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【ザナドゥ・アフター】アムトーシスの目覚め

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【ザナドゥ・アフター】アムトーシスの目覚め
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第4章 だから神社だって言ってるじゃんよ 4

 それから、シャムス一行は瑠奈たちから教えてもらった餅つき大会の場所へとやって来ていた。
 それを主催しているのは、一人の娘である。名は月音 詩歌(つきね・しいか)。見た目は無邪気でかわいらしい女の子で、まっすぐに伸びた乳白金の髪がさらにそれを映えさせる娘だった。
 そんな彼女が、先陣を切って餅つきをしている。さすがに杵を用いるのは男の役目だったが、彼女は臼の傍でしゃがみながら、餅をのぞき込むようにして何度もそれを折りたたんでいた。
(ぺったんぺったんぺったんぺったんぺった……ん……ぺっ……た……ん……ぺ……ったん……こ……ぺったんこ……?)
 視線を下げると、見えたのはまな板のような自分の胸。
「う、うぅ……」
(泣いてるし!?)
 杵で餅を叩いていた魔族の男が目を見開く。
 詩歌のこの餅が自分の胸につけば良いのにとでも言いたそうな羨ましげな目が、ずっと餅を見つめていた。
 が、まあ、それはさておき。
 完成した餅は街の皆に振る舞われている。実際に臼と杵を使って餅つき体験を出来るコーナーも人気のようで、餅つき大会は大盛況の様子だった。
(ま、まあ胸のことはおいといても…………みんなと仲良くなれて良かったです)
 そんな風に詩歌が思っていたとき、横の方から彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、月音よ。こっちのスペースは使っていいのか?」
「あ、アキュートさん……。はい、問題ないと思いますよー」
 アキュートと呼ばれた契約者――アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は、肩に大量のしめ縄や葉や松飾りのようなものを担いでくる。それを詩歌に尋ねた場所にどさっと置いて、一本の三角錐っぽい形に縄でまとめ上げはじめた。
「あの……アキュートさん……それ、なんですか?」
「いや、あのだな。日本の正月っぽいものって何なのか考えたわけだ」
「はい」
「ってなれば、そりゃ、皆で綺麗な着物を着てな」
「ふむふむ」
「雪だるまみたいな形の、巨大な餅を……」
(鏡餅でしょうか?)
「キャンプファイヤーで焼く――ってのが定番だろ?」
「………………はい?」
 そう言いながらもちゃくちゃくとアキュートの準備は進んでいく。どうやら運営側に協力も要請しているようで、彼だけではないお手伝いの魔族たちがどんどん葉っぱや飾りを一カ所に積み上げていった。
 それが終わりを迎えた頃、彼のパートナーのクリビア・ソウル(くりびあ・そうる)ペト・ペト(ぺと・ぺと)が、シャムスたちを連れてやってきた。
「アキュートー、連れてきたですよー」
「おう、シャムス。よく来たな」
「さすがに、ペトに頼まれて断るわけにもいかなかったのでな」
 彼女は、クリビアの肩に乗っている小さな花妖精を見ながら苦笑した。
「ところで、これはなんだ?」
「サプライズなのです。シークレットなのです。ファイヤーダンシングなのですよ〜」
 それはシャムスだけではなく、誰しもが思うところだった。
 なにせまるで塔のように飾りや葉が無作為に積み上げられたという見たこともない代物なのである。首をかしげるシャムスたち。その目の前で、ついにアキュートが火をつけた。
「サプラ〜イズ! ってな。ちとデカくし過ぎたか?」
「わあ…………」
 それは、轟っと音を立てて燃え上がったキャンプファイヤー。
 その周りに、集まる観衆たち。
 その中には、シャムスにとって親しい顔ぶれもいた。
「シャムスさーん! エンヘドゥさーん!」
「あうら……! お前も来ていたのか……」
 遠くから着物姿で駆け寄ってくるのは、栗色のツインテールを揺らす元気という言葉がピッタリ似合いそうな娘だった。その八日市 あうら(ようかいち・あうら)と呼ばれる彼女もまた、地球の契約者である。同時に、彼女はシャムスやエンヘドゥとカナン戦役の時から一緒に戦ってきた戦友でもあった。
 そして、あうらに少し遅れて歩いてきたのは、彼女のパートナー、ヴェル・ガーディアナ(う゛ぇる・がーでぃあな)である。彼はキャンプファイヤーの炎を見つめながら感心するようにつぶやいた。
「日本では年が明けるとこんな風に祝うのか……」
「いや、ヴェル……それはちょっと違うと思うんだけど……」
 苦笑するあうら。
 だが、楽しければ別にそこに水を差すこともあるまい。あうらはそれ以上のことは言わないでおくことに努めた。
 そしてあらためて――シャムスたちにお辞儀をする。
「明けましておめでとう。今年もよろしくね、シャムスさん! エンヘドゥさん!」
「ふむ。明けましておめでとう、だ」
「こちらこそ、今年もよろしくな」
 日本の伝統的な風習――『明けましておめでとう』
 その言葉は、どこか人の気持ちを晴れやかに、そして幸せを繋いでくれるような気がする。
 シャムスは、そんなことを思いながらあうらたちと一緒に餅やお雑煮やお汁粉を食べながら、キャプファイヤーに参加した。
「むにー」
「の、伸びるの〜」
「ふふ……モモちゃん、サクラちゃん、餅がすごいことになってますよ。って、ナナちゃんっ! それはお酒だからダメですっ!」
「え〜!」
 餅を食べるのに悪戦苦闘するモモとサクラに、勝手に誰かがテーブルにおいていた日本酒に手を伸ばそうとするナナ。それを引率・監督して注意するのは柚だった。そんな彼女を見ながらクスクスと笑う、三月。
 晴れ着や袴を着た男女が、魔族が、人が、キャンプファイヤーを囲んで踊り、語らう。その光景には、もはや国の壁もなければ、種族の壁もなかった。
「甘酒の無料配布です。一杯いかがですか?」
 そんな楽しげな観衆たちに、クリビアは甘酒を配布し始めた。
「度数高めの、甘酒も有りますよ」
 子どもには普通の甘酒。大人には日本酒入りだ。
 そうして徐々に盛り上がりを見せるキャンプファイヤーが佳境に入ったところで、ついにアキュートはこれを用意していた巨大な餅を登場させた。お手伝いの魔族たちが、えっちらほっちらと運んでくる。
 それがキャンプファイヤーの中に突っ込まれて、豪快に焼かれ始めたのだ。
 盛り上がる会場。
 が――徐々にその様子がおかしくなってきた。
「なんだこりゃあ! 餅ってのは、こんなに膨らむのかっ!」
「って、お前が用意したものだろうがっ!」
「お、ナイスツッコミだな、シャムス」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないですわっ! 本気で危ないです!」
 エンヘドゥが叫んだ次の瞬間。
 ドンッ! と音が鳴って、餅は盛大に爆発した。空に向けて散った餅は、まるで雪のように皆に降り注ぐ。
「ハッピー ホワイト ニュー イヤーってな……」
 だが、もちろん。
 見た目はどれだけ綺麗でもそれが焼かれていた餅であることには変わりなく、あっついことこのうえない上に、ベタベタに身体に張り付いた。観衆やシャムスたちの視線は、非難めいてアキュートに向けられる。
 そして結局は、
「いやっ……何て言うか………………すまなかった」
 こんな終わり方だった。