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【4周年SP】初夏の一日

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【4周年SP】初夏の一日

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12.その幸せをずっと

 エリュシオンに存在するハーフフェアリー達の村へのツアーは、大好評だった。
 とくに宿泊を伴うツアーには、多くのカップルが参加していた。
 パートナーにこの村のことを聞いていた南條 託(なんじょう・たく)も、結ばれたばかりの南條 琴乃(なんじょう・ことの)と共にツアーに参加し、この地を訪れていた。
 ツアーのプログラム通り、大木の上のレストランで昼食をとって、湖でボートに乗り、ガラス工芸を楽しんで。
 そして、自由時間が訪れた。
 託と琴乃は宿で一休みして、夕食をとった後。
 日が暮れてから外へと出た。
「期待以上に綺麗でいいところだねぇ」
「ホント、すっごい綺麗! 妖精さん達も可愛い〜っ」
「琴乃危ないって」
「時間がもったいないもん。あっちの方行ってみたーい!」
「花畑の方だね」
 走り出した琴乃の手を掴んで、彼女を捕まえて。
 それから、託も一緒に走った。琴乃が行きたい場所へと。

 花畑に着いてからは、2人はゆっくりと散歩する。
 色とりどりの花達。そしてちらちらと見えるのは――。
「蛍が、いるね」
 小さな声で琴乃が言う。
「うん、可愛い光だね」
 2人は手を繋いで、ゆっくり花々と蛍を観賞する。
 ふと気づくと。
 辺り一面、赤い花ばかりになっていた。
 そして2人の前には、小さな洞窟があった。
「……ガイドさんの話、覚えてる?」
 琴乃の言葉に、託は首を縦に振った。
 この洞窟は、ハーフフェアリーが生まれた神聖な場所、2つの命が、望みあって1つになったと場所と言われているそうだ。
 そして、周囲に咲くこの赤い花は『愛の花』と呼ばれている。

 草の上に腰かけて、2人は幻想的な景色を堪能する。
 蛍達が、赤い花に光の滴を落として、愛の花へと成長させているような。
 そんな感覚を受けていた。
「どこもきれいだったけれど……ここが今日一番かな」
 託の言葉に、琴乃は「うん」と強く頷いた。
「ここくらい綺麗な場所は、きっと世界中を探してもそんなにないと思うんだ」
「凄く感動する綺麗さ、だよね……胸がじーんとするような」
「愛の花に愛の歌、ここは愛で溢れているねぇ」
 少しの間、無言で景色を見て。
「昼間は妖精さん達が可愛く踊って歌い、夜は蛍達が踊ってくれる。お花達はそれに応えるように美しく、綺麗に育っていく……」
 そう呟きながら、琴乃は微笑みを浮かべていた。
「はい、僕の愛の形」
 託は作っていたものを、琴乃に差し出した。
「えっ?」
 ちょっと驚きながら、琴乃はそれを――愛の花で作られた、花飾りを受け取った。
「ふふ、ありがと……っ」
 そしてすぐに、自分も愛の花で飾りを作っていく。
「私の愛の形は、託の胸に」
 言って、琴乃は作った愛の花の花飾りを、託の胸ポケットに挿した。
「ありがとう、琴乃」
 礼を言って、託は自分の作った花飾りを琴乃の髪に挿す。
 途端、彼女が花が開く瞬間のような、ふわっと可愛らしい笑みを浮かべる。
「ふふ……昼間教えてもらった歌、覚えてる?」
「サビの部分だけなら……」
 微笑み合った後、2人は昼間教えてもらった『愛の歌』を口ずさんだ。
「……いい歌だよね、なんかこう、愛っていう想いがぎゅっと詰まっている感じ、かな」
「うん、なんかね狂おしい愛とは違ってね、温かくて、優しい気持ちになる愛なんだよね」
「そうだね」
 立ち上がって、託は琴乃に手を伸ばす。
 琴乃は託の手を掴んで立ち上がる。
 そして、手を繋ぎ直して歩き出す。
「ねえ、琴乃」
「ん?」
「これからも二人で……たまには二人じゃなくてもいいけれど、色々なところに行こうね」
「うん、行こうね!」
 歩きながら、顔を合せて微笑み合う。
「今日ぐらい素敵な場所はなかなか見つけられないだろうけれど……それを探すこと自体が楽しいだろうから」
「綺麗な場所を探す旅、面白そう!」
「そもそも、二人でやれることなら何でも楽しいだろうけれどね」
「ふふ、そうかも」
 琴乃は繋いでいる手をぶんぶんと振る。子供の様に。
 それは軽快で、気持ちが明るくなるリズムだった。
 琴乃の存在を愛おしく感じながら、託は言う。
「今日が幸せで、
きっとこれからも幸せで……
その幸せをずっと大事にしようと思うんだ」
 自分の方に目を向けた彼女に。
「愛してるよ、琴乃」
 そう、微笑みかけたら。
 彼女の顔にまた、花が咲いた。
 託への愛を示す花が。

 〜愛の花の中で〜