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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−13

 その頃、むきプリ君にお仕置きしてアトラクションをいくつかまわったエリスアイリは、展望レストランに入っていた。灯りを点したディスティニーランド全体が夜闇の中で際立ち、彼女達の眼下で眩い煌きを放っている。
「品数が多いですね。どれにしましょう」
 真剣な顔でメニューを見るアイリに、エリスは気軽な調子で言う。
「そんなに悩まなくても、今年1年、アイリも正義の魔法少女として頑張ってきたんだし、先輩として今日ぐらい奢るわよ☆」
「そうですか? じゃあ……」
 アイリは考えた末、クリスマスの特別メニューを頼むことにした。

              ◇◇◇◇◇◇

「メリークリスマス……乾杯」
「乾杯。メリークリスマス、刀真」
 静かな雰囲気のレストラン、食事を楽しむ者の多くが2人連れで、特別な気持ちを交わしながら聖夜の時を過ごしている。その中で、刀真月夜は向かい合ってワインの揺れるグラスを合わせた。硝子と硝子が、軽く澄んだ音を立てる。一口飲むと、程よく入ったアルコールが外の寒さを残す体を芯の方から温めてくれた。赤ワイン独特の渋みは、オーダーした料理を味わうのにちょうど良い後味を残してくれる。
「月夜」
 底に少し中身を残した状態でグラスを置いて食器を手に取ろうとしたその時、刀真は月夜に声を掛けた。プレゼント用の包装が成された小さな箱を彼女に差し出す。
「いつもありがとう」
「えっ、プレゼント?」
 感謝を微笑みに乗せて渡すと、受け取った月夜はほんのりと頬を染めて中身を確かめる。そして、入っていたネックレスを見て彼女は少し目を瞠った。
「……あ、これって……」
「前に、欲しいって言ってただろう?」
 パートナー達と3人で話をしていたのを聞いたのを記憶していて、それで買ったものだった。値札の前では口元が引きつるくらいに滅茶苦茶高かったが――
「ありがとう刀真。大切にするね」
 嬉しそうな月夜の笑顔を見ると、財布から羽根を生やして消えていった皆様のことなど気にはならない。そのかいはあったな、と、自然に笑みが漏れる。
「ああ。じゃあ、食事にしようか」
 そしてそれは、食事を始めてからの月夜の様子でもよく分かった。いつも通りにしようと努めているようだったが、彼女からは浮き浮きとした空気が目に見えるようだ。
(……しかし、ワインを飲み過ぎじゃないか?)
 明るく、普段よりも饒舌に話をしながら、月夜は矢継ぎ早にグラスを空けていく。ちょっと危ないな、という気がしないでもない。
(刀真が、私にプレゼントをくれた……。それに、ちゃんと、覚えててくれたんだ)
 月夜の心に、幸せな気持ちが広がっていく。
 デートだけでもプレゼントだと喜んでいたのに、このネックレスは思いもかけない贈り物で、嬉しくて恥ずかしい。それを誤魔化そうとして、ついついワインを飲むペースが上がってしまう。
 周りの風景や刀真の顔が、何となく揺らめいている気がするけど――

「案の定、酔いつぶれたな」
 ちらちらと雪が降る夜空の下、ふらふらになった月夜は刀真に肩を貸してもらいながら帰途についていた。
「えへへ〜、とうま〜」
 ふわふわの雲の中にいるようなそんな夢心地の中で、彼女は刀真に思いっきり抱きついた。自分の胸が刀真に当たるように。ちゃんと、その感触が伝わるように。
(とうまは大きい胸が好きだっていってたけど、こうすればだいじょうぶ〜)
 陽気な笑顔で、でも一生懸命に、彼女は小さな胸を押し付ける。刀真が驚き、半ば硬直した顔で見下ろしてきているのが、気配で分かった。
(……なんだ、このいじらしい生き物は)
 柔らかな感触を、腕に感じる。しかしその感触よりも、刀真は、彼女の行動自体にこみ上げてくる何かを感じた。何を考える間もなく、体が動く。
「…………」
 気がついた時には、強い力で月夜を抱き返していて。
「や〜、とうまいたいよ……へへっ」
 やだという言葉とは裏腹に、腕の中で甘えたように彼女は笑う。それは、刀真が色々としたくなる心境になるには、充分すぎるほどの笑顔だった。
(……ああ、これは来年、自分を抑えるのは無理だな)
 何かを悟るというより、本能に近いその気持ちを自覚と共に受け入れながら、彼はパートナー達の待つ家へと歩いていった。

              ◇◇◇◇◇◇

 夜になり、デスティニーランドではクリスマス特別ナイトパレードが始まっていた。
「すごい綺麗だねー。魔姫ちゃんの言ってた通りだよ」
 パレードを見ながら、瀬蓮はうわあ、と感動の声を上げる。パレードだけではない。彼女達の後方にある店やアトラクションにも多くの電飾が灯り、夜の遊園地を明るく、そして煌びやかに照らし出している。
『クリスマス雰囲気の遊園地も綺麗だし、悪くないんじゃない?』
 今日瀬蓮がここに来たのは、魔姫のこの誘いがきっかけだったから。お礼を言おうと思って振り返る。その彼女に、魔姫は手に持っていた紙袋を差し出してきた。
「プレゼントよ、クリスマスの。瀬蓮にも似合うんじゃないかしら」
「わぁ……」
 中には、淡いピンクのニット帽が入っていた。ファーが付いていて、可愛らしい。
「クリスマスだからって何となく誘ってみたけど、今日1日楽しく過ごせたのは瀬蓮のおかげだから……ありがとう」
「魔姫ちゃん……」
 思いもかけなかったお礼の言葉に、瀬蓮は驚く。
「それは瀬蓮の台詞だよ……。今日、誘ってくれてありがとう。被ってみていい?」
 頷かれ、早速被ってみると毛糸の温かさが頭部をふわりと包んだ。なんとなく、この温もりには魔姫の気持ちが入っているような気がした。
「暖かいよ。大切にするね」
 嬉しくなって笑いかけると、魔姫は「どういたしまして」と少し照れた顔をしてそっぽを向く。瀬蓮の笑顔に中てられたせいだろうか。思っていたよりも何故か恥ずかしくて、彼女は顔が熱くなるのを自覚した。

              ◇◇◇◇◇◇

「はい、差し入れ」
「ありがとう、リネン」
 デスティニーランドらしい軽快さが加えられたクリスマスの定番曲が、光の行進と共に流れてくる。再びフリューネと2人きりになり、リネンはパレードを見ていた彼女に湯気立つココアを差し出した。アムリアナ・プロムナードに寄ろうと話していた帰りがけにパレードが始まり、もう少しだけ居ようかと彼女達は遊園地に留まっていた。
 夜に映える色とりどりの光が、華やかなパフォーマンスと共に流れて行く。それを観ながら、リネンは空を軽く見上げる。白い雲に覆われて地上の光に照らされ、星1つ見えぬ夜闇は灰を帯びた群青色に染まっていた。
「今年も色々あったよね。来年はどこまで飛べるのかな……私たち?」
 ココアの甘さと温かさに安らぎを感じながら、静かな声でリネンは言う。
「……ねえフリューネ、来年も、再来年も……ずっと、フリューネと一緒に飛んでいい?」
 まだ見ぬ未来に思いを馳せる。
 今は大変な時期だし、どちらがいつ倒れるかわからないけれど……どこまでも一緒に、願わくば永遠に、彼女と飛び続ける風でいたい。
 この想いを込めた言葉には告白の意味もあって――
 フリューネはそれを聞くと、一瞬「?」という顔をしてから笑顔になった。
「もちろんよ。私はこれからも、リネンと一緒にいろんな場所へ行きたいと思ってるわ。どこに行くにしたって、その方が心強いもの」
「フリューネ……」
「1人が嫌なわけじゃないけど、誰かと一緒っていうのも楽しいものね」
 そう言って、フリューネはリネン同様に曇天ともいえる夜空を見上げた。雲の奥にある、無限に広がる空を想像するように。その瞳には一片の不安もなく、未来に対してどこまでも純粋で、けれど――
 それだけに、フリューネの頭の中は空でいっぱいで、彼女の答えがイコール告白の答えになるのかといえば。
(多分、違うのよね……)
 実のところ、“告白”に気付いているのかも怪しかった。