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【2021クリスマス】大切な時間を

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第32章 クリスマスパーティー

 ヴァイシャリー湖に浮かぶ島の一つにある宿泊施設に、若葉分校生や契約者達が集っていた。
 ここのホールを借り、若葉分校番長である吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)主催で、クリスマスパーティーが行われるのだ。
「ぎゃー。いてぇー、首が千切れるーっ!」
「そんな、大げさな!」
 スキンヘッドの青年が、小柄な少女に首根っこを掴まれて、ずるずるホールに引き摺り込まれる。
「自分で歩けるってば、自分で……って」
 ホールに投げ込まれるように解放された少年――ブラヌ・ラスダーは、ホールの中を見回して、軽くため息をついた。
「お前がいるのはいい、誘ってくれるのも嬉しい! だけどむり子、お前が本当に元百合園生の女だというのなら、女友達沢山誘えよーーーー!!!」
 ブラヌは心の限り叫んだ。
 むり子――こと伏見 明子(ふしみ・めいこ)は、現在パラ実生だが、確かに百合園女学院の生徒だった頃がある。
「うっさい! 今日はどーしても誘えない理由があったのよ! ったく、そんなにアレナちゃんやミルミちゃんが好きか? 女の子に夢ばかりみよってからに!」
 ペチペチと、明子はブラヌの背を叩く。
 ……ブラヌは前のめりになって、げほげほと咳をして叩かれた場所をさする。演技で。
「触るな。俺は守ってあげたくなるような、女の子が好きなんだ〜。怪力反対ー!」
「私も十分守ってあげたくなるような女の子だと思うけどー!?」
「「「どこが!?」」」
 その声は、ブラヌだけではなく、ブラヌの親友達の口からも発せられた。
「私、どうしてこの子達に誤解されてるのかしら……」
 明子は遠い目をして、ふうとため息をつく。
「ともあれ、思ったより元気そうじゃない」
 ブラヌはフラれて落ち込んでいたそうだが、なんやかんやで友人達とバカ騒ぎをして楽しくクリスマスを過ごしていたらしい。
「まあ、その内アンタも収まるトコに収まるわよ。……私はどうなるか分かったモンじゃないけどね。この線だと」
「嫁の貰い手がいなくても安心しろ。いざとなったら俺がもらってやるし」
「え……?」
 ブラヌの意外な言葉に、明子は驚く。
「ボディガードとして! 寧ろ最強兵器として!!」
「あ、やっぱり。そういう意味ね」
 明子は手を振り上げると、景気付けにブラヌをバチンと叩いた。
「まあ、番長人望が厚いから、色々集まってくるわよきっと、今日は思う存分楽しみなさい」
 そう励まして、準備をしている人達の元に手伝いに向かっていく。

「……どうした、ブラヌ。まさかそうかァ、何も言うな」
 何故か床に倒れているブラヌを発見した竜司は、彼の腕を引いて、立ち上がらせる。
「女にモテるためには、女の前で床に寝転ぶのはダメだぜェ。パラ実では下から覗くのは当たり前だがなァ」
 振られたショックで立ち上がれなくなってしまったのだろうと、勝手に解釈して女にモテるコツを教え込んでいく。
 オレのように器がデカく、女に優しい男がモテる。
 オレのような、そういった行動を取ればモテるはずだと。
 持論を展開していく。
「は……はあ」
 竜司は番長として最高にイイ男だが。
 ブラヌが好かれたい意味で、女にもてる人物ではないことは、ブラヌも分校生達もよく解っていた。
「けど、総長オトしたって噂もあるしな」
「付き合ってるんだよな?」
 竜司が持論を展開する傍ら、分校生達はひそひそ話をしている。
「ケーキ持ってきましたけれど、如何でしょうか?」
「う、うおおおおお!?」
 そこに現れた天使、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の存在に、分校生達は大いに驚く。
 温和で優しそうで、可憐な花のように微笑む彼女は分校生にとって、救世主であり、天使だ。
 ……ロザリンド・セリナ。白百合団の班長にして、結成時から所属している成人ロイヤルガード。
 服の下には二丁のカーマインに、ガントレット、レガースその他でバリバリ武装していたが、気づいてないので分校生にはか弱いお嬢様に見えている。
「二つ、あるんです。お好きな方をどうぞ……」
 ロザリンドは、ヴァイシャリーの街で購入した、普通の苺のケーキと、一生懸命練習をして作り上げた自作のチョコレートケーキをテーブルに広げた。
「こ……れは手作りケーキだな。昆虫型とは珍しい!」
「丸く作ったつもりなのですが……」
 ロザリンドはしゅんとする。
 楕円型とかなら分かるが、何故に昆虫型……と思いつつ、自分が作ったケーキをよく見てみると。
 飾り付けた、2本のチョコ棒が触覚の様に飛び出て居たり、塗ったチョコレートの筋がまるで羽のように見えたり。散りばめたチョコチップは昆虫の目よううでもあって。
「……そうです、昆虫型です」
 ロザリンドは開き直ることにした。幸いゴ……リ型には見えない。大丈夫。
「このままじゃ寂しいからなァ、てめぇらも食うのは飾り付けてからにしろよォ」
 竜司は、ホールに簡単な飾り付けを施していく。
「うぃーっす。神楽崎総長も来るっていうし、お預けかな」
「まー、難しいだろうな」
「だよな、大人だし」
 言いながら、ちらちら分校生達はロザリンドを見ている。
「はい?」
 チョコレートの染みでもついているのだろうかと、ロザリンドは自分の服を見るが、特に汚れてはいなかった。
「ええと、飾り付けしましょう」
 にっこり微笑んで、ロザリンドは電飾や飾りの入った段ボールを軽々と持ち上げて、ブラヌに渡した。
「……いってぇぇぇーーーー!」
 それはブラヌの持てる重さではなく、派手に足の上に落としてしまう。お約束だ。
「すみません、渡し方が悪かったですね」
 言ってロザリンドは段ボールを拾い上げてまたブラヌに渡そうとしたが、逃げられた。