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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』
サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』 サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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【2022年12月24日 09:30AM】

 三月のパートナーが、秘宝に絡んでいる疑いが出てきた。
 その人物は今、ホテルの客室に居る筈である。
 フレデリカは簀巻き組での調査を切り上げ、再びヴァイシャリー・グランド・イン内へと足を運んだ。
 実のところ、彼女は出来るだけ早く女湯へ向かいたかったのだが、それぞれの客室に宿泊している他のパーティー出席客が早々にホテルを引き払ってしまうのを恐れた為、先にこちらを済ませようと考えたのである。
 しかし、いちいち各宿泊室を個別に廻っていたのでは、時間がかかり過ぎる。
 そこでフレデリカは正子に頼み込み、その顔の広さと校長としての権限を駆使して貰い、各宿泊室で目を覚ましたパーティー出席者達をロビーに掻き集めた。
 その数は実に、21人にも上る。
 流石に全員から一度に聴取するのは難しいと見て、フレデリカは何人かずつのグループに分けて、聴取していく方針を固めた。
 最初にフレデリカに呼ばれたのは、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)香 ローザ(じえん・ろーざ)杜守 柚(ともり・ゆず)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)ロラ・ピソン・ルレアル(ろら・ぴそんるれある)の七名であった。
 特に、この面子の中でフレデリカが注目していたのは柚だったが、もうひとり、ロラにも多少、訊かなくてはならないことがあった。というのも、ロラは昨晩、フレデリカの手伝いをしていたひとりであったのだが、プレゼント回収の際にいつの間にか姿が見えなくなっていたという経緯があった。
 が、ロラはまともな発生能力を有しておらず、何かを必死に訴えようとしているものの、
「ん〜」
「むぅ〜」
「ひーほー」
 などと意味不明な唸り声(もしくは呻き声ともいう)を絞り出すだけで、フレデリカが理解可能な言葉などは結局ただのひと言も発せないままであった。
「まぁ……直接、欲しい情報を握ってるって訳でもなさそうだから、まぁ、良いか」
 フレデリカもロラの為に必要以上の時間を割くことは断念し、すぐに頭を切り替えて、柚への聞き取り調査に踏み切った。
「あんまり詳しくは覚えてませんけど……確か、キロスくんとパーティーでお話してたような……そんな気がします」
 柚の証言は、三月の記憶を裏付けるものではあったが、しかしフレデリカが知りたいのは、そこではない。
「それで柚さんは、キロスさんに何かプレゼントしなかった?」
「プレゼントですか? えぇ、多分、キロスくんと一緒に居たってことは、プレゼントぐらいはあげたかも知れないですけど……」
 但し、はっきりとは覚えていないのだという。
 矢張り最初に当たってみて正解だったとフレデリカは内心で拳を握り締めたが、実は柚以上に強烈なインパクトを誇る情報を持つ者が居た。
 それが、ゆかりとマリエッタであった。
 まずゆかりであるが、彼女は何故か表情が虚ろで、焦点がやや定まっていないように見える。
 どうやら、昨晩自身が色々やらかしたのを思い出して、精神的に相当追い詰められてしまっているようなのだが、決して誰も、ゆかりを責めようとしている訳ではなく、ゆかりが勝手に己をゲシュタルト崩壊へと導こうとしているだけなのだ。
 対するマリエッタは、ゆかりとは対照的に極々普通の態度を見せており、昨晩の記憶を何となく思い出してみたところで、然程に気にする素振りもない。
「マリエッタさん、ゆかりさんの様子が随分、何っていうか……変なんだけど、何かあったの?」
「んーと、よく分からないけど、カーリー昨晩色々やっちゃったかも〜って、物凄い悩んでるみたい」
 悩んでいるというか、ほとんど発狂しそうな状況なのだが、そんなゆかりを見てものほほんとしている辺り、マリエッタの神経も中々尋常ではない。
 ゆかりもマリエッタも、完全な二日酔いで頭痛が半端なく強烈なのだが、それでもフレデリカの聞き取り調査に応じられる程度の余力はあった。
 尤も、ゆかりは二日酔いどころの騒ぎではなかったというのが実情だったが。
「ところであたし、昨晩誰かに物凄く良いものを貰ったような気がするんだけど、何だったかな〜?」
「良い物?」
 何となくピンときて、フレデリカはマリエッタの言葉に素早く反応した。
 独特の嗅覚が働いたのか、今のフレデリカの目は猟犬のように鋭い。
「えっとねぇ、確か、秘宝がどうとかっていってたような気がする」
 フレデリカは、思わず息を呑んだ。
 三月の証言から、柚こそが本命だと思っていたのに、実はマリエッタも秘宝を貰っていたというのである。
 しかし今は手元にないというから、誰かの手に渡っている可能性はある。これは更なる調査が必要だ、とフレデリカは即座に判断を下した。
 アルテミスとスティンガーの両名は、キロスと一緒に居た記憶があるのだという。
「う〜ん……キロスさんに何かをいった記憶が……」
「俺も何か熱く語り合ってたような気もするんだが、何を語り合ってたんだっけ……?」
 ふたりとも、それぞれが心に思っていたことをキロスに伝えたような記憶はあるのだが、その詳細が思い出せない。
 しかしフレデリカとしては、キロスに関しては今のところ、秘宝とは関係がないと見ている。
 即ち、アルテミスとスティンガーの証言はこれ以上の情報的価値はないと判断されて然るべきであった。
 そしてこのグループ最後のひとり、ローザはというと。
「飲んだ後に風呂に入ったら、誰かに覗かれた。以上」
 潔い程にシンプルで、簡潔だった。
 本人にしてみればそれ以上でもそれ以下でもない為、他に言葉を尽くして説明するという程の内容がなかったのも事実であったが。
「でも、女湯絡みってのが、ちょっと気になるわね……」
 非リア充エターナル解放同盟と何か関わりがあったのかどうか、という点が、フレデリカの中では若干、引っかかっている模様だが、ローザはまるで気にした素振りもなかった。
 ということは、彼女が入浴していた時間帯は、まだ女湯は平穏だったということか。

 次にフレデリカが呼び集めたのは、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)アル サハラ(ある・さはら)神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)レラージュ・サルタガナス(れら・るなす)董 蓮華(ただす・れんげ)ブライアン・ロータス(ぶらいあん・ろーたす)の七名であった。
 このうち、ザカコは昨晩、フレデリカの手伝いの為に行動していた為、彼がどのような経緯でホテルの宿泊室に戻ったのかは、フレデリカもよく分かっている。
 だがよくよく話を聞いてみると、誰かを追跡していたような記憶が残っていることも分かった。
「えぇと……そうですね、誰かを追いかけていたのは間違いないんですが、それが誰なのかまでは……」
 ちなみにザカコは、誤った配られたプレゼントの回収作業に多くの時間を割いていた。
 その途中、間違って違う人物の品を回収しそうになり、その際に何かの頼まれごとを聞いたような気がするともいっている。
 色々と忙しかったようだが、果たして彼も、秘宝に絡んでいるのか、否か。
 紫翠は二日酔いで酷く疲れている様子だったが、レラージュは恐ろしい程に元気で、全身から精気がみなぎっているように見えた。
「うぅ……昨晩は何だか、酷い目にあったような……いえ、逆に凄く良いことがあったような……あぁ、駄目です、何だか色々あり過ぎて、思い出せません」
「わたくしは、多分良いことばっかりだったと思いますわ。だって、こんなに爽やかで良い目覚めを迎えられたんですもの」
 ふたりとも、結局良いことがあったのではないのかと、フレデリカは腕を組んで小首を傾げた。
 紫翠は二日酔いで頭の中がまだぐわんぐわんと廻っているが、決して不快な気分ではないということは、矢張りレラージュ同様、良いことの記憶が優っているのかも知れない。
 しかし結局のところ、紫翠もレラージュも秘宝とは直接的な関与はなさそうである。
 では次に……とフレデリカはコア・ハーティオンの巨躯を眺め上げ、思わず絶句してしまった。
「よくそんな大きな体で、ホテルに入ることが出来たね」
「それは私も不思議に思っているところだが、巨人に近しい客も受け入れるというのが、このホテルの流儀らしい。中々に天晴な心構えである」
 胸を反らすコア・ハーティオンに、フレデリカも、
「はぁ、そうですか」
 と半ば呆れるように、小さく頷き返すしかない。
「ところで、あなたは昨晩、何をしてたか覚えてる?」
「うむ。誰かにプレゼントをした……そして何者かを捕えようとした。といったところか」
 コア・ハーティオンのプレゼントを贈った旨の発言に、フレデリカは敏感に反応した。
 そんな彼女からの強烈な視線に気づいた風もなく、コア・ハーティオンは更に続けた。
「贈った相手は……恐らく、私が最も尊敬する人物のひとりだったように思う。その人物に相応しい何かを贈った気がするのだが、詳細は思い出せない」
 フレデリカは直観的に、コア・ハーティオンは秘宝とは絡んでいない、と考えた。
 プレゼントを贈った相手の人物像が、あまりにも具体的に過ぎるからである。秘宝を贈る相手とは、少し毛色が違うように思われたからである。
「まぁ……きっと貰ったひとも喜んでるんじゃないかな」
 これだけは、フレデリカの本心である。
 サンタクロースとして、プレゼントをひとに贈る気持ちというのは、相手がコア・ハーティオンであろうとなかろうと、彼女もよく理解出来る。
 秘宝云々は抜きにして、フレデリカは心から、コア・ハーティオンからプレゼントを受け取った者の喜ぶ姿を想像して、内心で少し、ほっとしたような気分になった。
「さて、このグループで残っているのは、あなた達なんだけど……」
 次にフレデリカが視線を向けたのは、蓮華、アル、ブライアンの三人。
 何故か蓮華は教導団の軍服姿だが、残るふたりは私服を身につけていた。
「何か、あったの?」
「えぇっと、まぁ、ちょっとお説教をね」
 フレデリカに問われて、蓮華はややばつが悪そうに頭を掻いたが、要するに彼女は、朝っぱらから騒がしいパートナー達の部屋に怒鳴り込み、早朝から懇々と説教していたのである。
 説教をしていた、というアリバイは正しい。
 だが、程度が若干普通ではなかったかも知れない。
「ま、まぁ良いわ……それで、あなた達は昨晩、何をしてたのかしら?」
「私は……あの紫翠さんじゃないけど、良いことと悪いことの両方があったような気がする」
 蓮華は何故か、遠い目をして明後日の方向を眺めた。
 良いことの記憶というのが、何となく胸の奥を締めつけるような感覚を伴っており、言葉に上手くいい表せなかった。
 すっかり自分の世界に籠ってしまった蓮華からは、これ以上の情報は出てきそうにもない。
 諦めて、フレデリカはアルとブライアンに顔を向ける。
「俺は多分、サンタの真似事をしてたんだと思う。コスプレが部屋に残ってたから。ただ、何ていうのかな……物凄く重要なものが、沢山に分かれて分裂したような、そんな光景を見た気がするんだよね」
 フレデリカは、ほとんど瞬間的にアルの間近に顔を寄せて、真剣そのものの表情で眼前に迫った。
「ちょっと……今の話、もう少し、聞かせてくれない?」
「え? あぁ、うん」
 曰く、アルがサンタクロースの大事な宝の複製品をばら撒いたら、本物が分裂した、というような記憶が残っているというのである。
(まさか……そういうことだったの!)
 フレデリカは、心の内で叫んだ。
 意外なところで、例の問題の真相が分かったような気がしたのである。
「僕は……その、誰かにナンパされたような……気がする、かな」
「あらそう。まぁどうでも良いわ」
 アルの証言にすっかり心を奪われてしまっているフレデリカは、ブライアンが折角勇気を振り絞って告白したにも関わらず、実に素っ気無い態度で一蹴してしまった。
 ブライアンがいじけてしまったのは、いうまでもない。
「うぅ……良いです、良いですよ、もう……」
「まぁそういじけるな。何なら、俺がまた今朝みたいに慰めてやろうか?」
 不意に、聴取を終えてくつろいでいた筈のスティンガーがのっそり顔を寄せてきて、ブライアンの横顔を覗き込んできた。
「う、うわぁ! い、良いです! 結構です!」
「おいおい、照れるなよ」
 スティンガーの笑顔を見ていると、冗談なのか本気なのか、よく分からなくなってくる。