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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−10

「グラキエス様、楽しいのは分かりますが、そろそろ……」
 数多のイベントを見学し、数多の乗り物を体験し、笑顔と共に、無事に時間は過ぎ去っていった。だが、何かに夢中になると疲れを忘れることもままあるわけで、エルデネストはまだ遊ぶつもりのグラキエスに声を掛けた。ゴルガイスロアは、どちらかといえば激しい動きをするアトラクションに参加しに行っていて不在だ。ずっとつきっきりだった2人に、せっかく来たんだからとグラキエスが勧めたのだ。
「お疲れでしょうし、本日は早目に休まれた方がよろしいかと」
「? あ、もうこんな時間なのか。あっと言う間だな」
 エルデネストの言葉にきょとんとしたグラキエスは、夕闇に包まれた空を見上げてから時を思い出したように彼を振り向いた。目を合わせ、そしてその笑顔を潜ませる。
「……エルデネスト?」
 普段は見せない、彼の静かな笑みを目の当たりにして。
「……いえ、去年の事を思い出していました」
 エルデネストは、はしゃぐグラキエスの姿に1年前のクリスマス――グラキエスが忘れてしまったクリスマスの出来事を想起していた。人工雪の中で無邪気に遊ぶグラキエス。雪よりも自分を見て欲しいと思ったその感情。支配欲とは似て非なる、彼の全てを自らのものにしたい、と苛立ちと共に湧き上がってきた気持ち。
 噛み合わない会話の後の『行為』――
「ああ、そんな顔をなさらずに」
 無意識に浮かべていた笑みを元に戻し、寂しげな――まるで、置いていかれた子犬のような表情をしているグラキエスに、瑣末なことだという口調で彼は言う。しかし、グラキエスの心許なさは、その言葉では埋まらなかった。
 余裕の笑みが常のエルデネストが知らない顔を垣間見せる思い出を、自分は覚えていない申し訳なさ。そしてその思い出を共有出来ない、寂しさ。
 精神的に未発達なグラキエスは、恋愛感情も育っているとは言い難い。だが、悪魔である彼との契約に纏わる行為や新たな経験の中で、自分がエルデネストに“特別扱い”されているということは何となく自覚していた。
 ――以前の俺は、もっと特別だったのではないだろうか?
 そんな不安と無自覚な嫉妬が、彼の口を開かせる。
「……エルデネスト、去年の俺は、あなたとどんな風に過ごしたんだ。……同じ事をしたい。……あなたと、以前のように」
 その頼みにエルデネストは驚き、彼に視線を据えたまま眉を顰めた。
「……同じ事をしろと?」
 それは決して、グラキエスにとっての快楽ではなかった筈だ。だが――
 彼の目を見て、エルデネストは察した。
 覚えていないから言える、というだけではない。グラキエスは自分に対して無防備で、無意識にゴルガイス達とは違う関係を求めている。
「……分かりました」
 気付いた途端に止まらなくなった。他愛なく誘われ掻き立てられる自分の心に、苦笑する。
 ――悪魔的に玩ぶのが本来の私だというのに――
 そう思いながら、エルデネストはグラキエスの首に手を伸ばした。

              ◇◇◇◇◇◇

「ふぅ……正直助かったぜ、先輩……」
「何を言っているのか解りませんが……私は、人手が欲しかっただけです」
「……またまた……素直じゃねぇなあアクア先輩は……」
 ナイトパレードが行われる予定のコースの脇、敷いたシートの上に横になったカリンは言う。
(……いえ、本当に人手も欲しかったのですが……)
 その彼女を見下ろしながら、アクアは思う。十人超の人数がひとところに集まるだけの場所を確保しようとするには相応のスペースが必要だが、慣れない所為もあるが遊園地内で大きなシートを広げて数人で数時間、というのは落ち着かないものがある。だから、乗り物酔いが極まって休みたがっていたカリンは必要な人手でもあったのだ。
『そうだわ、そろそろパレードの準備をしなきゃ!!』
 そんな事を言いながらファーシーがパンフレットを出したのはこの十数分前、レンとノア、イディアと合流して幾つかの絶叫マシーンに乗った後――まだ、昼の色が濃い時間帯だった。準備、という言葉に『パレードに出る気では』と思ったアクアだったが、そういうことではなく。
『パレードを見る為の準備よ! 何でもね、始まる数時間前には場所取りをしておかないと、ちゃんと見ることが出来ないらしいの。中には、朝から座ってる人もいるみたいよ』
 と、いうことらしい。どれだけ下調べをしてきたのか。当然のように皆で場所を探してパレードを見ようとするファーシーに、自分が見繕って知らせるから遊んでくるように言い渡して場所取り要員として死体寸前のカリンを引っこ抜いた。加えて――
『こんな近くで赤ちゃん見たの初めてだわ。かわいい……かも』
『……だあ、だ』
 途中合流したリーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)とご対面したイディアが彼女に抱かれたがり、レンから子守を引き継いだリーズと紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)も一緒に居る。ちなみに、リーズに抱き手を変える時にスムーズに進んだかといえばそうではなく、慌てる彼女を唯斗が手伝ったという一幕がある。
『あー、これはこうなって……、よしよし、もうちょっとだから大人しくなー』
『……何でそんな普通に対応できるの……』
 納得がいかないような顔をしつつ無事にリーズはイディアを抱き終え、彼女と唯斗達、アクアとカリンはファーシー達と別れてこうして今は落ち着いている。
 場所取りの必要性が事前情報として流れているだけあって、同じようにしている人々も多く実際はそう居心地も悪くなかった。
「何気に、こうしてアクアと話すのは初めてだな」
「……そうですね、初めてです」
 記憶を思い返してみて、アクアは答える。アルカディアの最奥では顔を見たが、ただそれだけだ。ファーシーとも、深い交流はなかったように思う。
「そういえば、モーナから話を聞いたと言っていましたね」
「ああ、今日また軽い依頼を受けてな。その時に、アクアが子守をする事になるかもしれないって聞いたのさ」
 ――『あんな事言ってたけど、大丈夫なのかな。そうだ唯斗君、ちょっと様子見てきてくれる? 今日の分、割増しとくから』
 そう言われて、デスティニーランドを訪れた。そして、聞いておいたアクアの連絡先に電話を掛け、合流に至っている。
「だから、最初から子守をする気でここに来たんだ」
 まあ、モーナの気まぐれに付き合ったということだ。ちょうど、夜にはパートナー達とホテルで過ごす予定であったし、唯斗としても不都合は無かった。
「ホテル……ですか? 4人で?」
「そう、クリスマスに4人で。夜にやることといったら……ひとつだよな」
「ひとつって……。……!!!」
 悪戯心から匂わせてみたら、正しく想像したのかアクアは顔を紅潮させた。イディアを抱き、肩が凝りそうな程の緊張を見せるリーズとエクス、プラチナムを見遣る。抱かれていたイディアはうとうとと眠っていたのだが、背後でラッパのような音がしてびくっと目を覚ました。誰かが土産物のおもちゃでも吹いたのだろうが――
「う、う〜……うーー……」
「え! え! えええっ!?」
 見る間に目に涙を溜めていくイディアに、リーズは思いきり狼狽えた。きょろきょろと、唯斗達の顔を見て助けを求める。
「え、ええと! どうすれば良いの!?」
 そんなことを言われても、アクアにも対処の仕方が分からない。咄嗟に手を出せないでいると、エクスがスリングの中からイディアを抱き上げた。見守るプラチナムや彼女達の前で、高い高いをしてみせる。
「愛い奴よの、ほれほれ」
「……子供慣れしているようですね」
 テンション高めに、笑顔であやすエクスを見てアクアも平常心を取り戻す。
 時刻を確認するとパレードの始まりまであと数十分だった。そろそろ、ファーシー達もこちらに来るだろう。