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【ザナドゥ・アフター】アムトーシスの目覚め

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【ザナドゥ・アフター】アムトーシスの目覚め
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終章 変らぬもの、変ってゆくもの

 結局――。
 最終的にルシェンたちに捕まってしまった朝斗は、紅白歌合戦の邪魔をしたお詫びということも兼ねて、特設ステージ上で踊らされていた。
「しくしくしくしく…………なんで僕がこんなことを……」
 その格好はもちろん『ネコ耳メイドあさにゃん』そのもので。
 白を基調としたオーソドックスなメイド服に、ネコ耳と尻尾をつけられている。ちまたで有名だと言われるひたすら「ニャンニャン」言いまくる中毒性のある歌に乗せて、彼はフリッフリッと尻尾を揺らしながら猫のポーズで踊り続けた。
 まあ、幸いだったのは、踊っているのが彼だけではないことか。その踊りの珍しさからか、魔族たちがこぞって参加し、大規模なダンス集団と化していた。特に魔族には角が生えている種族が多い。ロクロをはじめとしたそうした面々は、ネコ耳もどきのような角でニャンニャンダンスを踊っているのだった。もちろん、魔族以外にも参加している。エンヘドゥは楽しそうに羽目を外していた。
 そんな彼女が、朝斗の肩をぽんと叩く。
「そんなに気を落とさないでいいじゃないですか。面白いんですから」
「エンヘドゥ様には僕の気持ちは分からないよっ! いつもいつもいつもいつもネコ耳ネコ耳ネコ耳ネコ耳っ! もう勘弁してええぇぇ!」
「にゃー?」
 泣きながらも、律儀に踊りを踊る朝斗。
 その肩に乗るあさにゃんも、彼の様子に首を傾げつつ、フリッフリッと腰を振りながら踊っていた。
(ご愁傷様だな……朝斗)
 観衆の一人であったシャムスは、苦笑しながらそれを見つめていた。
 夜も更けてきて、それまで薄暗かった空はさらに漆黒を増した。ザナドゥの街に響き渡るダンスのにぎやかな声と曲は、いつまでもその空に響き渡りそうだった。



「みんな……楽しそうですね」
「うん、そうだね……」
 螺旋状の街の外れにある神社の姿は、アムドゥスキアスの塔からもよく見えていた。特に漆黒の増した夜では、その灯りや照明の光が綺麗に瞬いている。
 神社を見下ろしながら、夜風が吹くベランダにいたのはアムドゥスキアスと、そして七ッ音だった。今回のイベントで遊んだ分、残された業務もあるからと塔に戻ってきたのだ。七ッ音は、その手伝いとしてついてきたのである。
 ある程度、書類へのサインなども終わらせてから、二人は少し休憩がてらにベランダに出ていた。
 水平のアーチ状になっている縁に肘をかけながら、風になびく髪をなでるアムドゥスキアス。七ッ音はその近くにあったイスに座って、肩から提げていた入れ物からショルダーキーボードを取り出した。
「あの……アムさん……」
 振り返るアムドゥスキアス。
「こないだ渡した楽譜の曲……編曲したんです。それで……もしよかったら……」
 七ッ音は楽譜をテーブルの上に置いていたバッグから取り出して、ショルダーキーボードを示す。もしかしたら断られるかもしれない。忙しいとか、もしくは、そんな気分じゃないとか。不安な気持ちが胸を締め付けた。
 だけど――。
 彼女は勇気を振り絞って、訊いた。
「聴いて……もらえませんか?」
「……うん」
 その返事を聴いたとき、思わず涙がこぼれてしまいそうだった。
 今日、この日。何度もチャンスを逃したのだ。朝、彼と出会ったとき。街を見て回ったとき。隠し芸大会の前後。そして神社。ずっと言うタイミングを逃してきて、そしてようやく、こうして――。
「それじゃあ……聴いてください」
 曲は、空気に綴られた。


 クラクラするような
 ひらり舞う艶やかな華は
 潔く全て受け入れたかのようで

 何もかも幸せになるなんて
 甘い考えと笑われるのなら
 せめて貴方の幸せを願いたい
 ……我が儘でしょうか?

 藍の羽ひとひら
 貴方の笑顔が見られるなら
 それ以上の幸せは無いです

 だから一緒にいられるなら
 ともに歩んでいけるなら
 この華と羽のように……
 貴方と幸せを探しにいきたい



 アムドゥスキアスは、キーボードの伴奏に乗せて聞こえてくる七ッ音の歌声にじっと耳を傾ける。
 伝わる音。伝わる声。伝わる思い。
 その曲が終わりを迎えたとき、アムドゥスキアスはなぜか色んな事が思い出されて、目頭に熱いものを感じた。
「…………アムさん……泣いて……ます?」
「あ、いや……そのこれは……別に…………泣いてるわけじゃ……」
 アムドゥスキアスはパタパタと手を振ると、その熱いものをぬぐった。
 彼のそんな姿は初めて見たような気がする。七ッ音は、どこか熱くなる鼓動を感じていた。
「その……少し寒くなってきたし……部屋に戻ろうか。仕事の続きもしなくちゃね」
「そうですね」
「あ、それと……歌、ありがとう。とても良い曲だったと思うよ」
 アムドゥスキアスは照れくさそうに微笑みながら言う。
 その言葉があれば。その言葉さえあれば――。それに勝る喜びは、七ッ音にはなかった。だから彼女は、とびきりの笑顔で彼に答えたのだった。
「……はい!」

担当マスターより

▼担当マスター

夜光ヤナギ

▼マスターコメント

シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
まずはリアクションが遅延公開となってしまったことにお詫び申し上げます。
大変申し訳ございませんでした。

今回は【ザナドゥ魔戦記】シリーズの後日談という位置づけのスピンオフ作品でした。
皆さんそれぞれのアフターストーリー。
良い結果で残っているものもあれば、やはり悩んだり、悔やんだりして、一歩ずつ前に進もうとしているものもあります。
そうした姿を見ることが出来るということもまた、後日談の良いところなのかなぁと。
そんな風に思っているところです。
少しでも、皆さんの楽しめる作品になっていたら幸いに思います。

それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。
ご参加ありがとうございました。

※02月11日 一部修正を加え、リアクションを再提出しました。