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チョコレートの日

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第3章 楽しくチョコを作りましょう!


 屋上の一つしかないテントを占領して、斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)達はチョコを作っていた。
 テントの占領にあたり、ハツネはパラ実生達とこう約束した。
「ハツネの特製チョコをあげるの♪」
 パラ実生達はあっさりテントを譲った。
 今頃彼らは期待で胸を熱くしながら寒さに震えていることだろう。
 チョコを湯煎にかけている伏見 さくら(ふしみ・さくら)は始終笑顔だ。
「お友達と一緒に料理するなんて初めてかも。楽しいな」
「さくらちゃんは誰にあげるの?」
「えへへ♪ お世話になってる利秋さんと新兵衛さんにです」
「ああ、ニートとクマの? ……変わってるの」
「そんなことはないですよ! 利秋さんは家で寝てることが多いですけど、家事手伝ってくれますし、新兵衛さんはあたしのこと気にかけてくれるし」
「そうなの」
「うん。二人とも、大好きです」
 さくらが幸せそうなので、ハツネはそれならいいと思った。
 さくらのチョコは完成すると、葉桜パウダーをホワイトチョコに混ぜたボール型の桜チョコになる。
 そして次にハツネが声をかけたのは天神山 清明(てんじんやま・せいめい)
 何やら怪しく笑いながらチョコを型に流している。
「後は固まるのを待つだけです! ふっふっふ……これぞ、魔科学を極めた清明のチョコなのです!」
 胸を張る清明の傍にハツネは唐辛子の袋を見つけた。
 手に取って中をのぞくと、中身はほとんど残っていない。
「これ、使ったの? 辛いチョコあげるの?」
「……辛い? チョコが辛いわけ……ああっ!」
 清明はハツネの手から袋を奪い取ると焦った声を上げた。
「うっかり唐辛子パウダーを混ぜてしまった!?」
「……本当に変わってるの」
「ハツネちゃんはもうできたの?」
「できたよ。バレンタインだから、ハート型のチョコなの」
「かわいいですね!」
 綺麗なハート型のチョコを見てにっこりしたさくらの視線が、ふと、作りかけらしきチョコへと移る。
「これは?」
「これは、これからひと工夫するの。噛むと弾ける特製のかんしゃく玉を入れるの」
「危なくないの……?」
「さ、さくらちゃん、それはね!」
 二人のやり取りに気がついた清明が慌ててさくらを呼んだ。
「未来の義理チョコなんですよ! 未来で流行ってるユニークチョコで、清明が教えたのです!」
「そうだったんですか。もらった人はちょっとびっくりで楽しいチョコですね」
 さくらがあっさり信じてくれたことに、清明はホッと胸をなで下ろした。
 清明は、ハツネがチョコに爆弾を混ぜ込んでいることをちゃんとわかっている。
 未来にだって、こんな物騒なお菓子はない。
 けれど、それを知ってハツネがさくらに嫌われるのは困るから、とっさに嘘を言ったのだ。
 ──大丈夫、明日になればこの危険なチョコのことなど忘れてくれてます!
 そう信じて。
 実は、三人のやり取りをずっと見ていた加能 シズル(かのう・しずる)
 とうとう耐えかねたのか、ハツネの傍に寄るとさくらには聞こえないように小さな声で言った。
「本当にあげるの?」
「うん。みんなをリア充にしてあげるの」
「……リア充?」
「リア充って、爆発すればなれるんでしょ? 盛大に爆発してリア充になってもらうの。だって、バレンタインだもの」
「そう……。でも、リア充って、ちょっと違うよ」
「そうなの? でも、ちょっとくらい違っててもいいの。さあ、できた! さくらちゃん、清明、余ったチョコがあったらちょうだい、なの」
「余ったって言いますか……ちょっと失敗しちゃったものですが。あ、でも食べれないことはないですよ。……たぶん」
「あたしも……」
 二人が差し出したのは、テロルチョコと化した唐辛子チョコとゲル状になった桜チョコだった。
 ハツネがそれらを箱に詰めた時、若葉分校生のブラヌ・ラスダーが入ってきた。
「あれ? 何だおまえら」
 ブラヌはハツネ達が来る前に下の階に行っていたので、事情を知らなかったのだ。
 しかし、ハツネが抱える箱の意味は素早く理解した。
「もしかして俺らにか!? そっか、作ってるとこ見られるのが恥ずかしかったんだな?」
 それであいつら外にいたのか、と勝手に納得するブラヌ。
 そして、期待の目を向けられたハツネは、にっこりしてブラヌに箱を渡した。
「お兄さん達に、特製チョコなの♪」
「マジで? やったー! この瞬間を待ってたぜ! ありがとな! まずは吉永番長に食べてもらうか!」
 ヒャッハー! と大喜びしながらブラヌはテントを飛び出していった。
 無邪気にくすくす笑うハツネ。
 シズルが止める間もなかった。
 彼女は、『吉永番長』へ静かに祈りを捧げた。