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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

リアクション

 敬愛するあの方のために、もっと役に立てる自分になりたい──。

 過去の体験から、そう願い続けてきた董 蓮華(ただす・れんげ)は、音楽祭も露天風呂もその他の娯楽も脇へ置き、スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)の指導を受けていた。
 スティンガーはストップウォッチを片手に、足元で狙撃銃を組み立てる蓮華を厳しい表情で見下ろしている。
 蓮華の作業が終わる前に、スティンガーはストップウォッチを止めた。
「遅い! 次の手順に移る前にいちいち考えるな! 目を閉じてても分解や組み立てができるよう、構造を熟知しろと言っただろう」
「こんな……」
 狙撃銃の脇にはサブマシンガンやハンドガンもある。
 こんなに何種類もいっぺんに覚えられるか。
 そう言いかけて、蓮華は口をつぐんだ。
 指導してくれと頼んだのは自分だ。文句を言える立場ではない。
「もう一度お願いします!」
 うまくいかない悔しさを、蓮華は再挑戦への気持ちに切り替えた。
 何度か繰り返し、スティンガーが定めた目標時間に組み立てを成功させると、今度は模擬戦に入った。
 教導団の訓練施設にある市街地を模した場所で、蓮華はハンドガンを手に建物の陰に飛び込み身を隠した。
 どこかでスティンガーも同じようにしているはずだ。
「……っつぅ。模擬弾って言っても、当たると痛いよ」
 蓮華は顔をしかめて腿のあたりをさすった。
 この場所に滑り込む前、移動している時に被弾したのだ。
「スティンガー、どこにいるのかわかんないし。私ばっかり居場所がバレてる気がする……ううん、バレてる。何で?」
 対戦相手のスティンガーは蓮華のパートナーだ。
 だからバレたとは考えにくい。
「私が、まだまだ未熟ってことだよね……」
 落ち込みそうになる気持ちを、蓮華は頬を叩いて食い止める。
「考えろ。どうやったらスティンガーに一矢報いることができる?」
 蓮華は、スティンガーならどう動くかを考えた。
 そしてわかったのは。
「ここもすぐに狙われる」
 蓮華は素早く周囲を見回し、移動を開始した。
 直後、今までいた場所に模擬弾が撃ち込まれた。
 駈け出す蓮華を何発かの模擬弾がかすめる。
「鬼だ、鬼がいる……!」
「ほい、死亡」
 角を曲がったところにいたのは、その鬼だった。
 冷たい銃口が額に当たった。

「心を平静に保って全体を見ろと、始める前に言っただろ」
「……」
 休憩中もスティンガーは次から次へと注意点を挙げていく。
 反論の余地などなく、蓮華はうなだれたまま聞くしかない。
 その姿を見て、スティンガーはひっそりため息をつく。
「お前は何のために今日、この訓練をすると言ったんだ?」
 静かに問われた言葉に、蓮華はハッとした。
 かつての記憶がよみがえる。
 金鋭鋒指揮の作戦で家族と共に命を救われたこと。
 その恩返しをしたくてシャンバラ教導団に入ったこと。
 そこで金鋭鋒を知るうちに、恩人であるという気持ちに変化が起きていった。
「私は、いつかきっと……」
 蓮華は足元を向いていた顔を上げた。
「休憩は終わりよ。もう一度、お願いします!」
 スティンガーはあたたかい笑みで頷いた。
(俺も、うかうかしてると抜かされるな)
 将来有望な教え子に、そんなことを思いながら。