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お風呂ライフ

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 二人がスパリゾートアトラス目指してイルミンスールの森を抜けようとしている時、その一団はあった。
 素性を隠したいのだろう、多くの歪な闘志溢れる男達を前に、関西弁風の口調で演説をしていたのは瀬山 裕輝(せやま・ひろき)であった。
「──諸君!理性に負けたらアカンで!!」
 静かな森に裕輝の声が響き、鼓舞された男達が肩を震わせる。
「風呂、温泉、その他諸々……。男なら、男の子やったら望む事は一つやろが!」
 参加者達は、手に持ったビラを強く握り締める。
「それがNOZOKIや! 諸君、一人ならば怖気づくかもしれへん、無理かもと諦める者もおるやろう……しかし、皆で行けば怖くない、皆で考えればバレへんで!」
 エールヴァントは横目で彼らを見つつ、通りすぎようとしたのであるが、裕輝の演説に深く心を打たれたアルフが立ち止まってしまう。
「さあ、立て(アップ)、立て(アップ)、立ち上がれ(スタンダップ)や!!」
「「「うおおおぉぉぉーー!!」」」

 そこに、巨猿の一団を引き連れた一人の男が現れる。
「見事な演説だな」
 裕輝が見ると、二重アゴの仮面の男がこちらを見ている。
「誰や!?」
「そう興奮するものではない。幸いにも私と君達は目的も行為も同じなのだからな」
 シェア大佐は落ち着き払った口調でそう言い、裕輝に巨猿を使った進軍を進言する。
「なるほどな……せやけど」
「けど?」
「オレが唯一恐れる事は、無駄に集団行動のしすぎで我先にと急ぎ、騒ぎ、愚かにも警備員の皆さんに見つかる事や!」
「一理あるな……では、そこは私が面倒を見る、という提案をさせて頂こう」
「お前が? ……信じられへん。仮面なんかつけとる男は!」
 裕輝の言葉に、シェアは彼を木陰に連れていき、仮面を外す。
「!!」
 シェア大佐の素顔を見た裕輝が驚愕する。
「な……、なんてエロい目や……お前、ホンマもんやないか!!」
 シェアの目は、裕輝がこれまでに見たどんな人間よりも本気の、本当の『エロい目』をしていたのだ。その目付きは筆舌に尽くしがたい。
「信じて頂けたかな?」
「その目見たら、信じるしかないやん!!」
「面白いことを言う……私はこの目のせいで、いつも差別をされていたのだよ。学生時代等、電車内で女学生の透けブラを見ただけで補導されかけた……苦々しい想い出だ」
 シェアは仮面を再び装着し、ガッチリと握手をかわす。
 裕輝提案のNOZOKI作戦の指揮をシェア大佐が執る事になった一部始終を、こっそり木陰から見ていたエールヴァントは、溜息をつく。
「はぁ……アルフ、お前もああいうのを反面教師として……て、アルフ? 何処行った?」
 エールヴァントの心配をよそに、アルフはその時作戦に加わる事を裕輝に宣言するのであった。
「それでは、総員健闘を祈るで。───行き給え!」
 裕輝の号令で温泉地に向かい出す一団。ちゃっかりアルフも巨猿の背に乗っているのを見つけたエールヴァントは、一瞬の間に教導団で鍛えた脳内シュミレーションを展開させる。
「(あの下半身馬鹿野郎……女湯を覗きに行こうと考えているに違いない!……が、うっかり僕がそれを止めに行くと、状況によっては『女湯を覗きに来た馬鹿がもう一人増えた』という風に見えられてしまう! そんな誤解は絶対に避けなくては……)」
 一瞬を一分程に感じる程、考えこむエールヴァント。
「(僕がアルフを無視して、警備員に任せても良いんだけれど、拘束されたりして身元がバレると軍人として……それも避けなくては!)」
 うっかりするとエールヴァント自身も営倉入りとかになりかねない。となると彼自身が止めに入らざるを得ない。
 こうしてエールヴァントは、近くにいた巨猿の背に慌てて飛び乗り、アルフの後を追うハメになったのだった。
 尚、裕輝本人は「作戦のため皆とは別の場所で動く」と言い残し、去っていったのであった。


「見てくれはあんなのだけど、案外頼りになるのかもな」
「なるわけないだろう?」
 アキラとの戦闘を終えて合流したシェア大佐の背を見ながら、互いの感想を述べるエールヴァントとアルフ。
「しかし、エルヴァもカタい奴だと思ってたけど、やる時はやるんだな?」
「……監督不行き届きで僕にまでとばっちりが来ると困るからな」
 ショットガンを肩にかけたエールヴァントが、決行の時を伺う。
「(うまく利用されている巨猿は兎も角、この覗き集団全員を止めるのは無理だな……となると、やはりアルフとあのシェア大佐を……ん?)」
 エールヴァントの金髪の中からシェパードの耳がぴょんと飛び出す。彼は【超感覚】を使うと、こうなるのだ。
「どうした、エルヴァ?」
「……アルフ、聞こえないか?」
「何が?」
「イコンの駆動音だ」
 その時、シェア大佐が皆に告げた。
「諸君! 森を抜けるぞ! 気を抜くな!!」
 一同の目に映る、いい加減見飽きた森の風景が荒野へと変わっていく。

「来ました、美羽さん」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、眼鏡を指で押し上げて、森から姿を現した巨猿の一団に目をやる。
「庚くんが言ってたお猿さん達だね!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がベアトリーチェを見る。
「はい。どうします? あの人達は好戦的だそうですけど……」
「そうだね……傷ついた巨猿たちには、やさしく対応してあげたいよね」
「その背や肩に乗った人達は?」
「みんなで取り囲んでフルボッコ!」
 元気に『殲滅』を宣言する美羽。長年の付き合いから予め美羽の答えを予想していたベアトリーチェが頷き、
「ですが、理知さんや翔さんとの合流は直ぐには叶わないと思います。足止めを?」
「ううん、私達で出来る範囲でフルボッコ。巨猿達は、イコンで天然温泉に誘導して、ゆっくり傷を癒して貰おうよ」
 要するに「巨猿の湯治は手伝うけど、のぞきは容赦なく成敗する」という事だ。
「了解しました」
 スタイルがなまじ良いためか、温泉で彼らのような好色家の餌食になりそうになった過去のあるベアトリーチェが、美羽の提案に素早く同意する。
「じゃ、さっさと終わらせて温泉だね! コハクも待ってるし」
「……美羽さん。コハクさんとは一緒に入れませんよ?」
 空中で待機していたグラディウスが一団の方へ速度を上げて滑空していく。