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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?

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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
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 イタリアのフィレンツェにある、現存する最古の薬局をご存知だろうか? 『サンタマリア・ノヴェッラ薬局』というのがその名である。
 元々は修道院の修道僧達が自家製の薬草を栽培し、そこから薬剤を作り販売したのが起源と言われている。
 そんな由緒ある薬局のローマ支店を訪れていたのは、瀬島 壮太(せじま・そうた)フリーダ・フォーゲルクロウ(ふりーだ・ふぉーげるくろう)であった。
「しっかし、石鹸一つでこんな値段すんのか……」
「確かに普通のお店よりちょっとお高いけど、せっかくの旅行だし、少し奮発してもいいんじゃない?」
 フリーダが長い銀髪を揺らして微笑む傍で、壮太は手に取った石鹸の値段に驚愕していた。
 確かに高級品ではあるとはフリーダから聞いていたが、彼の予想した値段のおおよそ二倍はある。
「……しかも種類が多すぎてどれ買っていいのかわかんねえよ。つーか、オレ去年の修学旅行もこんな風にキョドってた気がする……なぁ姐さん?」
 ズラリと並ぶ商品を前にした壮太は、昨年の修学旅行の際、紅茶の専門店に立ち寄ったものの種類が多すぎて分からなくてまごまごしてた記憶を思い出す。
「そうね。一昨年の京都の修学旅行で初めて壮ちゃんに会った時のことを思い出すわね。あれからもう2年も経つなんて信じられないわ」
「そうだな……言われてみれば早いよな」
「……なんて、思い出話はいつでもできるわね、うふふ。壮ちゃんはお土産を買いたいんでしょう?」
「まあ、あいつは貴族の坊ちゃんだし、こんな場所いつでも来られるんだろうけど、土産くらいは買って行ってやろうかなと思ってな」
 修学旅行に一緒に来るはずだった壮太のダチ(友人)は、「急な用事が入って行けなくなりました」と言い、今回の修学旅行には不参加であった。
 そこで、ひと通りローマを観光した壮太は、パラミタに置いてきた潔癖症である友人のために、大昔からある有名なサンタマリア・ノヴェッラ薬局のローマ支店にいい石鹸が置いてあるらしいと聞き、はるばるやって来ていたのだ。
「こういう店はオレ一人だと気後れしそうだけど、今日は指に姐さんも嵌めてきてるし心強いぜ」
 今は更生した壮太であるが、元々は不良の問題児。こういった店には馴染みが無い。
「パラミタに置いてきたみんなへのお土産はポプリとかサシェとか、シルバーのポプリケースなんてどうかしら。ケースはペンダントにしても使えるみたいよ?」
「へぇ。ミミやハムも喜ぶかもな」
「あ、薔薇のクッキーなんてのもあるようね。これはお友達に買っていったらどうかしら」
「お。姐さん、いいチョイスだ! ……て、高えッ!?」
 そんな風に壮太はフリーダと会話しながら、石鹸以外のお土産も物色し始める。
……と、そこに。
「ローマは一日にして成らず、と言うが、美もまた然りだな」
「はい、ジェイダス様!」
「……ん? あの声は?」
 壮太が見ると、陽が抱えたカゴの中に、次々と商品を放り込むジェイダスがいた。
 最初は遠巻きにジェイダスの買い物を見つめていた壮太とフリーダであったが、石鹸の候補を絞りかねていた壮太は、思い切ってジェイダスに声をかけてみた。
「理事長」
「ん? おまえは確か……」
「オレは蒼空学園の瀬島壮太っていうんだが、石鹸の事でちょっと困っているんだ」
「ほう……身なりの割りに、石鹸にこだわるとはいい心がけだ」
「いや、どっちかっていうとオレじゃなくてな」
 壮太は、自分がどういう経緯で石鹸を買いに来たかという事をジェイダスに説明した。
「成程な……」
 壮太の話を聞いたジェイダスは、陽の持っていたカゴから、幾つかの石鹸を取り出す。
「まず、これはこの薬局オリジナルのアイリスの石鹸だ。アイリスはギリシャ語で『虹』を意味する花だ」
 フリーダは匂いを嗅ぎ、
「うわぁ、凄く良い匂いですね。理事長さん!」
「おお……本当だ!」
 壮太も同意する。
「まだ、ある。これはトバッコ・トスカーノ。 トスカーナのシガー(煙草)をベースに、ほのかなバニラが香るだろう?」
「煙草の匂いもわずかにあるな」
「だが、煙草のような嫌な匂いではない。そもそも、香水やオーデコロンにも煙草の成分が含まれているモノだってある。まぁ、ある程度の年齢を重ねた者でないと、似合わないから止めておけ」
 他にもジェイダスは、ミントやラベンダーの香りがするものを壮太とフリーダに示す。
 色々な石鹸を見せられて、壮太とフリーダが頭を抱える。
「どうした?」
「一杯あって、オレにはどれが良いのか余計に分からなくなった……」
「私も……どれも全部欲良いから……」
「……では、私が愛用しているのにしておくがいい」
「理事長の愛用?」
「これだ」
 ジェイダスが見せた石鹸には、一輪の薔薇がパッケージに描かれてある。
「薔薇の香りが良いだろう?」
「本当だ……」
「いい香りですね」
 壮太とフリーダの反応を見て、ジェイダスが笑う。
「私が使うのだ。悪いモノ等選ぶわけがない。香りというのは顔や容姿の次に大切なのだから」
「……よし、決めた!」
 壮太がパンッと手を叩く。
「壮ちゃん?」
「姐さん。オレ、コレを買う!!」
 壮太が棚から、ジェイダスが手にしたのを同じ薔薇の石鹸を二つ手に取る。
「二つも?」
「ああ。一つはダチに、もう一つは相談に乗ってくれたお礼に理事長に……」
 壮太の差し出した石鹸を見てジェイダスが苦笑する。
「私はそれを愛用していると言っただろう? 既にストックは余るほど持っているぜ?」
「あ……そうか……」
 頭を掻く壮太。
「だが、今更一つ増えたとこで変わらぬ。あるのに越した事はないか……」
「え? それじゃあ……」
「何をしている、私に買うのではなかったのか? このまま貰えば、私が料金を払う事になるぞ?」
 妖しく微笑むジェイダスに、壮太はフリーダと共に会計に向かう。
「あのぅ? ジェイダス様?」
「何だ、陽?」
「ボクも、その石鹸の匂いを嗅いでみたいのですけど……」
「……嗅ぐがいい。ただし、今夜まで待て」
「え?」
 少し残念そうな表情を見せる陽。
「何だ……バスルームで嗅がしてやろうという私の誘いを断るのか?」
 鼓動を早める陽を見て、ジェイダスが一層妖しい笑みを浮かべるのであった。

× × ×


 そして、話は元の夜のピッツァ屋へ……。
 ジェイダスの話を聞いている間に一同のテーブルには、新たなピッツァマルガリータが届いていた。
 先ほどは、翡翠のピッツァを奪い、悶絶していたクマラもその匂いに復活し、また黙々とピッツァを食べている。
「うまいにゃーー!!」
「何度目だよ、その台詞」
 エースがクマラに呆れた顔で呟くのを横目で見ていたレイスが、話終えたジェイダスに言う。
「何だか、忙しいかったってのはよ〜くわかったぜ」
 ジェイダスが指先で髪を弄びつつ、笑う。
「ああ、今日は慌ただしかったぜ」
「でも、流石、ジェイダス様ですわね。行く先々で問題を解決?……してらしたようですし、マスター?」
 美鈴が翡翠に問いかけると、翡翠は何だか座った目でジェイダスを見つめている。
 レイスが美鈴に耳打ちする。
「おい、翡翠のやつ、夜になると……」
 美鈴が窓を見ると、ローマの街はすっかり日は落ちて夜になっていた。
「あ……そうでしたわね。どうしましょう?」
「連れて帰る方がいいんじゃねぇか……?」
「ええ、そうしましょうか」
 二人が小声で会話する横で、ユラリと翡翠が立ち上がる。
「おい、ジェイ……」
 夜になり、性格と口調が変わる翡翠が何か言おうとした時、
「遅くなりました! ジェイダス様!!」
「陽か? 大変だったな」
「はい。何か、コロッセオ周辺の道が混んでいて……何かお祭りでもあるんでしょうかね?」
 ジェイダスが陽に振り返っている間、翡翠がジェイダスに何かを言っていたらしいが、ここでは割愛する。
 ともかく……息を切らした陽が店に入ってくる事により、レイスと美鈴は翡翠を連れて上手く退散する事が出来たらしい。
 一方、ピッツァ用の石窯作りをどうしようかと悩むエオリアは、ジェイダスが「作ってから考えればいい」とアドバイスを与えた事により、本格的に着手する事を決めたそうである。