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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−5

「ふむ、賑わっておるのう」
 ゆっくりと、安穏とした空気を身に纏わせ、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)はデスティニーランドの雰囲気に目を細めた。こうして人が集まり、一体となり、浮世を忘れて遊戯を楽しむ。1年に何日かあるそんな1日として、クリスマスというのは悪くはない。すぐ隣を行く風森 望(かぜもり・のぞみ)もまたいつもの何倍かにテンションを上げ、漲る気力が目に見えるようだ。
「ええ、とても楽しそうですね!」
 最高潮の舞い上がりを見せる望は、「いやっほぅ!」と、心の中で喝采を上げていた。
 ――クリスマス・イブにアーデルハイト様とデートですよ、デート! 珍しい事にノートお嬢様がお膳立てしてくれましたよぅっ!
『望、24日に大ババ様と遊園地に行けますわよ。約束を取り付けてきましたわ』
 ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)からデート取次ぎの報告を聞いてから数日、もう、空でも飛びそうな勢いである。
(お主が一番楽しそうじゃがな……)
(何も知らずに、デートを満喫するつもりですわね……)
 わくわくしていられるのも今のうちと知っているアーデルハイトとノートは、皆無とはいえない悪戯心と共に冷静にそんな事を思っていたりするのだが。
「何に乗りましょうかね? ジェットコースター? メリーゴーランド? 観覧車? 絶叫系もメルヘンなのも色々とありますからね! 全部楽しんでいきま……あら? お嬢様、まだいたんですか?」
 望は視界に映ったノートに、恩の欠片も感じていなさそうな冷めた目を向けた。ほぼ確信犯的な表情である。
「ここからは私とアーデルハイト様の二人で楽しむんですから、もう帰って……。……? あ、あの」
 突然自由を奪われて人々が後ろに流れていく中、望は目をぱちくりとさせて自分を引っ張るノートに問いかける。金剛力でも使っているのか抗おうにも抗えず、アーデルハイトも、何故か止めることなく飄々としている。
 何か嫌な予感がして、何となく、血の気が引いた。
「何で首根っこ掴んでるんでしょうか……。た、たしかそっちにあるのは……お化け屋敷じゃ……」

              ◇◇◇◇◇◇

「24日だけあって、遊園地は人が多いな」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と2人、樹月 刀真(きづき・とうま)はデスティニーランドを歩いていた。仄白い空の下、遊びに訪れた人々は皆誰かと連れ立っていて、カップルらしき2人組の姿も多く見られる。
「みんな幸せそうだね。私達もあんな風に見えてるのかな」
 明るい、どこか弾むような声で月夜が言う。余計な力が抜けた様子の彼女は、パートナー達と賑やかに過ごしている時とはまた違う、純粋な女の子としての表情をしている。
 デートをしよう、と刀真から誘い、その時から、デスティニーランドに到着する前から、月夜はずっと嬉しそうにしていた。刀真の剣として、当たり前のように彼女はいつも傍に居た。それで2人きりになる事は多かったけれど、こうして、1人の女性としての彼女と2人きりになるのは久しぶりだ。パートナーの増えた最近は、皆で一緒というのが基本だったから。
 月夜も家族が増えたと喜んでいたから気にしなかったけれど、こうやって喜んでいる姿を見ると、プライベートで2人きりの時間が減っていた事には気を遣うべきだった。
 ――反省は直ぐに生かして、今日は月夜が楽しめるように頑張ろう。
(……あ)
 腕先にささやかな重みを感じて、視線を下げる。ちょこん、と、月夜がコートの袖口をつまんでいた。目を戻すと、少しだけ恥ずかしそうで。
「……はぐれないように、ね」
 そう言う彼女の笑顔を何かとても可愛く感じて、刀真はその手を掴みなおした。月夜は一瞬、驚いて目を瞠って、彼が微笑みを向けると伝わったのか、嬉しそうにこくんと頷く。
 そう、決して離れないように。
 そしてふとした時、彼女の笑顔に触れて心が何かに包まれる時、彼女といると、自分が何より自然体でいられることに気付く。
 契約者だとか立場だとかそういったことを忘れて。
 ただ、1人の人間として。
(刀真……)
 繋いでいるうちに掌が徐々に温かくなってきて、月夜は彼の横顔をそっと見る。自分が彼のどちら側を歩いているのか、意識する。
 いつもは危険な事に対応出来るように利腕は空けておくのに、あたりまえにその手を繋いでくれる。
 ――私が刀真の特別って、そう感じられる時のひとつ。
「ね、刀真、お化け屋敷に入らない? 何かね、すごく面白いんだって」
「お化け屋敷か。そうだな、行ってみよう」
 しっかりと手を繋ぎ、刀真達はエリアを移動していく。はしゃぐ月夜は本当に、本当に本当に嬉しそうで。
 もし問題があるとすれば、デスティニーランドは真実、人が溢れていて――穏やかな気持ちの中でただ1つ、刀真は“大きな胸の女性に目を奪われないように気をつけよう”、とだけは、肝に命じていた。

              ⇔

「あれ? ノアさんは?」
 お化け屋敷を前にして、ファーシーはきょろきょろと周りに首を巡らす。一緒に居た筈のノアの姿が、どこにもない。レンもイディアから目を離さぬまま、移動を始めてからの事を振り返る。
「そういえば、途中から声が聞こえなくなっていたな」
「……人がたくさんいたから気付かなかったのかな?」
 先程まで一緒だったような気がするのに、どこへ行ったのだろうか。
「――ファーシーちゃん、ノアちゃんが来てからお化け屋敷に来るって言ったっけ。もしかして、他のアトラクションに行っちゃったんじゃないかな?」
「えっ、そ、そうかな? でも、そういえば……」
 ピノの言葉に記憶を巻き戻してみて、確かにそうだった、とファーシーははた、とする。『あっ、あれなんか面白そうですよっ!!』というのが最後に聞いた声だったような。
「では、私が……」
「ノアは方向音痴だからな。待っている間、俺がその辺りを探してみよう。ファーシー達は皆で楽しんでくるといい」
『私が……』の後にアクアが『探してきましょうか』と言う隙もなくレンは自然に提案する。ファーシーも「そう? それならよろしくね!」と笑顔で頷き、アクアはもう何も言えなくなった。セラやマリオン、シーラはチャンスを失い無言で固まるアクアに注目する。シーラはそれから、カメラを向ける方向を変えてにこやかに、こっそりと言った。
「ラスさんと諒ちゃんは良かったんですか〜? 今、何も言いませんでしたけど〜」
「……いや、もうしょうがないだろ」
「ピノちゃんが楽しみにしてるから……」
「くまさんどこいくんー? うちとあそんでーな!」
 離れていくレンを、バシュモが追いかけていく。その様子と、笑顔全開のピノを見比べて2人は言った。この短時間の間に、少し仲良くなったかもしれない。

「道に迷いました……」
 その頃、ノアはお化け屋敷から遠く離れた場所で1人途方に暮れていた。皆と一緒にいた時の元気さはどこへやら、通りがかりのワゴンで買ったポップコーンを食べながらとぼとぼと歩く。
「遊園地は人が多すぎです。こんな場所に1人で飛び出してしまって、もう皆さんと再会出来る自信がないですよ……」
 彼女は、自分が極度の方向音痴であることを自覚している。まあ、レンと契約した直後に道に迷った際、再会までに5年の月日を要しているのだから無自覚でいられる訳もない。
「また再会するのは、5年後でしょうか……」
 携帯も無く、連絡して迎えに来てもらうことも叶わない。今、確実に出来ることはポップコーンを消費していくことだけだ。
 次には何を食べようか。そんな事を考えながら園内を見回し――
「あ、あそこに居るのはフリューネさん!? た、助かりました〜」

「あまり人は並んでなかったけど、面白かったわね」
「うん、そうね……楽しかった」
 フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)は、リネン・エルフト(りねん・えるふと)と2人で乗ったばかりのアトラクションについて話をしていた。小型宇宙船を模した空高い位置で旋回する乗り物は、いつも空を駆っている彼女達にとっても悪くはないものだった。というのも、この宇宙船は操作によっては正常位置から反転させることも可能で、空から宙吊りになったような状態で空を眼下に、地面を仰ぎ見ることも出来る。
 ペガサスや飛空艇で空を下に見ることは早々無いしあっても困る事態なわけで、あまり体験しない浮遊感覚を、2人は楽しんだようだった。
『助けた人にもらったチケットが中途半端にあって……よかったら、一緒に行かない?』
 普段は、遊園地にあまり縁もないリネンだったが、ひょんなことからチケットを手に入れてフリューネを誘うことにした。
『枚数的に空賊団全員だと足りないし……けど、貰ったものを無駄にするのも……』
 そう続けていたら、『良いわよ、行きましょう』とフリューネは快諾してくれて、そして今、2人は一緒にいる。
 遊園地で遊ぶことそのものが楽しく、適当に歩き、空いているアトラクションがあったら入ってみるという感じで、彼女達はマイペースに時を過ごしていた。
「……ね、フリューネ、デスティニーランドのジンクス、知ってる? カップルがデートすると別れるって……」
「ジンクス?」
 悪戯っぽい口調で、リネンが言う。観光スポットにありがちな都市伝説だから実際にどうかというのはさておいて、話を聞いたフリューネが今どんな反応をするのかが、ちょっと気になる。
「それは初耳だけど……うーん、まあ、ジンクスで別れたら、またくっつけばいい話よね」
「え、ヨリを戻すってこと?」
「ジンクスが本当に影響してるならって話よ」
 こちらも悪戯っぽく、フリューネは軽くウィンクした。ノアが2人に駆け寄ってきたのはその時で。
「フリューネさん! レンさんとはぐれてしまいました〜っ、助けてくださいっっ!」
 目を「><」状態にして突撃してきた彼女にリネンとフリューネは目を丸くし――
「このままじゃ、あと何年経ったら会うことができるのか……」
 とりあえず話を聞いたら、ノアはそんなとんでもないことを涙ながらに2人に語った。とんでもないことだが本人にとっては大本気で、冗談を言っているようにも見えなかった。
「ま、待って。とりあえず落ち着きましょう。レンはまだ、この遊園地に居るのよね?」
「はい〜。まだ帰ってないと思います……、多分」
「ど、どうする……? フリューネ」
 返ってきた、少しばかり曖昧な答えにリネンは困り、フリューネと顔を見合わせる。何にせよ、迷っているノアを放っておくことはできない。
「そうね……。こう広いとどこを探せばいいのか分からないし、遊園地で遊びながら探してみましょう。会えなかったら、私がギルドまで送っていくわ」
「わ〜! ありがとうございます! これで安心ですっ!」
 2人の話を聞いて、ノアは笑顔を取り戻した。
「つまり、3人でアトラクションを回るってことですね! 私、乗ってみたいものがいっぱいあるんですっっ!」