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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』
サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』 サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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【2022年12月24日 10:25AM】

 ヴァイシャリー・グランド・インの古代ローマ風大浴場は、基本的には男湯と女湯に分かれる基本構成となっているのだが、一部だけ混浴可能なゾーンがある。
 その混浴ゾーンの休憩エリアで、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)リーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)の四人は揃って目を覚ました。
 このうち、普通に目覚めたのはエクスのみで、後の三人は何がしかの異様な状態で朝を迎えた。
「……ふぅむ、これは一体」
 唯斗は何故か、簀巻きにされていた。
 そして。
「あら? 何だろう、これ……」
「えぇっと……『プレゼント』って書いてますね、これ」
 リーズとプラチナムは、プレゼントと朱書きされた大きな襷のようなものを、己の体に巻きつけていた。
 それが一体、何を意味するのか――ほとんど瞬間的に理解したふたりは、物凄くばつの悪そうな表情で互いの顔を見つめた。
「おぬしら、昨晩は色々楽しんだようだな。唯斗に至っては簀巻きプレイか。何とも奥の深い、玄人好みな」
「……いやいやいや、それ、どう考えても違うでしょう」
 唯斗は簀巻きのまま、激しく否定した。
 どうしてここまで否定したくなるのか自分でも分からないが、ここは全力で否定した。
「違うといえば、どうして俺がここに居るんだ?」
 てっきり自分達だけしかここに居ないとばかり思い込んでいた唯斗達は、全く別の第三者がそこに居合わせていた事実に、多少ならず驚きを覚えた。
 四人が視線を向けると、何故か武装を施した柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が畳敷きの床に胡坐を掻いていた。
 更にいえば、同室には他の物の姿も見える。
 シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)フランチェスカ・ラグーザ(ふらんちぇすか・らぐーざ)はいずれもサンタクロースの衣装を纏って、恭也に近い位置で目を覚ましており、アンジェラス・エクス・マキナ(あんじぇらす・えくすまきな)も座布団を枕代わりにして起床するところであった。
「えぇっと……昨晩は何をしていたのかしら?」
 起きるなり、アンジェラスは誰に問いかけるともなく、そう口にした。
 が、その疑問はこの場の全員に共通している。
 おかしなことに、誰ひとりとして昨晩何があったのかを、明瞭に思い出せない。
 もちろんこれはリライターの効力によるものだが、そんなものが行使されたなどとは、知る由もなかった。
「あれ? 何これ、扉が開かないんだけど」
 休憩室から大浴場ロビーへと繋がる筈のドアが、びくともしない。シオンは二度三度、ドアを開けようと頑張ってみたが、全く開く気配がなかった。
「あいたたた……何だか、腰を強く打ったみたいですわ。昨晩、どこかから落ちたのでしょうか?」
 フランチェスカは顔をしかめながら、サンタ衣装に包んだ腰の辺りをさすった。
 この分だと、青痣ぐらいは出来ているかも知れない。
「それにしても、随分部屋の外が騒がしいですわね」
 腰の痛みに耐えながら、フランチェスカは眉間に皺を寄せた。
 確かに、大浴場からロビー方向に至る一帯で、大勢が争うような騒がしい音が響いている。
 しかもその中に、
「オアチャー! アタタタタタタタタタッ! オウリャアアアア!」
「返せ返せ返せ! 返しなさいってばー!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」
 という、フレデリカの獰猛な雄叫びが混ざっているではないか。
 一体、何事だろう。
 室内の全員が首を傾げたのも、無理はない。


     * * *



「ぶっは〜! いやぁ、良い酒だ。五臓六腑にしみわたるとは、まさにこういうことをいうのだな!」
 淵さん、見た目は子供なのに、物凄い呑みっぷり。
 同席している恭也さんも、日頃の鬱憤を晴らすように、がっばがば呑んじゃってる。
 でもふたりとも、アルコールには相当、強いみたいね。
「酒は呑んでも呑まれるな、だ。強いからといって過信は良くないぞぉ」
 若干呂律が怪しくなってきてる淵さんだけど、理性はしっかり残ってるんだから、大したものね。でも、それは恭也さんも同じか。
「おめぇのパートナーは、今どうしてんだ?」
「耀助殿と、呑んでおる筈だ。あちらはあちらで、楽しんでおる筈だが」
 とかいってたら、その傍からルカルカさんが耀助さんと肩を組んで、微妙に千鳥足で近づいてきた。
「はいは〜い、皆ぁ、思いっきし呑んでる〜?」
 ルカルカさんは、淵さん程には強くないのかな? かなりご機嫌に出来上がっちゃってるみたいだけど。
 少しだらしないルカルカさんの姿に、淵さんは僅かに眉を顰めた。
「耀助殿、申し訳ないがその酔っ払いの面倒を頼むぞ。明日はちと他の用がある故、少々羽目を外しておるようだ」
「へいへ〜い、お任せあれ〜」
 請け合った耀助さんも、少しばかり、怪しいかも知れないわね。
 ……怪しいどころじゃないか。何たってこの後、忍さんと一緒に女湯を覗きに行っちゃうんだもんね。
 まぁでも、この時点ではまだそんな不埒な行動には出てないから、淵さんがルカルカさんのことを頼んじゃったのも、理に適ってるといえば、そうなんだけどね。
 とかいってたら、同じテーブルでパートナー達と飲食してた唯斗さんが、ふらっと立ち上がった。
「もう引き揚げかい? 美女に囲まれて、羨ましい話だなぁおい」
「いや、少々酔い覚ましに風呂に浸かってこようかと」
 唯斗さん、そんなに酔ってる風でもないけど……あ、そうか。
 パートナーさん達と、何か約束があったのね。
 そんなこんなで、唯斗さんはパーティー会場を出て大浴場の方へ向かうんだけど、途中でキロス君を簀巻きにして担いでいる三月さんを目撃。
「……はて、あれは?」
 唯斗さんが小首を傾げるのも、まぁ当然っちゃあ当然ね。
 リナリエッタさん達に追い回された挙句、三月さんに簀巻きにされてしまったキロス君も不幸といえば不幸なんだけど、ここで唯斗さんに目撃された三月さんも、運がない方かしら。
 実はこの後、美羽さんが走り込んできて、
「ねぇ、怪しい奴を見かけなかった!?」
 って唯斗さんに訊いてきたんだけど、唯斗さん酔っぱらってたせいなのか、それとも純粋にそう思ったのか、三月さんが怪しい、って答えちゃったんだよね。
「ありがと!」
 美羽さんはこの時、三月さんを非リア充エターナル解放同盟のメンバーだと勘違いしちゃったみたい。
 いってしまえば、唯斗さんの証言が三月さんの運命を変えたといっても良いわね。
 そして翌朝になって三月さんが簀巻きになって発見されたんだけど、まぁ、こういう経緯だったって訳ね。

 唯斗さんがエクスさんの案内で大浴場の混浴ゾーンにやってきたのは、それからすぐ後のことだった。
 まぁ、お互い裸の付き合いするぐらいなんだから、それなりに親しいんだろうけど、何かこう、変に興奮しちゃうのは私だけかしら?
 しかも、よ。
 広い脱衣所兼ロッカールームでは、リーズさんとプラチナムさんのふたりが、『プレゼント』って朱書きした大きなリボンで自分を縛って、そこに居たもんだからね、私でなくても、うわぁってドン引きするよね。
 冷静なのは、唯斗さんとエクスさんぐらいじゃないかしら。
「いや……これはどうも、参ったな」
 頭を掻く唯斗さん。参ったな、じゃないでしょ。
 でもね、こういうリア充っぽいひとには得てして、不運が待ち受けているものよ。
「うっふふふふふ……唯斗お兄ちゃん、見つけた〜なの」
 いつの間にそこに潜んでたのか知らないけど、ハツネさんがブラックサンタの格好で、混浴ゾーンの浴室内から飛び出してきた。
「これはこれは……そのブラックサンタの衣装、よく似あってるよ」
「ふふふ、そりゃそうよねぇ……だって唯斗お兄ちゃん、いけないことをしたんだもの……いけないことをしたひとにはお仕置きが待ってま〜す、なのぉ」
 唯斗さん、いまいちピンと来てないみたいだけど、ハツネさんは容赦なかった。
 まぁ、日頃の行いってやつじゃないかしら。
 ハツネさんも余程、思うところがあったのね。唯斗さんを簀巻きに仕上げる手際の良さが、あまりにも滑らか過ぎるのが全てを物語っているわ。
 その間、プレゼントは私状態のリーズさんとプラチナムさん、為す術もなく、ただぽか〜んとその惨状を見ているしかなかったみたい。
 でもね、こんなのはまだ序の口よ。
 ハツネさんが唯斗さんを簀巻きに仕上げて、意気揚々と混浴ゾーンを去った後に、奴らが現れたの。
 そう……非リア充エターナル解放同盟の奴らが、ね。

 シオンさんとフランチェスカさんがこの夜、最も危険なゾーンと化す女湯近辺で、プレゼントを配るのと回収するのと、同時にやってたってのが、おかしな話よね。
 しかもシオンさん、配ってたプレゼントって、秘宝じゃないの、それ。
 フランチェスカさんが、
「ですから、それは駄目なんですって」
 って注意しても、
「……ぇ、アレ、プレゼントじゃなかったの? 知らなかったわぁ」
 なんて白々しくいい訳してるところを見ると、もしかして確信犯?
 ただね、受け取った相手が、べろんべろんに酔っぱらったゆかりさんだったってのも、話をややこしくする一端だったようね。
 ゆかりさん、折角貰ったプレゼントをフランチェスカさんに取り上げられたものだから、執拗に絡みまくってる。
「こらぁ〜、他人様のプレゼントを奪うたぁ〜、何事だぁ〜。国軍の名に於いて〜、逮捕だぁ〜」
 流石にフランチェスカさんも困り果てて、アンジェラスさんに助けを求めたみたいなんだけど、アンジェラスさんは全く手を貸す気はなかった。
「あなた、ご自分の力でどうにかなるんじゃないかしら?」
 とか何とかいって、ゆかりさんに絡まれまくるフランチェスカさんを放置。
 ちょっとこのふたり、日頃のコミュニケーションをもっと密にする必要があるんじゃないかしら。
「あ、ちょっと待ってください……今、フレデリカさんから連絡が」
 そう、私はこの時、女湯の屋内ゾーン内に非リア充エターナル解放同盟が乱入してきたって情報を入手したから、フランチェスカさんに偵察をお願いしたの。
 もし連中がサンタの秘宝を手にしたら、大変なことになっちゃうからね。
 かなり早い動きで各部屋毎に廻って、プレゼント回収に活躍してくれたフランチェスカさんだから、きっと大丈夫だって思ったんだけど……ちょっと甘かったみたい。
「分かりました、早速、調べてきます」
 酔っ払いのゆかりさんをシオンさんとアンジェラスさんに無理矢理押し付けて、フランチェスカさんはソリ型仕様の小型飛空艇に乗って、女湯の屋内ゾーンへと飛び込んでいった。

 この時、私の時計は2022年12月24日の……あれ? 何時頃だっけ?。