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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~

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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~
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 第5章

「関わってきた事だし、最後まで面倒を見たいと思った」
 エリザベートとアーデルハイトに、ダリルはファーシーの出産に纏わる話をしていた。 教導団直轄の病院だった為に特に問題無く手伝いも出来、モニター等の保存情報の変化も合わせ、考察と記録を独自につけた。
「俺は、今でも機晶姫に出産の必要性は無いと考えている。だが、必要性はないが価値はある。彼女達を見て、そう思った」
「自分はファーシーさんの出産で、家族の絆の大切さを感じる事ができました」
 ザカコも微笑み、ワルプルギス姓の2人に言う。
「新しい命に家族の絆……いつか自分もこんな温かい絆を持てるようになりたいですね」
 それを感じる事が出来た今、アーデルハイトにも家族の絆を深めて貰いたい。隣を歩く彼女達の気負い無い表情を見ながら、彼は思う。
「……あ」
 前方に、りんご飴の屋台が見える。赤い暖簾を掲げる店に、ザカコは近付いていった。
「お祭りと言ったらやっぱりりんご飴です!」
 宝石のような光沢を放つりんご飴を5本買い、1本ずつ配る。4人はそれを受け取って口をつけ、ルカルカが嬉しそうな顔になる。
「甘〜い! 幸せー!」
「おいしいですぅ」
 エリザベートは少しずつ飴を溶かし、その味を楽しんでいた。それから振り返って、皆に言う。
「今日はありがとうございましたぁ〜。他にも約束があるので、行きますねぇ。といっても、場所はここなんですけどぉ〜」
「あれ、誰かと花火を見るの?」
「そうですぅ、大切な約束なんですぅ〜」
 そう言って小さくお辞儀をして、エリザベートは彼女達から離れていった。

              ◇◇◇◇◇◇

「やっと日が沈んだか……雅羅と回る夏祭り、楽しみだな」
 せっかくの夏祭りに誘わない手はない。ということで、四谷 大助(しや・だいすけ)雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)と待ち合わせをしていた。彼女と会う前から、既に心臓は早鐘を打っている。
 緊張と期待が入り混じり、自然と体に力が入る。
 デートに誘うのはこれが初めてなわけじゃない。けど、こればかりは何度やっても慣れなかった。
 今日の大助は、いつもの白ランではなく紺の浴衣を着ている。雅羅にも一応浴衣姿をリクエストしてみたが、着てくれるだろうか。
(雅羅は浴衣姿も似合うんだろうな……着てくれてたら、何て褒めようか)
 今から花火大会まで、まだ少し時間がある。それまでは雅羅と歩こう、と彼は辺りを見回した。沢山の屋台が軒を連ねている。
 ――何か買ってあげようか。何を買ったら喜ぶだろう。
 1つの屋台に目が止まる。店の外には、子供向けのキャラクターやヒーローが印刷された袋がいくつも下がっている。ぱんぱんに膨れた袋に入っているのは、綿菓子だ。
(雅羅は綿菓子とか初めてかな。……口元を気にして綿菓子を小鳥のように啄ばむ雅羅……。……すごくいい。ナイスアイデアだ、オレ)
 彼女なら『綿菓子を食べている姿グランプリ2022王者』は間違いないだろう。そんな事を考えていると、そこで雅羅がやってきた。
「…………!」
 綺麗な浴衣姿だった。紺地に花の模様が散った極日本的な浴衣だったけれど、それが、雅羅にすごく似合っていた。
 浴衣を着てきてくれたら、褒めようと思っていた。だけど、実際に見たら似合いすぎてて、何というか……言葉が、見つからない。頭が真っ白になったような。
 雅羅は僅かに、不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの?」
「え!? あ、いや、その……と、とりあえず行こうか! 祭り!」
 その場でのコメントは後回しにして、大助は、とにかく明るい笑顔を向けた。

『わたあめ』と書かれた屋台の前で立ち止まる。
 店頭では、鉢巻をした男性が大きな円形の機械を使って綿菓子を作っていた。物珍しいのかやってみたいのか、小さな子供が何人か、その様子を覗き見ていた。
 透明のビニール袋に入った作りたての綿菓子が、機械の両隣に並んでいた。穴の開いた土台に、割り箸を立てるという方法でバランスを取っている。
 日本円に換算すると、ひとつ500円。
 ふたつ買ってひとつを渡すと、雅羅は嬉しそうに綿菓子を受け取る。
「ありがとう。まだ、温かいわね」
 外に提げられているのとは違い、作りたてのは温かい。ふわふわしたそれに、彼女は直接口をつけた。
(か、かわいい……!)
 見事に作戦成功である。あまりの可愛さに、しばし大助は動きを止めた。しかし、ここは人の多い屋台通り。いつまでも見惚れているわけにもいかない。雅羅は、ただでさえ災難体質なのだ。
「はぐれないように」
 大助は、雅羅の綿菓子を持っていない方の手を、優しく握る。
「え?」と、びっくりしたような目が向けられる。その彼女に笑いかけ、彼は言った。
「人が多いね……手を離したらだめだよ?」

              ◇◇◇◇◇◇

「エリザベートちゃん、これでどうですか〜?」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は、ツァンダの呉服屋でエリザベートと待ち合わせた。顔を合わせた時、エリザベートは既に浴衣姿で。だが、店内に入ると沢山ある浴衣に他のも着てみたくなったらしい。「これも着たいですぅ〜」と水色の浴衣を指したので着せてあげることにする。
 先に準備を終えていた明日香は、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)と2人、隣同士で鏡の前に立ってもらって着付けをする。エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)は、選んだ浴衣を自分で着付けていた。ノルニル達の方に集中していた為、よくは見ていなかったがスムーズに進んでいるようだ。
「かわいいですぅ、髪型も可愛いですぅ〜」
「浴衣なので、アップにしてみましたよ〜」
 たくさんある髪をアップにするのは少し大変だったけれど、完成してみると、思ったとおりそれはとても可愛かった。普段見られないうなじも、何だか新鮮だ。
「ちゃんと着れましたの」
「エイムちゃんは自分で着れたんですね〜」
 エイムの声が聞こえ、へー、と意外に思いながら彼女の浴衣姿もチェックする。よれ気味だった襟元や帯を手直しして、もう一度全体を見てみる。……何かおかしい。
「…………?」
 でも、どこがおかしいかはわからなかった。気のせいかしら、と首を傾げる。気のせいではなく、エイムは下着をつけていなかったのだが看破出来ない。
 いつの間にか、呉服屋の外は暗くなっていた。店にいる間に夜になったらしい。外に出ようか、と硝子戸に近付くと、そこで、大粒の雨が降ってきた。
「あれ、雨ですね〜。止んでから行きましょう〜」
 明日香は朝の天気予報を思い出した。確か、通り雨と言っていた筈だ。