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 話は温水プールへと戻る。
「ふあ〜、生き返った。やっぱ温泉って気持ちいいな〜」
 ダークブルーのトランクス型水着を着た健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が、温水プールのプールサイドに足をつけて呟く。
「そういえば、俺はアトラスの傷痕で咲夜を見付けて契約したっけ……まさかこんな場所で温泉に入るだなんて……何かの縁だな、これは」
「温泉ですか……様々な泉質があり、浴用または飲用することで治療・健康増進の効果があります。マスター達も疲れていたのであれば、それもいいでしょうね」
 勇刃の傍に座る白いフリルビキニのアスター・ランチェスター(あすたー・らんちぇすたー)が、クロスワードパズルの本を見つめつつ、静かに言う。
「おいアスター、一人でクロスワードなんてやってないで、みんなと一緒に楽しく遊ぼうぜ! それためにここに連れてきたんじゃないか?」
 アスターは勇刃をチラリと見る。
「遊ぶ? ですが、温泉浴とはいえ、頭脳訓練を怠るわけにはいきません。だからこそクロスワードを持って……」
「それは温泉じゃなくても出来るだろう? それに、今は温水プールだからいいけど、さっきは温泉で危うくノボせかけたって咲夜から聞いたぞ?」
「すいません。どうしてもわからない単語があって考えこんでしまったんです」
「わからない単語? クロスワードで?」
「はい。でも、美空さんから聞いて判明しました」
「美空が……ねぇ」
 勇刃が温水プールではしゃぐ二人の少女に目をやる。と、黒い長髪の少女と目が合う。

 ピンクのスカートビキニの天鐘 咲夜(あまがね・さきや)は、プールサイドの勇刃を見ていた。
「(アトラスの傷痕……あそこは確か、健闘くんが私を見付けてくれた、とても大切場所。そんなところで美空ちゃん達と温泉とプール遊びだなんて……)」
 感慨深く周囲を見渡す咲夜に近づくのは、赤いビキニの銀河 美空(ぎんが・みそら)である。その手に握られているものは……。
「てへへ……プールって言えば、水遊び! そして水遊びの中の定番は、もちろん……喰らいなさい! 美空特製・必殺水鉄砲!」
 ピュウゥゥーッ!!
 水鉄砲から発射された水が咲夜の顔にかかる。
「きゃあ! もう、美空ちゃんったら……こうなったら……お返しです! えい!」
 サッと水鉄砲で応戦する咲夜。
「あ! やったな、テレサ〜!」
 因みに、テレサという名は咲夜の本名『テレサ・ファリンクス』からである。
 キャアキャアと水を撃ちあう二人を見ていた勇刃が笑う。
「うん……咲夜と美空、二人で仲良く水鉄砲か。本当に仲がいいんだな、あの二人」
 アスターが同意する。
「はい。お二人とも、こんな場でも銃を使った至近戦闘をを意識されている模様です。所謂、ガンカタというものでしょうか?」
「……いや、ただの遊びだと思うけど。アスターも参戦してきたら?」
「ワタシが、ですか? マスター?」
「実戦の役には立つんじゃないか?」
 勇刃が言ったのは、あくまで冗談である。が、アスターの受け止め方は違ったらしい。
「了解しました。……どうやらワタシの現在の行動は新しいマスターの指令と矛盾している模様ですので、ここは新しいマスターの指令に従い、皆さんと『遊ぶ』予定に変更します」
 アスターがスクッと立ち上がる。
「よし、行ってこい」
「ただ、準備が必要です。しばしお時間を頂けますか?」
「準備? まぁ、プールに入る前は準備運動は必要か……うん、いいよ」
 アスターは勇刃に頭を下げると、プールサイドを歩いて行く。
「(アスター……楽しんでるのかな?)」
 そう思いながら勇刃が彼女のやっていたクロスワードパズルを見ると、その全てが埋まっていた。
「(終わったから、暇になったのかな?)」
「えええぇぇーーーーッ???」
 プールから聞こえた咲夜の声に、勇刃が慌てて振り向く。
「マスターからのご命令です。水鉄砲遊びモードに変更します。覚悟してください」
「ア、アスターちゃん!? そんな大きな水鉄砲は、一体どこから……」
 美空も流石に後退する。
「アスターちゃん。それって痛くないヤツ……だよね?」
 アスターが手にしているのは、水鉄砲とは既に呼べぬ回転速射砲。所謂、『ガトリングガン』である。
「お二人に水中での不利な動きを体感して貰います。お覚悟を!」
 ドドドドドッ!! と、狙いを定めたアスターの連射が炸裂する。
「きゃあああー!!!」
「うわぁぁーー!!」
「……って、機晶技術で水鉄砲を強化したのか……咲夜と美空がびしょびしょじゃないか」
 様子を見ていた勇刃が呟く。
 二人に次々と圧縮された水弾を撃ちこむアスターの顔に笑みが浮かんでいる。
「……あれも、一応楽しんでるって言えるのかな?」
 勇刃が苦笑すると、アスターの上に急に影が落ちる。
「ちょちょちょーーッ!! どいてーーーッ!?」
 声の主はウォータースライダーを勢いのあまりコースアウトした未散であった。
「!?」
ーーードボォォォーーンッ!!
 巨大な水しぶきがあがる。
「アスターちゃん!?」
「大丈夫?」
 美空と咲夜が駆けつけると、アスターはしれっとした顔で浮き上がってくる。
「はい。咄嗟に回避しましたから」
「よかったー」
 一方、水中の未散は、案の定、上の水着が取れており、水中で結び直していた。
「(ガボボ……い、息が……)」
 遠のきかける意識の中で、何とか結び直し、浮上する。
「プハーッ!」
「未散さん!?」
 ステージ上の衿栖に、ピースサインで応える未散。
 アスター達に謝り、プールサイドへ手をかけて身体を起こす。ちょっぴり涙目である。
「うう……怖かった……もう高いところは嫌だ」
「「「うおおおぉぉぉーーッ!?」」」
「な、何?」
 未散がキョロキョロと周囲を見渡す。
「うおおお! 未散殿! あまりにも、あまりにも刺激的すぎるでゴザル!!」
 悶絶する太めの男、ジョニーに対して、ガリガリの男が酷く余裕を無くした表情で頷く。
「クッ、これがMICHIRUスタイルだぜ、ジョニー!! 流石の俺も今回ばかりは予想できなかったがな!!」
「……そこのガリガリと太っちょ。私が何だよ? どうしたんだよ?」
「未散さん! 逆、逆だよ!!」
「何が?」
「水着!!」
「へ……」
 未散の水着は、慌てて付け直したためか前後が逆になっていた。つまり、本来背中を止める部分が、彼女の胸の大事な部分を隠してはいるものの……かなりキワドイ……。
「……ああああぁぁぁぁーー!!!!!」

「……は? 出演拒否のアイドルがいる? どういう事?」
 蒼木屋シャンバラ国境店、通称『卑弥呼の酒場』でのマネージメント経験を生かし、ここの事務を担当していたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、事務室で椅子を回転させ、怪訝な表情を見せる。
 ルカルカの具体的な仕事は、『スパリゾートアトラスと卑弥呼の酒場の宣伝として、衿栖、未散、輝達の番組をプロデュースし制作するというものであった。
 その番組のプロデューサーを統と共に務めるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、冷静な表情を崩さず、ルカルカに現場で起こったありのままを伝える。
「……話はわかったけど、はいそうですか、と言える事じゃないわね。コンテンツが揃わないまま番組をして、宣伝の比重が大きくなってみなさいよ? それどこのステマ? て言われるのがオチよ」
「わかっている。現在、関係者が鋭意説得中だ。統と極秘に進めていたプロジェクトもあるしな……。だが、ルカ。もしものために保険は必要だと思う」
 片手でペン回しをしていたルカルカが指を止めてダリルを見る。
「……何か策があるの?」
「既に打っておいた。幸い、客にアイドルがいたんだ」
医者がフライト中の飛行機に乗り合わせた、のとは違う気がしたが、ルカルカは納得し、もう一つの懸案事項をダリルに尋ねる。
「で、セルシウスはどこ? あの人が居ないと、フルーツ牛乳の企画がポシャるわよ?」
「泉質調査員達に連絡を取った。巨猿に踏まれてペシャンコらしいが、問題ないだろう……おっと、済まない。局から電話だ」
 ダリルが携帯を持って、事務室から出ていった後、深い溜息をついたルカルカがペン回しを再開しかけ……また、手を止める。
「……踏まれて、ペシャンコ?」