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死いずる村(前編)

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死いずる村(前編)
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■□■第二章――二日目――夜明けまで


■0――二日目――00:00


「どうしてこんな事になっちゃったんだろう」
 童子 華花(どうじ・はな)が、ボブカットの黒髪を揺らしながら呟く。
 ――火術などが使えることで異端とされ、村の中でも疎外されてきたため、今の異様な雰囲気にいまいち実感が持てない彼女は、それでも村を覆う惨状の気配に身震いしていた。
 むしろ今回は、自分と同じような力を持つ多数の余所者が来たこと、そのほうに怯えている状態だったはずなのに。
 村の様子をうかがいこそすれ――村人も含め誰にも心を許すこともなく、行動していたのが彼女だった。
 しかし彼女は、死人の存在を認識してしまった。
 だがその仲間入りをしてしまうまでの間は、人目を避けて村の中を転々としようと考えている。
 もし死人とそれに対抗している人たちがいると分かれば、自身も生きるため、何より居場所を作るために協力するつもりだった。
 ――一人はやっぱり寂しいから。
 だが不幸にして、今は未だ、彼女はその様な仲間に巡り会ってはいなかった。

 そんな時、華花は不意に空中に気配を感じ、無意識に火術を放っていた。

「まぁ」
 それを受け止めたのは漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を纏った、中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)だった。
 ドレスはといえば、地獄の天使を用いて、翼を生やし、空を飛びながら、ディレクトエビルで死人の感知を行いつつ、奈落の鉄鎖で敵対者の動きを鈍くしていた。
 奈落の鉄鎖の対象として、死人はもちろん『生きた人間が綾瀬の行動を邪魔する場合』にあっては、生者に対しても使用する事にも、彼女達はためらいがなかった。
 またドレスは、綾瀬の事を一番に念頭の起き行動していた。
 ――綾瀬の行動の邪魔、それをさせるわけにはいかない。
 死人と間違えて攻撃してきたのか。
 逆に無理矢理にでも集団行動を取らせようとしているのか。
 どちらにしろ、つまり『綾瀬に対して何か行動を取らせようとしてきた場合』が『綾瀬の行動の邪魔』をしてきた対象であるとドレスは考えていた。
 そんなドレスの思いを知ってか知らずか、綾瀬は、妖艶に唇を指で撫でる。
 綾瀬は綾瀬で、考えていた。
 ――行動の邪魔をしてきた場合、死人だろうが人間だろうが容赦なく攻撃を行いますか。
その意が、華花の火術に対して、向けられる。
「貴方様が死人でもそうで無くても、私には関係のない事ですわ。ましてや、私が死人かどうかなんて何の意味もない事……私は『傍観者』ですわ」
 華花は、その言葉が何をさすのか分からないといった表情で、空を見上げていた。
「私の邪魔をした事……後悔して頂きましょうか?」
「あ」
 地に伏した華花の体から、綾瀬はアンプルを探った。
 だが、彼女はそれを所持していなかった。
「まぁ……死人化を阻止したかったのですが」
 残念そうに呟いた綾瀬のもとから、華花が逃げていく。
 それを緩慢な仕草で見守っていた綾瀬の元に、その時後ろから襲いかかる者があった。
 各務ルイスである。
 どこか西洋の血が混じった様子の端正な顔をした美少女に対し、ドレスを纏った綾瀬は向き直った。
「――飛んで火に入る夏の虫――とは、こういうことを言うのでしょうか」
「生気……生気……」
 虚ろな眼差しで呟いている、どこからどう見ても死人であるルイスの体を、綾瀬は地に押し倒した。
「少々興味がありますの――どこまでやったら、復活しないのか」
 綾瀬はそう口にして微笑むと、ルイスの心臓めがけて、用意していた杭を打ち込んだ。
だが、その体は動きを止めない。
「杭では駄目なようですね」
 そう呟いた綾瀬は、それからルイスの首を切断した。
 辺りに、赤い液体が飛び散る。
 死人の体はソレで動きを止めたが、ソレが即ち『死』であるのかは、傍観者である綾瀬には判断が付かなかった。
「まぁ良いでしょう――私から死人に害を与えるつもりはありませんもの、襲われない限りは。それは、人間だって同様です。私がしたいこと――それは傍観ですから」
「貴方は何をしたいの?」
 華花が距離を取りながら尋ねると、綾瀬が唇の片端を持ち上げた。
「聴かれれば素直に応えることも、やぶさかではありませんが――そうですね、私はこの村で何が起き、そしてどのように終息するのか静観したいのですわ」
 ――だから、邪魔をするものに容赦するつもりはない。
 ――反面、手出しされなければ、何かをする気もない。
 そんな意図を瞳に込めて、綾瀬は、隠れ身の気配がする方向へと視線を向けた。


「――ちょっと危なかった、かな」
 気付かれそうになったルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、即現場を離脱して、隠れ身再発動させながら、そんな風に呟いた。
 彼女は、可能な限り速やかに山葉 涼司(やまは・りょうじ)がいる上空付近に戻っていった。