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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭!

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 食堂は、教室の半分がステージ、半分が客席になっている。
 ショーが始まるのを待ちながら、鳥丘 ヨル(とりおか・よる)がメニューを広げてううーんと唸る。
 日本式のカレーから英国っぽいカレー、伝統的な食事から現代的な食事まで。フランセットの要望に応えて主計長のウィルフレードが用意した様々なメニューの名前が並んでいる。名前からは想像できないような料理もあって、ヨルの興味をそそった。
「百合園が日本と縁があると言っても、海軍カレーを食べれるとは思わなかったよ」
 彼女の向かいで黒崎 天音(くろさき・あまね)も、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が拡げたメニューを軽く眺めながら、
「そうだね、意外だったよ。僕もカレーにしようかな」
「フランセットの船には、プライマリー・シーへ行くのに乗ったけど、ふだんの食事までは触れる時間はなかったもんね。この機会にじっくり味わって……ううん、勉強しておくんだ」
 ヨルは、やる気だ。
「ね、せっかくだからカレーの他にもいろいろ注文して、皆で分け合わない? カレーも三種類くらい頼んで。その方が色々味わえるもんね。あと、フランセットの好きなメニューは……」
 さっき聞いておいたフランセットの好物も、その中には載っていた。
 ウェイターを呼び止めて手早く注文すると、彼女は天音を振り返った。
「えーと、天音は辛口?」
「僕はちょっと辛いくらいが好きだね」
「そっか、じゃあ海軍カレーのセット辛口とね、昔の食事のセットとね、あと魚介のスープと、エビの網焼きと……」
 天音はヨルが頼んでいる姿を微笑みながら見守る。今日は奢るつもりでいるし、どれだけ頼んでもお財布的には大丈夫なのだが……、
「結構沢山頼んだけど、全部食べられるのかい?」
 自分たちもお手伝いするとして、女の子には多い量な気がした。
「うん、朝ごはん食べてないから、すっごくお腹すいてるんだ」
 元気良く答えるヨルをほほえましく思いながら、天音は運ばれてきたレモン入りのお冷に口をつけ、丁度始まったミニショーに拍手を送った。
 内容は古典的な海賊モノで、港と海を荒し回る海賊たちが海軍に追いかけられたり、港の女生徒ロマンスに落ちたり、酒盛りをしたりといった愉快な一日を描いたものだ。普段取り締まる方の海軍の軍人が演じるのにふさわしくないという向きもあろうが、これも敵を知れば百戦危うからずだとか何とか、入口で配っていた解説カードに書いてあったような気がする。
 見知った顔──海兵隊のセバスティアーノが湾曲した刃のカットラスを振り上げて、善良な市民役の船医の青年から歌いながら略奪をしているのを見ながら、ヨルと天音たちは食事が来るのを待った。
「天音の家もけっこうな資産家だけど、家ではカレーを食べた?」
「普通にカレーは食べてたね。子供が好きなメニューだし。でも、子供の頃はキーマカレーみたいな野菜が小さく刻んであって、ひき肉が入ったカレーが好きだったな」
「ボクの家とは反対だね。うちは具がゴロゴロと大きかったよ。今はどう? 自分で作る? それともレトルト?」
「僕は料理は殆どしないから、ブルーズに作って貰ってるよ」
 そういえばブルーズは天音のおさんどんをしているのだった、とヨルは思い出す。
 ブルーズは神妙に頷くと、得々と語り始めた。
「一番最近作ってみたのは、牛筋肉のカレーだな。筋肉がトロトロになるまで煮込むのだが、臭みが出ないように白ワイン、ローリエ、云々……」
「へぇ、ブルーズ凄い物知りなんだね」
 ヨルが感心したように頷いた時のことだ。
 ショーの舞台から一人の若い海賊役の青年が夜を見付けて目くばせをした。それが、海賊に浚われる役を探しているのだろうと気づいたヨルは、手を伸ばした彼の手をさりげなくつかむと、くるくると引きずられるように回りながら、舞台の中央に躍り出た。
「さあ、こいつは貰っていくぞ!」
「ボク……じゃなくて、私をさらっても誰も身代金なんて出ないんだからねっ」
 ヨルがお嬢様らしく叫ぶと、舞台脇から声が上がる。「さあ、この乙女の命を救い出す勇気ある男はいないか!」
 その声に応えて舞台に上がる天音は、有象無象の海賊役から細身のサーベルを取り上げて優雅に舞台に上がった。ヨルを書か手に抱えた海賊役が剣を向けた。
「身ぐるみはいでやる!」
「逆に海賊クンの身ぐるみはいじゃうよ、天音が!」
 ヨルのそんな言葉に、天音は彼の全身を見回すと、ちょっと笑ってから妖しく微笑み、
「ああ、それも良いかもね。君、悪くないよ」
 瞬間、彼がちょっと本気で怯えたような気もするが──天音は微笑んだまま、姫を助けるために剣戟を繰り広げた。

 ショーが終わって席に戻ると、ほかほかの料理が運ばれてきたばかりだった。
 牛肉や魚介類のカレー。魚介のスープ。クラシックな(そして特別美味ではない)メニューとしてはビスケット、オートミールとチーズ、塩漬けの豚肉とえんどう豆。ライムジュース。最近のものでは新鮮な卵料理やサラダ、特製シチューの他、携帯用のビスケットにジャム各種、チョコレートやインスタントのカプチーノ、何故かワインまであった。
 それから、フランセットの好きだという大海老の網焼きやパラミタサザエの壺焼き、などなど。
「あ、これおいしいよ。天音も食べてみて」
 写真を撮り、メールアナスタシアを送り終えて、やっと食べ始めた彼女に、天音はメールをちょっと笑った。
「彼女にメール? 仲が良いんだね」
「副会長だからねー。あ、天音、カレーの湯気でメガネがくもってるけど大丈夫?」
「おや……困ったな。ヨルが拭いてくれる?」
 ……いちゃつくようにも見えたのが、気になったのか。朗らかな天音からブルーズは無言で眼鏡を取り上げ、フキフキしてまた顔に戻せば、ヨルはブルーズの姿に「お母さんみたい」と微笑んだ。
 天音は首を傾げて、
「ブルーズ、機嫌悪いの?」
「……そんなことはない。ただ今日は節操がないように感じないこともないが」
「そう? さ、ブルーズも食べなよ。美味しいよ?」
 そうして三人は目の前に並んだ沢山の料理を、デザートのジェラートまで、美味しくいただくのだった。