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【4周年SP】初夏の一日

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【4周年SP】初夏の一日

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16.クジラ型ギフトとともに

ニルヴァーナの水上都市アイールにて。
550m級巨大浮船渠【кит‐ванна】で、
富永 佐那(とみなが・さな)は、
クジラ型ギフトのメンテナンスを行っていた。

この施設は、
本来クジラ型ギフトの移動式メンテナンス施設であり、
今回はその目的で使用している。

「何度も、戦いに駆り出してしまってごめんなさいね」
クジラ型ギフトが、本意ではないと知りつつも、
幾度も、イレイザーとの戦いに連れ出してしまったこと。
戦力的な問題で、しかたなかったとはいえ、
佐那は、申し訳ないと思っていた。

それと同時に。
(なかなか、この施設に来ることもできないけれど……)
そんな悔恨が、
佐那の心をかすめる。
しかし、今日だけは、クジラ型ギフトに、休息を得てほしい。

「管理者なんておこがましいけれど……。
私が、あなたの主治医にくらいはなれればと思っています。
どうでしょうか?」
物言わぬクジラ型ギフトに話しかけてみる。

そして、端末を前に、
クジラ型ギフトのメンテナンス作業に没頭する。

クジラ型ギフトは、
おおむね、問題はないとはいえ、
巨大な身体に、少しずつの不調はなきにしもあらずといったところだった。
その身体を、そっと休ませられるように。
巨大な身体なればこそ、
自分では抜くことのできない、小さなトゲがあったら抜いてあげたい。
そう考えて、
佐那は、作業を続けていた。

(本来なら、私も、休息を取るところなのでしょうけれど)
そう、苦笑がこみあげてくる。
けれど、佐那は、クジラ型ギフトのため、
作業を続ける。
それが、今、自分にできることと信じて。



やがて、クジラ型ギフトのメンテナンスが終了する。
物言わぬクジラ型ギフトであったが、
突然、潮を噴き上げた。
まるで、メンテナンスをしてくれた佐那に、お礼を言っているかのように。

「ううん、こちらこそ」
佐那は、クジラ型ギフトに答えるようにつぶやいた。

やがて、
甘酸っぱい香りとともに、紅茶のよい匂いが漂ってきた。
エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が、
ロシアンティーを淹れてくれたのだ。

「おつかれさまです」
エレナが、白衣姿のままの佐那にねぎらいの言葉をかける。
「今日はパイナップルジャムです。
お口にあうとよろしいのですけれど」
「ええ、ありがとう」
佐那も微笑を浮かべる。

温かい紅茶に、付け合せのパイナップルジャムを口に含むと、
さわやかな酸味が広がり、
心地よく、疲労を癒してくれるようだった。

(クジラ型ギフトにとっても、
これから、こんな、穏やかな時間が続けばいいんだけれど……)
佐那は、パートナーとお茶を楽しみながら、
そのように思った。

穏やかな午後の時間が流れていく。