢があったっていいと思うのよ」
 シルフィスティの説教は続く。
「それを邪魔しようって気もないわ、でもね、そこには確かな相棒が居ることが必要だと思うのよ。竜の相棒じゃないわよ、あなたを支える人やあなたのために動いてくれる人がどれだけ居るかって、そういう事を言っているの」
 説教を受けているジバルラは未だ気を失ったままだ。強引に唇を奪っただけでなく、意識がないと分かっていながらに彼を罵倒し続けていた。これもどれも全て彼を思っての行動だと……思うこととしよう。
「外れませんね」
 火村 加夜(ひむら・かや)がぽつりと呟いた。
 先程からクナイ・アヤシ(くない・あやし)ジバルラの『紫銀の魔鎧』を外そうとしているのだが、無理に引いても押しても外すことは出来なかった。
「やはり魔鎧自身が拒否しているという事でしょうか」
 ジバルラの『紫銀の魔鎧』は今のところはその自我を見せていないが、魔鎧である以上、自我を持つ事は確かであろう。
 本来であれば装着された魔鎧であっても外部からの力で装備を解除することは可能である、しかしそれが出来ないとなると、『紫銀の魔鎧』自体がそれを拒否し、本人の意思でジバルラの体に纏わっているとも考えられるのだ。
「とにかく彼を拘束しましょう。また暴れられでもしたら厄介ですからね」
「えぇ、そうですね」
 ジバルラを『紫銀の魔鎧』ごと拘束した上で、一行は建物を後にした。
 集落内は未だ混乱が続いていた。