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第八章  対パラ実戦線



《VS 学徒》

「パラ実軍、前進!陣形に変化なし!」
「策も何も無しに突っ込んで来るか。石原 肥満なら、何か策を弄してくるかと思ったが……」

 天津 麻衣(あまつ・まい)の報告に、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は、フム……と嘆息する。
 どうもこの敵は、何を考えているのかよく分からない。
 ケーニッヒは、敵はてっきり校長帝国城の周囲に砦が防御陣地でも築いて待ち受けているものと思っていたが、いざ来てみれば、だだっ広く並んでいるだけ。
 (何かの罠か……?)と迂闊に手を出さずに様子見を続けて来たが、これ以上近づかれると、却って砲撃しづらくなる。

「どうすんだ、まだ様子見なのか?」

 ややシビレを切らしたように、神矢 美悠(かみや・みゆう)が言う。
 美悠はケーニッヒの乗っているイコン、ダスライヒの操縦を担当している。

「いや、ウチがこれ以上日和っては、戦列に維持に支障が出る」

 ケーニッヒは、腹を決めた。

「ダスライヒの斉射後、全軍前進。タイミングは、アンゲロに任せる」

 歩兵部隊の指揮官を任せているアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)に指示を出す。

「了解でヤンス!みんな、ウズウズしながら待ってたでヤンスよ!」
「大切なジーベック中尉とクロッシュナー中尉からの預かり物だ。無茶はさせるなよ」
「分かってるって!」
「よし。ダスライヒ、前進!」
「了解。ダスライヒ、前進!」

 復唱し、ダスライヒをゆっくりと動かし始める美悠。
 まずは砲撃だから、有効な射界を取るための位置修正だけすればいい。

「砲撃開始!」

 学徒の群れを視界いっぱいに収めた所で、ケーニッヒはトリガーを引いた。
 ダスライヒの【ミサイルポッド】と【アサルトライフル】から、次々とミサイルと弾丸が発射されては敵陣に火柱を立てていく。
 
 味方の砲撃を受けて、敵軍の進撃速度が目に見えて上がる。

「敵軍、さらに前進!石原 肥満も前進して来ます!」

 麻衣が、敵軍の状況を逐一報告して来る。
 陰陽師である麻衣は、【銃型HC】を《式神の術》で自立的に行動させ、敵軍と校長石原肥満の動きを監視させていた。
 彼らの戦闘目的も、敵軍の殲滅ではなく指揮官である石原肥満の撃破にある。

「よし、射撃開始!敵をハチの巣にしてやるでヤンスよ〜!」

 アンゲロの号令一下、攻撃を開始する歩兵部隊。
 学徒兵を充分に引きつけてからの射撃だから、ほとんど全弾が命中しているが、それでもかなりの数が自軍に迫って来る。

「白兵戦用意!」

 アンゲロの指示が下るとほぼ同時に、白兵戦に突入する両軍。
 ダスライヒにも、少なからぬ数の敵兵が接近してくる。

「ルレーブ、頼む!」
「了解。迎撃シマス」

 待ってましたとばかり、試作型改造機晶姫 ルレーブ(しさくがたかいぞうきしょうき・るれーぶ)がダスライヒの前に出る。

「目標確認――発射」

 無機質な声と共に、【六連ミサイルポッド】のカバーが吹き飛び、ミサイルが白い尾を引いて飛ぶ。
 爆音と共に宙を舞う学徒。

「ギギギー!」

 爆煙と土埃と、仲間の死体を乗り越えて、尚も学徒が迫る。
 
「近接戦闘ニ移リマス」 
 
 【ライトブレード】を引き抜き、学徒の釘バットを受けるルレーブ。
 返す刀で学徒を袈裟斬りし、さらに《グレイシャルハザード》で作り出した氷弾でもう一人の学徒を倒す。

「石原肥満、さらに前進!」
「いいぞ!ダスライヒ、微速後退する、肥満を引っ張り出すぞ!」
「ルレーブ、後退よ!」
「了解」

 ケーニッヒたちは、一当たりした上で徐々に後退し、石原肥満を前線に引きずり出すという作戦を、忠実に実行していく。
 肥満は、術中に嵌りつつあった。

 

《VS 石原 肥満》

「やれやれ。この程度の戦列も突破出来んとは。困ったもんじゃのう」

 巨大なメカの上で、学徒兵を叱り飛ばす肥満。
 好転しない戦況に、いらだちを隠せない様子だ。

「自分に当たり散らすのは、指揮官としてみっともないな」
「ま、取っている戦術からして大したことのない指揮官だとは思いましたが――」
「まさかここまでヒドイとはね」

「随分な言い草じゃのう。一体誰じゃ!」

 自分を揶揄する声に、青筋を立てて怒る肥満。

「シャンバラ国軍所属、クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)中尉だ」
「同じく、島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)
島本 優子(しまもと・ゆうこ)よ」

 軍服に身を包んだ3人が、丘の上に姿を現す。

「お主ら素直なのはいいが、年長者に対する礼儀というモノを知らんようじゃのう――」

 邪悪な笑みを浮かべながら、機体を旋回させる肥満。
  
「どれ、少し教育してやろうかのう」

 3人に照準を合わせようとする肥満の視界を、何か黒いモノがよぎった。

「ん、何じゃ……?」

 次の瞬間、巨大なメカに強烈な電撃が走る。

「ドワわわわッッ!い、一体ドコから――」 
「こっちですよ」

 その声に、後ろを振り返る肥満。
 そこには立つのは、横山 ミツエ(よこやま・みつえ)に変身した三田 麗子(みた・れいこ)だ。
 手には、【怯懦のカーマイン】が握られている。

「そんな大きな車椅子に乗っているから、見えるモノも見えなくなるのです」
「やってくれたのう!」

 機体に据え付けられた可動式機関銃座から、弾丸の雨を降らす肥満。
 だがそこにはズタズタになった国軍の軍服があるだけで、麗子の姿はない。

「機体が大きいから、狙いやすくて助かります」

 麗子は、わざと姿を現し、挑発するという《メンタルアサルト》で肥満の攻撃を促す。
 完璧に《行動予測》していた麗子は《空蝉の術》で射撃を回避すると、《ブラインドナイブス》で肥満の死角を突き、攻撃を加える。

「え、えぇい!ちょこまかと!」

 巧みに動き回る麗子を捉えようと、必死に機体を旋回させる肥満だが、電撃に打たれ続けていることもあって、まるで視野に収めることができない。

「ヌゥ!ならばこれで……どうじゃ!」

 コンソールを力任せに叩く肥満。
 機体から、無数の機関砲が生え出す。

「ハチの巣にしてくれる!」

 たちまち、大地が無数の弾丸に耕される。
 ただ一つ、優子の周りを覗いては。
 ミツエに変身した優子が、《オートバリア》《オートガード》《ディフェンスシフト》で、仲間たちをミサイルの雨から完全に守りきっていた。
  
「その程度の攻撃じゃ、私のガードは崩せない!」
「なんの、まだまだこれからじゃよ」

 機体の至る所に穴が開き、そこからミサイルが顔を出す。
 数え切れないミサイルが、優子の周囲に降り注ぎ、学徒を含めあらゆるモノを吹き飛ばしていく――。
 もうもうと舞い上がる土煙。

「さて、肉の欠片くらいは残ったかのう」

 ニヤニヤと笑いながらモニターを確認する肥満。
 その顔のすぐ脇に、光の弾がぶつかり、爆発する。

「な、何じゃ!」

 薄れていく土煙の向こう。
 仁王立ちになった優子が、拳銃型【光条兵器】を乱射しているのだ。
 《ライトブリンガー》によって2つに分かれた光弾が次々と飛来しては、機体を焼き焦がして行く。

「ま、まだ生きておったとは……!」
「言ったでしょ?『その程度の攻撃じゃ、私のガードは崩せない』って」
 不敵に笑う優子。

「やるのう……。だが、これはどうかのう?」

 レバーを力一杯引く肥満。
 各所に設けられたバーニアが火を吹き、肥満の巨大メカが浮き上がる。
 メカは、その巨体からは考えられないような速度で優子たちの上まで来ると、一気に降下し始めた。

「し、質量兵器!?」
「押し潰す気か!」
「みんな、避けて!」

 優子のその叫びも虚しく、巨大メカが、地響きを立てて地面に着地する。 
 
「ガハハハ!コレは耐えられまいて!」

 呵呵と哄笑する肥満。
 だが突然、ガァン!ガァン!という音が響き、機体が大きく揺らぐ。

「こ、今度は何じゃ!?」

 サブカメラで、機体の状況を確認する肥満。
 機体を支える無数の足。
 そのウチの1本が、グニャリとねじ曲がっている。

「こ、コレはどうしたコトじゃ!?」

 肥満が狼狽している間にも、足が1本、また1本と曲がり、さらに機体を覆っている装甲板までもが、ベリベリと音を立てて剥がれていく。

「ドコを見ている!ココだ!」
「ナニッ!」

 そこには、今自分の足元でペシャンコになっているはずの4人が、無傷でそこに立っていた。

「お、お主ら、潰れたのではなかったのか!」
「お前が潰したのは、私が作り出した幻影だ!」

 優子に続いてミツエに変身した、クレーメックが叫ぶ。
 肥満が潰したと思ったのは、クレーメックが《ミラージュ》で作り出した幻だったのだ。
 そして今起こっている機体の破壊も全ては、クレーメックが《カクタリズム》で引き起こしたものだ。

「幻影だと!?」
「そんな大雑把な攻撃、当たるものか!」

 クレーメックの《ヴォルテックファイア》が、装甲の剥げた機体の内部を直接炙る。
 機体の右側面が爆発を起こし、激しく火柱と黒煙を上げる。

「ぐ、ぐぬぬぬ……」
「そろそろ、降りた方がいいんじゃないか?そのまま乗ってると、誘爆するぞ」

 変身の解けたクレーメックが、ニヤリと笑う。

「なんの。まだまだじゃよ!」

 肥満がボタンを押すと、機体の各所でボン!という音がして、足や巨大なバーニアといった部分が切り離される。
 身軽になった機体は前にも増した高スピードで宙に舞い上がると、あっという間に航空機に変形した。

「まだあんな仕掛けを!」

 驚くクレーメックたちに、上空から機銃掃射を加える肥満。
 クレーメックも必死に反撃するが、肥満の機体はそのずんぐりむっくりした外見からは想像もつかないような機動性を発揮して、スルリスルリと攻撃を回避する。

「クレーメック、今度は私が!」
「頼む!」

 変身して、呪文を唱える島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)
 にわかにかき曇った空から、幾筋もの《天のいかづち》が降り注ぐ。

「ナニッ!」

 肥満の必死の操縦も虚しく、雷の1本が機体を直撃した。

「ぐわァァァーーー!!」

 完全に機体のコントロールを失い、錐揉みしながら落下していく機体。

「だぁぁぁ!!」

 全力で操縦桿を引き起こす肥満。
 その甲斐あって、地表すれすれで機首を引き起こした機体は、かろうじて激突は免れた。
 腹をこすりながら地表を滑っていくメカを、ヴァルナの《歴戦の魔術》が、容赦なく撃つ。
 やがてエンジンか燃料タンクに引火したのか、機体は大爆発を起こした。

「やった!?」

 燃え盛る航空機を、固唾を飲んで見守るヴァルナたち。

「いや、まだだ!」

 その爆発の中から、小型のロボットのようなものが飛び出してくる。
 かろうじて分離に成功した、肥満のパワードスーツだ。
 そこら中が黒く焦げ、関節からは火花が上がっている。

「そ、そんな!まだ動けるなんて!?」

 ヴァルナが悲鳴にも似た声を上げる。
 彼女の変身も、たった今切れてしまった。

「ヴァルナ、キーを私に!」

 麗子の声に、キーを投げようとするヴァルナ。

「これ以上はやらせんよ!」

 バーニアの出力を全開にする肥満。
 パワードスーツは、見た目からは信じられないような速度でヴァルナたちに突っ込んで行く。
 ヴァルナは避けようとするが、間に合わない。

「きゃあっ!!」
「ヴァルナ!」

 ヴァルナに駆け寄って、抱き起こすクレーメック。

「だ、大丈夫です。ちょっとかすっただけだから」

 そのクレーメックに、ヴァルナは頷きかける。

「ヴァルナ、キーは!?」
「え!……あ、あそこに!」

 パワードスーツに跳ね飛ばされた拍子に、キーはヴァルナの手から転がり落ちて――今、肥満の目の前に落ちている。
 皆が駆け寄るよりも早く、肥満は、そのキーを踏み潰した。

「ああっ!」
「キーが!?」
「これで、形勢逆転だな」

 勝ち誇った笑みを浮かべる肥満。

「フッ。キーを潰したくらいで、もう勝った気か。その傷ついた機体で、我が軍全員に勝てると思っているのか?」
「何。今更、勝てるなどとは思っておらんよ。じゃがな――お主たちには、死んでもらうぞ。道連れじゃよ」

「そうは行かないわよ」

「だ、誰じゃ!?」

 頭上からの声に、天を振り仰ぐ肥満。
 伏見 明子(ふしみ・めいこ)が、【蹂躙飛空艇】の上から肥満を見下ろしていた。

「これ以上、アンタの好き勝手にはさせないわよ、石原教頭」
「違う!校長だ、校長!」

 セーラー服型魔鎧【魔鎧六式】として明子の身を守っているレヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)が、すかさず突っ込む。

「あ、アレ……?教頭じゃなかったっけ?」
「『校長帝国』だろ!校長帝国!」
「あぁ!……ま、まぁ、どっちでもいいじゃない、そんなコト。とにかく、アンタの悪事もココまでよ、ニセ校長!」

「キャラクターチェンジ!」
「マーーーレェナ!」

 セーラー服を着た未亡人、マレーナ・サエフ(まれーな・さえふ)というマニアックな変身を成し遂げた明子は、肥満にビシッ!と指を突きつける。

「パラ実の未来ある学生に、侵略者の濡れ衣を押し着せるような狼藉、夜露死苦荘の管理人として認めるわけにはいきませんわ!」
「……ノリノリだな、オイ。しかし……」
「何よ?」
「いや。なんとゆーかこう、いつもと肉の感触が違うというか……。胸とか足とかにまともに肉の着いてる奴に着られるのは初めてだからどうも……って、あ!!」

 明子から発散される強烈な怒気に、口を滑らせたコトに気が付いたが、もう遅い。

「覚えておいて下さいね、レヴィさん♪」

 マレーナの口調を真似して、にっこりと微笑む明子。
 レヴィは、血の気が引いていくのを感じた。
 
「こうなったら、まずお主から血祭りじゃのう!」

 新たなキー所有者の登場に、自暴自棄になった肥満は、怒声を上げながら明子に殴りかかる。
 明子は飛空艇を駆って拳を軽々と避けながら、《我は射す光の閃刃》で、パワードスーツの股関節を狙い撃ちする。

「ナニッ……!どわわわッ!」

 両脚の駆動部を破壊されたパワードスーツは、前のめりに倒れて行く。

「今だ、集中砲火!ありったけぶち込んでやれ!」

 クレーメックの号令一下、パワードスーツを集中砲火する4人。
 明子のキーの力でフィールドが中和されている肥満の機体は、見る間にスクラップの塊と化した。

 パワードスーツが動かなくなったのを確認して、機体へと近づく明子。
 力任せにコックピットをこじ開ける。

「ま、まだじゃよ……。儂は……儂の校長帝国は……まだまだこんなものじゃ……」

 全身を弾丸に貫かれながらも、何かを求めるように手を伸ばす肥満。
 まるでマレーナその人な表情をしながら、その血塗れの手をそっと握り締める明子。そして――。

 パァン!

 《金剛力》を込めた掌で、肥満の顔を思い切り引っぱたいた。

 それが引き金となったように、暴走を始める肥満のキー。
 慌てて離脱する明子たちの前で、肥満の身体はスクラップとなったパワードスーツもろとも光の中に吸い込まれ行く。
 光が収まった時、そこには、完全に元通りの姿になった、肥満メカの姿があった。